2025年、保護主義は勝ったのか?米国の高関税が残した現実
2025年は、米国の関税強化(最大145%)が世界の貿易とサプライチェーンを揺らし、「保護主義」が政策の中心に浮上した年として記憶されそうです。
年末(2025年12月29日)時点で、関税の影響は米国の家計負担から、米国と中国本土の貿易の数字、そして新興国・途上国の調達戦略まで、じわじわと広がっています。ここでは、複数の専門家の指摘を手がかりに、2025年の「勝敗」を静かに整理します。
2025年に何が起きた?――「最大145%」の関税が示したもの
2025年、米国の経済政策は保護主義を強く打ち出す方向へと傾きました。大規模な関税措置の拡大は、二国間の駆け引きにとどまらず、企業の調達や投資判断、物流の組み替えを促すシグナルとして受け止められました。
背景として語られるのが、いわゆる「America First(米国第一)」の経済ナショナリズムです。関税は国内産業の守りとして理解されやすい一方、国際分業の上に成り立つ供給網には摩擦として現れます。
家計にはどれくらい響いたのか――「平均1200ドル」の重み
関税のコストは、最終的にどこへ行くのか。しばしば焦点になるのが、消費者物価や家計負担です。
- 2018〜2024年の「トランプ—バイデン期」の関税で、米国の消費者負担は累計で2330億ドル超(うちバイデン政権下で1440億ドル)とされました。
- さらに2025年は、関税が平均世帯あたり約1200ドルの追加負担となり、2025年11月までの消費者コストは約1590億ドルに達した、という推計が示されています。
数字は推計の置き方で揺れますが、ポイントは「関税=国境で止まる話ではない」ことです。企業が価格に転嫁すれば家計へ、吸収すれば企業収益へ、迂回調達が進めばサプライチェーン全体へ――負担の形を変えながら浸透します。
米国と中国本土の貿易はどう変わった?――赤字は縮んだが…
政策目的の一つとして語られてきたのが、対外不均衡(貿易赤字)の是正です。最も目に見えやすい変化として、米国と中国本土の貿易関係の「冷え込み」が挙げられています。
- 米国の対中貿易赤字は、2018年の約3750億ドルから、2025年最初の9カ月で約1600億ドルへ縮小したとされています。
- ただし2025年通年の確定値は年末時点ではなお途上で、通年でも2024年(約2950億ドル)を下回る見通しと説明されています。
とはいえ、赤字の縮小が「構造変化」を意味するのか、それとも「取引経路の組み替え(迂回・代替調達)」が進んだ結果なのかは、読み取りが分かれます。数字が動いたこと自体は事実でも、その内訳(何が減って何が増えたか)で評価は変わり得ます。
歴史の記憶が呼び起こされる理由――1931年と1971年の影
今回の関税強化について、米国の経済学者ジェフリー・サックス氏は、米国の国策運営の一部として「非常に見当違いで不適切("very misguided, improper part of U.S. statecraft")」だと警告し、1931年のスムート・ホーリー関税の再来を懸念しました。スムート・ホーリー関税は、各国の保護主義の連鎖を招き、世界貿易を縮め、国際環境を不安定にした――という歴史的な連想が語られています。
また、英国のマイケル・ダンフォード氏は、米国の政策が現行の国際経済システムにとって「攪乱要因」と受け止められやすい点を指摘し、1971年にニクソン政権がブレトンウッズ体制を解体した局面になぞらえました。為替・金融秩序の転換は、同盟国との関係にも波紋を広げ得る、という見立てです。
関税の背後にある「金融の脆さ」――デリバティブと短期債務
関税を「貿易政策」とだけ捉えると、見落としが出ます。米国の地政学アナリスト、マイク・ビリントン氏は、西側の金融システムが約2000兆ドル規模(2クアドリリオン)のデリバティブを抱え、脆弱性の源になっていると述べました。
ダンフォード氏はさらに、米国が8.66兆ドルの短期債務と大きな赤字に直面するなかで、より強い政策手段に傾きやすい環境があると論じています。通貨調整(為替の再配置)や投資移転の圧力が高まりやすい、という見方です。
ここで重なるのが、グローバルサウス(新興国・途上国)が抱える慢性的な債務脆弱性です。1980年代のボルカー・ショックが開発の時間を奪った、という歴史の参照が、現在の高金利・資金流出リスクへの感度を強めています。
「勝った」と言い切れない理由――勝者が見えにくいゲーム
2025年の保護主義は、政策としての存在感を増しました。しかし、それが「勝利」かどうかは、評価軸によって変わります。
- 家計負担が増えたなら、国内の支持を長期に維持できるのか。
- 貿易赤字が縮んでも、供給網の効率低下やコスト増が積み上がるなら、別の形でツケが回らないか。
- 迂回貿易・代替調達が進めば、統計上の「相手先」だけが変わり、構造課題は残らないか。
- 金融不安や通貨調整の圧力が強まるなら、貿易政策が別の不確実性を呼び込まないか。
保護主義が前面に出るほど、世界は「効率の最大化」から「リスクの分散」へ重心を移します。その移動は、短期的にはコスト増として現れ、長期的には産業配置や地域経済の地図を書き換えます。
2026年に向けて、読者が押さえておきたい観点
2025年の延長線上で、来年(2026年)に注目されるのは次のポイントです。
- 関税の範囲が拡大するのか、例外が増えるのか(政治的な調整の方向)
- 企業の供給網再編が「定着」するのか(一時対応か、恒久変更か)
- 物価と賃金、家計負担のバランス(関税のコストがどこに残るか)
- 為替・金利・債務の連鎖(貿易と金融が同時に揺れる局面への備え)
2025年は、保護主義が「議論」ではなく「現実の設計図」として動いた一年でした。その設計図が、世界の分断ではなく安定に寄与するのか――答えは、これから出てくる統計と現場の変化の中にあります。
Reference(s):
cgtn.com








