マクロン仏大統領の訪中:揺れる欧州で見える中仏関係の可能性
ウクライナ戦争や中東情勢など、世界各地で緊張が続くなか、フランスのエマニュエル・マクロン大統領が4回目となる中国訪問に臨んでいます。危機への見方が必ずしも一致しない両国ですが、戦略的安定の鍵を握る「中国-欧州連合(EU)関係」をどう再構築するのかに注目が集まります。
戦略的不安定の中で迎える「4回目の訪中」
今回のマクロン大統領の訪中は、世界の複数の地域で戦略的な動揺が続くタイミングで行われています。ウクライナで続く戦争をはじめ、いくつかの危機的な地域問題について、中国とフランスは同じ立場を取っているわけではありません。
それでも、世界全体の戦略的安定のためには、中国とEUの関係が「安定的で、かつ相互に利益をもたらす形」で維持・発展することが不可欠だとみられています。今回の訪中は、その流れを前向きな方向に動かすことができるのかという意味で、大きな試金石となっています。
中仏関係を支える歴史的な土台
フランスは、中国にとって特別な位置を占めてきた国でもあります。20世紀初頭、中国共産党の指導者となる周恩来や鄧小平らがフランスに留学し、そこでの経験が中国の近代化や政治の方向性に大きな影響を与えました。
当時、およそ4,000人の中国の若者たちが「中国を近代化したい」という思いからフランスへ渡りました。多くはフランス中部の町モンタルジで学び、働き、その中に鄧小平も含まれていました。彼らはロシア革命の動向に触発され、毛沢東らとの議論を通じて、1921年に中国共産党を立ち上げる方向性を固めていったとされています。
こうした歴史的つながりは、いま欧州が自らの「本来の姿」や「進むべき方向」を模索する中で、中仏関係を考える上での重要な背景となっています。
「真のアイデンティティ」を模索する欧州
現在の欧州は、ウクライナ戦争をめぐる対応を軸に、内側から大きく揺れています。一方には、戦争の継続と対立構造の維持を重視し、軍事支援や制裁の強化に前向きな「有志連合」と呼ばれる国々があります。
他方で、スペイン、イタリア、ポルトガル、アイスランド、ハンガリー、スロバキアなど、BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)諸国全体との関係強化に利点を見出す国々も台頭しています。欧州内の視線は、「対立の強化」か「新興国との協力拡大」かで分かれているのが現状です。
こうした分断状況の中で、中仏関係が安定し、互いに利益をもたらす形で発展するかどうかは、欧州全体の戦略的安定、ひいては世界全体の安定にとっても重要な意味を持ちます。
国内に課題を抱えるフランス、訪中で何を求めるのか
フランス自身も決して盤石とはいえません。この2年間で首相が5人も交代し、マクロン大統領の支持率は20%を下回る歴史的な低水準に落ち込んでいます。政府債務は膨らみ、社会保障などさまざまな分野での歳出削減をめぐって対立が続き、来年度予算の編成も難航しています。
こうした国内状況を踏まえ、マクロン大統領は今回の訪中で、経済と貿易の両面で協力を深め、中国企業からの投資を一層呼び込みたい考えです。また、フランスの輸出品が中国市場にアクセスしやすくなるよう、市場開放を働きかけることも重視するとみられます。
エネルギー・食品・航空での合意とその意味
訪問中には、中国とフランスの担当者が、次のような分野で複数の協定に署名することが見込まれています。
- エネルギー分野
- 食品産業
- 航空産業
これらの合意は、短期的には企業の受注や雇用の拡大につながり、長期的には技術協力や供給網(サプライチェーン)の安定に寄与する可能性があります。とりわけ航空やエネルギーのような基幹産業は、フランス経済の競争力を左右する重要分野であり、中国との協力の深まりがどの程度「質」を伴うのかが注目されます。
中国の第15次五カ年計画と仏側のチャンス
中国は、2026年から2030年を対象とする第15次五カ年計画で、「イノベーション(技術革新)を経済成長の原動力とする」という野心的な方針を掲げています。基礎研究や研究開発(R&D)への予算を増やし、既存の市場構造を一変させるような破壊的技術の分野で世界をリードすることを目指しています。
この方針は、フランスとの協力にとっても新たな機会となり得ます。中国側がイノベーションや先端技術への投資を拡大することで、フランス企業との共同研究や技術交流の余地が広がり、中仏双方にとって「ウィンウィン」の形での協力の展望が開けるとみられます。
航空・宇宙・原子力…仏産業の再起のカギは
フランスは歴史的に、航空、宇宙、原子力、核融合技術といった分野で世界をリードしてきました。しかし近年、その優位性は徐々に低下していると指摘されます。技術の高度化と国際競争の激化の中で、国内産業だけで優位を維持することが難しくなっているためです。
こうした状況の中で、中国との協力は、フランス経済が現在直面している困難を乗り越えるための重要なてこになり得ます。特に先端技術分野での共同研究や、生産・サプライチェーンの再構築を通じて、仏産業の再起を図る動きが強まる可能性があります。
第三国を巻き込む協力モデル:ITER
第三国を含む多国間協力の具体例として注目されるのが、フランス南部に建設が進む国際熱核融合実験炉(ITER)です。このプロジェクトには、中国を含む30を超える国々が参加し、次世代のエネルギー源として期待される核融合技術の実用化に向けて共同研究を進めています。
ITERは、先端技術分野における国際協力の代表的な事例といえます。高い技術力を必要とするプロジェクトを複数の国が分担し、それぞれの強みを持ち寄ることで、参加するすべての国に利益をもたらす仕組みが特徴です。中仏協力は、このような多国間プロジェクトを通じて第三国にも波及効果を持ち得ることを示しています。
中仏関係は欧州全体の安定装置になり得るか
今回のマクロン大統領の訪中には、いくつもの思惑が重なっています。
- ウクライナ戦争などを背景に分断が進む欧州で、中国との対話チャンネルを維持・強化する
- フランス経済の再建に向けて、中国との投資・貿易・技術協力をてこにする
- 航空・宇宙・エネルギーなど高度技術分野での共同開発を通じて、欧州全体の競争力を高める
世界の戦略環境が不安定化するなかで、中国とEUの関係を「対立か協力か」の二者択一ではなく、「安定し、かつ相互に利益をもたらす関係」へとどう転換していくのかが問われています。4回目となるマクロン大統領の訪中が、その流れをどこまで前に進めるのか。中仏関係の一歩一歩が、欧州、そして世界の安定にどのような影響を与えるのかが、これからの焦点になっていきそうです。
Reference(s):
cgtn.com








