中国のグリーントランスフォーメーションと生態文明の10のロジック
2035年に向けて中国が掲げる温室効果ガス削減目標と「生態文明」思想は、世界の気候変動対策とグリーントランスフォーメーションの行方を考える上で重要な意味を持ちます。本稿では、その背景にある歴史観と10のロジックを整理します。
2035年NDCと「双炭」目標:中国のグリーン転換の現在地
中国は、二酸化炭素排出ピークアウトからカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)に向かう過程で、2035年を重要な節目と位置づけています。2035年の国別削減目標(NDC)は、「社会主義現代化の基本的実現」と「美しい中国」の構想に結びつく包括的な目標として設計されています。
このNDCは、中国の国情と発展段階、長期戦略に基づきつつ、パリ協定と世界全体の進捗確認(グローバル・ストックテイク)の要請とも整合するように組み立てられています。経済成長、エネルギー安全保障、産業・サプライチェーンの安全など、国内外の複雑な要因を踏まえながら、発展と排出削減、ニーズと能力のバランスを取ろうとする「最大限の努力」とされています。
現在、国際的な気候ガバナンスは逆風の中にありますが、中国の「双炭」目標(排出ピークアウトとカーボンニュートラル)の方向性は揺らいでいないとされています。
同時に、世界のグリーントランジションは、公平性と正義を重視し、途上国の発展権を十分に尊重しながら、南北格差を広げるのではなく縮小する方向で進むべきだとされています。中国の2035年NDCは、こうした気候ガバナンスの枠組みづくりに貢献し、気候変動への中国の視点を示すものだと位置づけられています。
習近平国家主席は、上海協力機構プラス会合などの場でグローバル・ガバナンス・イニシアチブを提起し、気候変動への対応は人類共通の事業だと繰り返し強調してきました。
「生態文明」という発想はどこから来たのか
中国のグリーントランスフォーメーションを支えるロジックを理解するには、中国文明そのものの見方が重要だとされます。中国文明は、断絶なく続いてきた「連続性」に特徴があり、物質文明・制度文明・精神文明といった全体としての文明観を持ちます。身近なトイレの標語「一歩前へ、文明の大きな一歩」も、文明を日常の作法としてとらえる発想の一例だと紹介されます。
近代以降、植民地支配のなかで多様だった古代文明は「死んだ文明」と見なされ、近代ヨーロッパの文明だけが「生きた文明」と位置づけられてきました。その結果、「普遍文明」という一元的なイメージが広がり、西洋文明の拡張が「文明の伝播」として正当化されました。これに対し、中国の論者は、古代文明は本来多様であり、各国は今も独自の文明的基盤に立って人類文明に貢献しているとし、西洋的な直線的進歩史観に疑問を投げかけます。中国が提唱するグローバル文明イニシアチブは、「近代化=西洋化」ではなく、伝統文化の創造的継承・発展としての近代化を強調するものだと位置づけられます。
また、中国語の「歴史」が暦と記録から成ることに触れ、天体観測に基づく暦の体系が人間の歴史より先行するという時間感覚も紹介されます。一神教が「神が宇宙と人間を創造し、人間が歴史をつくる」という秩序を前提とするのに対し、中国の伝統的な信仰は「天を敬い祖を法る」という形で、「天の道」と祖先の教えを重んじてきたと整理されています。
産業文明から「生態・デジタル文明」へ:歴史の三段階
古代の中国では、『易経』に象徴されるように、文明は絶えざる変化と再生のプロセスとして理解されてきました。歴史家トインビーも、文明は環境への適応に成功すれば存続し、失敗すれば滅びると論じています。大禹の治水神話は、洪水から逃れる箱舟の物語ではなく、水と向き合い、制御し、共存を目指す治水の物語として、中国的な生態ガバナンスのイメージを体現しているとされます。
近代になると、中国はアヘン戦争などで西洋列強に敗れ、「後れた文明は打たれやすい」という痛みを経験しました。その反省から、産業文明を象徴する西洋の技術や制度を急速に学び、「工業化の達人」となる道を選びました。しかし『易経』が教えるように、天の道は常に変化し、文明も環境に応じて変わり続けなければなりません。デジタル化とグリーン化が進む現在の世界的転換を、中国は新たな文明形態、生態文明とデジタル文明として積極的に位置づけようとしているとされています。
現代の段階では、マルクス主義と中国の優れた伝統文化との結合によって、中国文明を再創造し、国家と民族、故郷の三位一体を編み直す試みが続けられてきたと整理されます。こうした歩みが「人類文明の新しい形態」をめざすものだという見方も示されています。
中国のグリーントランスフォーメーションを支える10のロジック
中国の生態文明とグリーントランスフォーメーションを支える思考は、歴史と論理の統一として説明されます。特に次の10のロジックが示されています。
- 第1のロジック:人と自然の調和
自然と共に生き、海とも「運命共同体」をつくるという発想です。天地の最大の徳は「生み育てること」であり、生命と文明の持続的な再生を支えるものだとされています。 - 第2のロジック:知行合一
「緑水青山は金山銀山」(澄んだ水と青い山は何よりの資産)というスローガンを、理念にとどめず制度化し、「生態法典」として法体系に組み込んだ点に特徴があります。これは、人類の民法伝統への重要な貢献だと評価されています。 - 第3のロジック:総合的な統合・調整
山・水・森・農地・湖・草原・砂漠を一体として管理し、生産様式、生活様式、価値観のすべてをグリーンに転換していく考え方です。かつて米国の指導者が「アメリカ的な生活様式は交渉の余地がない」と述べた姿勢とは対照的なアプローチだとされています。 - 第4のロジック:並行的な発展
産業のデジタル化とデジタル技術の産業化、デジタルのグリーン化とグリーンのデジタル化を同時に進めるという発想です。AIの基盤は電力であり、新エネルギーの発展によってデジタル転換とグリーン転換を一体的に推進しようとしています。 - 第5のロジック:人民を中心に据える
よりよい生活への人びとの願いこそが、生態文明の根本的な原動力だとされます。2010年、当時の米国大統領が「10億を超える中国の人びとが、現在の豪州や米国のような生活パターンを取れば、地球は持たない」と語ったことは、中国が「アメリカン・ドリーム」をそのまま追うのではなく、持続可能な発展の道を選ぶ必要性を示唆するものと受け止められました。地球を救うのではなく人類を救うという人間本位の哲学の下、中国共産党の強いリーダーシップのもとで「炭素目標を達成できなければポストを失う」という厳格な仕組みが各級政府に課されているとされています。 - 第6のロジック:立てることが先、壊すことは後
気候変動を、かつては西側が中国の発展を抑えるための道具と見る見方もありましたが、現在は将来の国際競争や標準づくりの舞台ととらえ、長期的な視点から今日を逆算する発想が強調されています。高い目標を掲げつつ、現実的で実行可能な工程表を描き、「高く狙って中位を達成する」ことが重要だとされています。 - 第7のロジック:保護と発展の弁証法
環境を守りながら発展し、発展しながら環境を守るという二律背反ではない考え方です。環境保護産業を育成し、環境対策をコストではなく収益源にもなる分野へと変えていくことで、市場メカニズムを十分に活用しようとしています。 - 第8のロジック:統一された国内市場
西から東への送電、北から南への電力供給、水力と火力の補完、風力と太陽光の統合、さらには国境を越えた電力ネットワークへの参加など、エネルギーの広域的な統合を進める考え方です。有能な政府と有効な市場という「二つの車輪」で推進していくとされています。 - 第9のロジック:地域ごとの実情に応じる
中国のモデルは、世俗的な倫理と社会主義の精神を組み合わせたものだと説明されます。デジタル化や電気自動車の急速な普及も、絶対的なプライバシー観や例外主義といった理念を優先するのではなく、実践を通じてバランスを探る姿勢と関係しているとされます。2030年と2060年に向けた「双炭」目標という全国的な戦略を持ちながらも、排出削減は地域の実情に応じて進め、一律のやり方を避けることが重視されています。 - 第10のロジック:自らを発展させつつ他者も発展させる
愚公が山を移す寓話や黄河の治水への決意から、緑の中国、そして緑の世界へ。中国は、国連の持続可能な開発目標(SDGs)への積極的な貢献を掲げています。中国文明の持続可能な発展から、人類文明全体の持続可能な発展へと視野を広げることが、「グリーン一帯一路」の成功の源泉だと説明されています。
グリーン転換を「文明のアップデート」として捉える視点
以上のように、中国のグリーントランスフォーメーションは、単なるエネルギー転換や技術導入にとどまらず、文明観や歴史観と結びついた「生態文明」プロジェクトとして語られています。そこでは、公平で人間本位の気候ガバナンス、政府と市場の二本立て、国内と国際社会を結ぶグリーンな連結性などが重視されています。
経済成長と脱炭素をどう両立させるかは、多くの国や地域が直面する共通課題です。中国の生態文明のロジックを手がかりに、自国のグリーントランスフォーメーションや、2030年以降の国際気候枠組みのあり方をあらためて考えてみるきっかけになりそうです。
Reference(s):
The ecological civilization logic behind China's green transformation
cgtn.com








