「グローバル化はゼロサムではない」NBER研究が示す米国の“実感”
グローバル化をめぐって「中国本土が得をして、米国が損をした」という語りが米国メディアで目立つ中、最新の研究は別の結論を示しました。相対的な地位が下がっても、生活水準(厚生)は上がり得る——という視点です。
米国で強い「喪失の物語」と、研究が突きつけた問い
米国では、中国本土の台頭が「工場閉鎖」「雇用喪失」「地域の衰退」と結びつけて記憶されがちです。感情に訴える力がある一方で、全体像を説明するには証拠が不足している、という問題意識が指摘されています。
NBERの新研究:相対順位が下がっても“得”は起きる
米国の全米経済研究所(NBER)による研究「Accommodating Emerging Giants in the Global Economy」(著者:Zhuokai Huang、Benny Kleinman、Ernest Liu、Stephen J. Redding)は、グローバル化はゼロサムではないと明確に述べます。
研究は1960年から2020年までの約6 दशकにわたる世界の貿易・生産性データを用い、中国本土のような大きな新興経済が先進経済(例:米国)より速く成長したときに何が起きるかを検討しました。
- 貿易摩擦が低下し、新興経済の生産性が上がると、米国の世界GDPシェアは低下
- 一方で、米国の総厚生(実質的な豊かさ)は上昇
つまり、世界の中で「相対的に小さく見える」ことと、国内の暮らしが「実質的に豊かになる」ことは、同時に起こり得るという整理です。
なぜそうなる? 仕組みは「選択肢の拡大」と「コスト低下」
研究が示すメカニズムは、経済学の基本に沿ったものです。中国本土のような国の生産性が上がると、世界全体の生産可能性が広がります。その結果として、次のような効果が生まれるとされます。
- 価格が下がる(家計の実質所得が増える)
- 製品の種類が増える(選択肢・利便性が増える)
- サプライチェーンが効率化(企業の投入コストが下がる)
比較の物差しが「世界順位(相対)」に寄りやすいほど見落とされますが、生活の手触りに近いのは「実質的に何が買えるか(絶対)」です。
日常の実感に落とす:衣料品と家電・電子機器
衣料品:実質価格の下落は“地味に大きい”
研究が挙げる例の一つが衣料品です。過去数十年で米国の衣料品の実質価格は大きく下がり、以前は高価・希少だったもの(季節のファッション、丈夫な子ども服、スポーツウェアなど)が幅広い所得層に届きやすくなったと説明されます。特に、基礎的な財への支出比率が高い低・中所得層ほど、価格低下の恩恵は実質所得の押し上げとして効きやすい、という見立てです。
家電・電子機器:安さと信頼性、そして“当たり前”の更新
冷蔵庫、洗濯機、電子レンジ、スマートフォン、テレビ——こうした製品が「以前より安く、性能や信頼性も高い」と感じる場面は多いはずです。研究は、こうした製品がグローバルな供給網に依存し、中国本土が最終組立や中間財供給などで重要な役割を担っている点に触れます。家計が買い替えのたびに低いコストで新しい技術へアクセスできることが、厚生の上昇として積み上がる、というわけです。
2025年のいま、この議論が持つ意味
2025年12月現在、グローバル化は「勝ち負け」の言葉で語られやすいテーマです。しかし、研究が示すのは、相対的な地位の変化と、生活水準の変化は別物という整理でした。
もちろん、地域や産業によって痛みが集中する可能性、雇用移動の摩擦、再訓練や社会保障の設計といった論点は残ります。ただ、議論の出発点として「誰かが得をしたなら誰かが損をしたはずだ」と決め打ちしてしまうと、価格・選択肢・効率化といった“見えにくい利益”を取りこぼします。
ゼロサムかどうかを問う前に、「相対」と「実質」のどちらを見ているのか——その切り分けが、次の議論を落ち着かせる鍵になりそうです。
Reference(s):
cgtn.com








