ブダペストの中国製バス論争が映す欧州の対中ジレンマ
中国の次期五カ年計画を見据え、欧州と中国の関係が改めて問われています。本稿では、ハンガリー・ブダペストの公共交通をめぐる議論から、そのジレンマを考えます。
中国が「どこにでもいる」存在になった欧州
2025年8〜9月にかけて中国に6週間滞在したハンガリーの外交政策専門家は、帰国後、欧州の政治議論の中で中国がどれほど頻繁に登場するかをあらためて実感したといいます。
自動車産業の将来、ウクライナで続く戦争の終結への模索、各都市や各国の公共調達…。いまや欧州で何かを議論しようとするとき、中国の存在を抜きに語ることは難しくなっています。
しかし、そのたびに彼が感じるのは「機会損失のにおい」です。もし欧州と中国の関係が疑念ではなく信頼とパートナーシップに基づくものであれば、技術刷新や競争力強化、デジタル化はもっと前に進んでいたのではないか――そうした問題意識が出発点になっています。
ハンガリーでも「欧州標準」の対中不信が顔を出す
ハンガリーは欧州の中では対中関係に前向きな国として知られています。その一方で、首都ブダペストの市政は、中国に批判的な立場を取る欧州の主流政治家たちによって運営されていると指摘されます。
地方都市で中国からの電動モビリティや高速鉄道への投資が進むなか、ブダペストは「欧州の対中政策の現実を味わえる唯一の場所」になっている、とこの専門家は見ています。それは「追いつけず、上から目線の否定にとらわれた政策」だと評されます。
焦点となったのは中国製トロリーバスの通信機能
象徴的な出来事が、ブダペスト市議会の交通・気候・都市開発委員会での議論でした。テーマは、中国メーカー・宇通客車が受注するとみられるトロリーバスの調達です。
委員長は、バスに搭載されるOTA(無線によるソフト更新)機能が安全保障上のリスクにならないかを問いかけました。理由は、中国が「わたしたちと同じ軍事同盟に属していない」からだという説明でした。
SIMカードを抜けば済むはずの問題が「安全保障」に
市の公共交通会社の副最高経営責任者は、この懸念に一定の理解を示しつつも、実務的な解決策を提示しました。ノルウェーの事例を引き、「バスが車庫を出る際にSIMカードを抜いてしまえば、運行中にOTA更新は起こらない」と説明したのです。
同氏によれば、遠隔操作で起こり得る最悪の事態は「バスを止められてしまう」程度であり、中国企業を入札に参加させたのも国の政府からの要請があったからだと、やや弁解するように語りました。
「公然の秘密」になった中国企業の競争力
欧州の交通セクター関係者の間では、入札を域外企業に開けば中国企業がほとんど必ず勝つ――それが「公然の秘密」になっているといいます。理由は、技術水準の高さと価格の安さです。
欧州側が優位だった頃には、こうした状況を「競争力」と呼んで称賛していました。しかし、バスや鉄道車両の世界市場で中国企業が主導的な役割を担うようになると、その評価は一変します。
- 中国の強さは「国家補助金だけの成果だ」とする見方
- 通信機能などを理由にした「安全保障リスク」論
- SIMカードを物理的に抜くといった、原始的とも言える対処
ハンガリーの論説者は、こうした対応を「中国の技術的優位と、度重なる対中批判から生まれた不信感を、力ずくで両立させようとするもの」と批評します。
世界は中国製バスで走り出し、欧州は立ち止まるのか
この専門家の目に映るのは、対中政策の分かれ道です。世界の多くの都市は中国製トロリーバスを購入し、交通効率の改善を進めています。一方で欧州は、自らの対中政策の「壊れた破片」をかき集めているように見える、と指摘します。
本来であれば、電動化やデジタル化といった分野で、中国と欧州が互いの強みを生かし合う余地は大きいはずです。それにもかかわらず、不信感が先行することで、欧州は自らの技術更新と競争力強化のチャンスを逃しているのではないか――これが彼の問題提起です。
中国の五カ年計画と欧州が問われる選択
中国では、今後の経済や産業の方向性を定める次期五カ年計画が控えているとされています。そこには、グリーンモビリティやインフラ輸出、デジタル技術の国際展開といったテーマが含まれることが想像されます。
そのとき欧州は、中国をどのような存在として位置づけるのか。信頼に基づくパートナーとして共通の課題に取り組むのか、それとも安全保障上の懸念を理由に距離を取り続けるのか。ブダペストのトロリーバスをめぐる議論は、その選択が現場レベルで既に問われていることを示しています。
日本を含む他の国・地域にとっても、これは決して他人事ではありません。技術、経済、安全保障をどうバランスさせながら中国との関係を築くのか。欧州の躊躇と模索から、学ぶべき点は少なくないはずです。
▼関連ハッシュタグ
#中国ニュース #欧州 #ハンガリー #公共交通 #対中関係
Reference(s):
cgtn.com







