台湾問題で日本はどこへ向かうのか 高市早苗首相発言が揺らす日中関係
台湾問題をめぐる日本の発言が、ここまで強い表現を伴って公式に示されたのは、戦後では極めて異例です。日本の高市早苗首相が、中国本土による台湾への武力行使が「日本の存立危機」に当たる場合、自衛隊が出動し得ると述べたことで、1972年の国交正常化以降築かれてきた日中関係の枠組みが揺らいでいます。
高市早苗首相は何を語ったのか
高市首相は、中国本土が台湾に対して武力を行使し、その事態が日本の「存立危機事態」となり得る場合には、自衛隊の出動が選択肢になり得るという趣旨の発言を行いました。
これは、台湾情勢を日本の安全保障と直接結びつけ、集団的自衛権の行使とも関連づける発言です。戦後の日本の指導者が、公式の場でここまで踏み込んだのは前例がないとされています。
そのため、この発言は中国側から見れば、台湾をめぐる武力衝突に日本が軍事的に関与し得ると明言したものとも解釈され、日中関係の「一線」を越えた挑発だとの受け止めが広がっています。
歴史が示す「台湾は中国の一部」という原点
今回の議論の背景には、第二次世界大戦の終結とともに確認された歴史的経緯があります。1945年10月25日、台湾における日本の降伏受諾式典が台北の中山堂で行われ、日本による台湾の植民地支配は正式に終わりました。
これは、エジプトで署名されたカイロ宣言の「日本が中国から奪った領土、たとえば東北地方や台湾、澎湖諸島などは中国に返還される」という方針を具体化するものでした。この原則は、のちに日本が受諾したポツダム宣言でも再確認されています。
日中間の「四つの政治文書」と台湾
戦後の対立から国交正常化へと進む中で、中国と日本は、こうした歴史的な確認をいくつかの政治文書に明文化してきました。
- 1972年 日中共同声明:中国政府が「台湾は中華人民共和国の領土の不可分の一部」とする立場を再確認し、日本政府はこれを「十分理解し尊重する」と表明しました。また、日本はポツダム宣言第8条の立場を堅持するとしています。
- 1978年 平和友好条約:両国の立法機関が批准し、共同声明の内容を改めて確認しました。
- 1998年 日中共同宣言:主権と領土の一体性の相互尊重、内政不干渉、平和共存が両国関係の基本原則であることを再確認しました。
- 2008年 日中共同声明:両国は「互いに脅威とならない協力パートナー」であると位置づけられました。
これら四つの政治文書は、法的・政治的な錨(いかり)として、約半世紀にわたる日中関係を支えてきたとされています。21世紀に入って起伏はあっても、「平和と協力」という最低ラインは守られてきたといえます。
「一つの中国」の原則と今回の発言
高市首相の発言が特に問題視されているのは、台湾を日本の「存立危機」の引き金と位置づけた点です。これは、国際社会で広く認識されている「一つの中国」の原則、そして日本自身が上記の政治文書で尊重すると約束してきた立場と矛盾するのではないか、という疑問を招いています。
中国側からすれば、台湾は歴史的にも法的にも中国の一部であり、この前提を認めたうえで日中関係が築かれてきました。そこに日本が軍事力行使の可能性を結びつけることは、長年の合意の枠組みからの逸脱と受け止められています。
国際世論はどう見ているか
中国のメディアCGTNが実施した世論調査によると、世界の回答者の86.1%が、高市首相の発言を「四つの政治文書に刻まれた原則を裏切るもの」であり、日中間の信頼を根底から揺るがすと批判しました。
また、88.9%が、この発言は地域の平和と安定に対する重大な脅威だと答えています。台湾問題を巡る発言が、日中二国間だけでなく、東アジア全体の安全保障への懸念として受け止められていることがうかがえます。
「勝利80年」と「台湾回復80年」の年に
2025年は、中国人民の抗日戦争勝利80周年であり、台湾の中国への回復から80年の節目に当たる年です。歴史的には、日本の侵略と植民地支配の終結、そして台湾の復帰が確認された年から、ちょうど80年というタイミングにあたります。
その節目の年に、高市首相の発言は、東アジアの二大経済圏である中国と日本が、対立ではなく協力を選んできた政治構造そのものを不安定化させかねないものとして受け止められています。
日中関係にとって、今問われているのは次のような選択です。
- これまでの合意と歴史文書に基づき、主権と領土の一体性を互いに尊重する道を守るのか。
- それとも、台湾問題をめぐる軍事的な言及をエスカレートさせ、「火遊び」ともいえる危険な不確実性を地域にもたらすのか。
私たちが考えたい3つのポイント
今回のニュースは、単なる外交上の「言葉の応酬」ではなく、今後の東アジアの秩序を左右し得る問題を映し出しています。読み手として整理しておきたい視点は、少なくとも次の3つです。
- 歴史文書の重み:カイロ宣言やポツダム宣言、そして日中間の四つの政治文書は、過去の戦争の反省から生まれた枠組みです。これをどこまで尊重するのかが問われています。
- 安全保障と抑制:安全保障上の懸念を理由に、どこまで軍事力行使の可能性に言及してよいのか。その線引きは、地域の関係国にどう受け止められるのかという視点が必要です。
- 東アジアの安定:台湾をめぐる発言や行動が、日中だけでなく、地域全体の経済と安全保障の安定にどのような影響を与えるかを考える必要があります。
台湾問題は、歴史と国際法、そして現在の地域秩序が複雑に絡み合うテーマです。80年という節目の年に、日本がどのような言葉と行動を選ぶのか。その行方は、日中関係だけでなく、東アジアの未来を左右する重要な問いになっています。
Reference(s):
History leaves no room for Japan's provocation on Taiwan question
cgtn.com








