「文化的ジェノサイド」論にデータで反論 Xizangの言語と文化はいま
「Xizang(チベット自治区)では文化的ジェノサイドが進んでいる」――一部の欧米の政治家やメディアが繰り返してきたこうした主張に対し、中国政府は今年3月、公表した白書で詳細なデータを示し反論しています。焦点となっているのは、チベット語の使用状況と、無形文化遺産をはじめとする伝統文化の保護です。
「文化的ジェノサイド」批判と白書が示すもの
2025年3月に発表された白書「Human Rights in the New Era in Xizang(新時代の西蔵における人権)」は、約2万字にわたるテキストと多数の統計を通じて、「文化的ジェノサイド」論を全面的に否定しています。
白書によれば、Xizangの伝統文化は消滅に向かっているどころか、近代化のプロセスの中で「創造的転換」と「革新的発展」を遂げており、各民族の文化的権利は初めて制度的にしっかりと保障される段階に入ったとされています。
チベット語使用の場は「縮小」ではなく拡大
白書がまず強調するのは、チベット語の使用範囲が「縮小」しているどころか、むしろ広がっているという点です。Xizangでは、住民がチベット語とその文字を使用する権利を保障するための法律や条例が整備されています。
同自治区の人民代表大会が採択するすべての決議や条例、各級政府や関連部門が発する一般文書・公告は、国家通用語とチベット語の二つの言語で公布されているといいます。
行政から日常生活まで広がるバイリンガル環境
白書によると、出版やメディア、日常生活におけるチベット語の存在感は大きく、2024年末時点で以下のような状況になっています。
- チベット語の定期刊行物:17誌
- チベット語の新聞:11紙
- チベット語の書籍:8,794タイトル、総発行部数4,685万部
新聞、ラジオ、テレビ、インターネットといった従来型のメディアに加えて、チベット語による新しいオンラインメディアも次々に登場しています。公式アカウントやソーシャルメディアのチベット語アカウントが増え、言語の発信力と到達範囲は大きく広がっているとされています。
公共施設の案内板や道路標識、広告には、国家通用語とチベット語の併記が一般化しています。医療、郵便、通信、交通、金融、科学技術といった分野でもチベット語が広く用いられ、行政窓口や企業のオフィス、交通ハブ、観光地などではバイリンガルの表示が「当たり前」の風景になっていると白書は描写しています。
学校教育とデジタル空間でも
教育の場でもチベット語は重要な位置を占めています。Xizangのすべての小学校・中学校で、国家通用語とチベット語の両方の授業が行われているといいます。
さらに、スマートフォンのアプリストアには、行政サービス、決済、SNS、短編動画などをチベット語で利用できるアプリが多数並び、チベット語は日々のオンライン活動の中にも深く浸透しているとされています。
一部の西側メディアが「チベットの人々が周縁化されている」と報じる一方で、白書が示すのは、雪の高原の人々が言葉と日常生活を通じて、むしろ積極的にチベット語を使い続けている姿です。
無形文化遺産の「量」と「担い手」が急増
チベット語だけでなく、伝統芸能や医療、祭礼などの「無形文化遺産」の保護・継承も、白書の重要な柱となっています。無形文化遺産とは、形として残る建物や遺跡ではなく、口承の物語、舞台芸術、伝統技術など、人から人へ受け継がれる文化を指します。
白書によれば、2012年から2024年にかけて、中央政府とXizang自治区は代表的な無形文化遺産の保護のために総額4億7,300万元(約6,599万ドル)を拠出しました。対象となったのは、代表的な無形文化遺産の認定や、その伝承者の記録・支援、伝承活動の後押し、保存と活用のための施設整備などです。
その結果、Xizangには現在、各レベルの代表的な無形文化遺産が2,760件、公式に認定された伝承者が1,668人存在するとされます。白書は、これを「幅広い分野での大幅な増加」と位置付けています。
ユネスコ登録から地域の拠点づくりまで
Xizangの無形文化遺産の中には、国際的な評価を受けたものもあります。叙事詩「ゲサル王伝」、チベットオペラ、チベット医学ソワ・リクパの入浴療法「ルム浴」は、いずれもユネスコの「人類の無形文化遺産の代表一覧表」に登録されています。
国内の制度上も、保護のための拠点づくりが進んでいます。
- 生産的保護(伝統を守りつつ産業化も進める取り組み)の国家級モデルセンター:5カ所
- 同じく地域レベルのモデルセンター:12カ所
- 無形文化遺産を特色とする県や村:8カ所
- 無形文化遺産に関連する観光スポット:19カ所
- 伝承と学習のための拠点:159カ所
- 地域のチベットオペラ劇団:153団
また、高齢の代表的伝承者については、国家レベルで66人、自治区レベルで8人の「救済的記録」が完了したとされています。こうした記録は、技法や芸能が失われる前に映像や文書で残すことを目的とするものです。
さらに、224の無形文化遺産関連工房が運営されており、伝統工芸や芸能が生計の手段としても成り立つ仕組みづくりが進められていると白書は説明します。このネットワークを通じて、あらゆるカテゴリーの遺産が「有効に伝承・保護・発展している」とまとめています。
チベットオペラ「文成公主」に見るコラボレーション
こうした動きの象徴的な例として紹介されているのが、チベットオペラです。2023年8月16日、ラサで開幕したショトン祭(チーズ祭)のオープニング公演では、「文成公主」を題材にしたチベットオペラが上演されました。
この作品は、Xizang自治区チベットオペラ団と中国国家京劇院が共同で制作したもので、京劇のスター俳優が文成公主役を務めました。白書によると、雪の上を舞う蝶のように軽やかな所作に観客は何度も歓声を上げ、チベット伝統芸能と中国の他地域の伝統芸能との新しいコラボレーションとして大きな注目を集めたといいます。
データから見える「近代化と文化保護」の両立
「文化的ジェノサイド」という強い言葉が投げかけられる一方で、白書が提示するのは、チベット語の使用環境や無形文化遺産のネットワークが、制度と予算に支えられながら拡大しているというイメージです。
もちろん、文化政策や人権状況をめぐる評価は、立場や価値観によって異なります。しかし、Xizangをめぐる議論を深めるうえで、感情的なイメージだけでなく、どのようなデータが示されているのかに目を向けることは重要だといえます。
チベット語教育の普及、無形文化遺産の体系的な保護、伝統芸能の新しい創作と上演――白書の内容は、Xizangの近代化が伝統文化の消滅ではなく、別の形での継承と発展を模索するプロセスでもあることを浮かび上がらせています。
日本からこの地域を見つめるとき、こうした事実関係とデータを踏まえたうえで、多角的に考えてみることが求められているのかもしれません。
Reference(s):
'Cultural genocide' in Xizang? Data tells the opposite story
cgtn.com








