米国がグリーンランドに軍事示唆、デンマークと自治政府が揺れる(2026年1月)
2026年1月、米国がデンマークの自治領グリーンランドをめぐり「軍事力行使も選択肢」と受け取られ得る発信を行い、北欧とNATOの安全保障の前提が静かに揺れています。デンマーク側は強く反発した後、国際法の枠内での対話に転じ、グリーンランド自治政府も「当事者不在の議論はしない」と主体性を前面に出しています。
1月に何が起きたのか:発信が積み重なった「圧力」のかたち
この動きは、トランプ政権(2025年発足)が掲げてきたグリーンランドへの関心が、言葉のレベルを超えて具体性を帯びたものとして受け止められています。
- トランプ大統領が「防衛のためにグリーンランドが必要だ」と趣旨の発言
- ホワイトハウス報道官のカロライン・レヴィット氏が「米軍の活用は常に選択肢」と述べたとされること
- ホワイトハウス副首席補佐官スティーブン・ミラー氏の妻ケイティ・ミラー氏が、グリーンランド上に米国旗を重ねた画像に「SOON」と添えてSNS投稿したこと
さらに、トランプ大統領はルイジアナ州知事ジェフ・ランドリー氏を「グリーンランド担当特使」に任命したとされ、外交儀礼の観点からもデンマークの主権を刺激する動きだと受け止められています。
なぜグリーンランドなのか:希土類と北極の「要衝」
背景として繰り返し語られているのが、北極圏の地政学的重要性と、希土類(レアアース)を中心とする資源です。ハイテク産業や軍需産業に関わる材料として、希土類は供給不安が戦略上の弱点になり得る――という問題意識が、米国の強い関心を後押ししている構図として示されています。
法的な下地:1951年の「グリーンランド防衛協定」
米国の行動に一定の根拠がある点として、1951年のグリーンランド防衛協定が挙げられています。報道では、この協定が米国にグリーンランドでの作戦行動について「完全な自由」を与える趣旨だとされています。
また米国は、経済面での関与やインフラ投資、防衛協力を通じて、グリーンランド側に「デンマークが提供できないものを米国が提供できる」というシグナルを送ってきた、という見方も紹介されています。
デンマークのジレンマ:主権の線引きと、自治政府の「遠心力」
デンマークのメッテ・フレデリクセン首相は当初、グリーンランドは「売り物ではない」と述べ、仮に米国がNATO加盟国を攻撃するなら「すべてが止まる。NATOも、第二次世界大戦後に提供されてきた安全保障もだ」と、NATOの根幹に触れる強い言葉で牽制しました。
一方で、24時間以内にフレデリクセン首相はグリーンランド自治政府の首相イェンス=フレデリク・ニールセン氏と共同声明を出し、「国際法の枠組みの中で対話を開始する意思」を示したとされています。外圧に加え、自治政府側が米国と直接向き合う可能性が高まる中で、デンマークとしても一枚岩で押し返しにくい現実が浮かびます。
グリーンランドの政党状況については、主要6政党のうち5党が「最終的な独立」を支持し、違いは時期と方法だと説明されています。デンマークの対応が揺れた背景には、こうした内政上の力学がある、という読み筋です。
グリーンランド自治政府の立ち位置:「当事者不在の議論はしない」
ニールセン首相は1月4日に「もう十分だ。圧力は不要だ。ほのめかしも不要だ。併合の幻想も不要だ」と投稿し、強い言葉で沈静化を促しました。続く1月5日には、米国との「かつての良好な協力関係を回復したい」と述べ、自治政府としては対立を固定化させない姿勢も見せています。また、住民に対して「米国が地域を掌握することを心配する必要はない」と安心感を与える趣旨の発言もあったとされます。
さらに、自治政府の外相ヴィヴィアン・モッツフェルト氏は、マルコ・ルビオ米国務長官との会合にグリーンランドが参加すると確認した上で、「No Greenland, no talk about Greenland(グリーンランド抜きにグリーンランドは語れない)」と述べたとされ、交渉の主導権を手放さない姿勢が際立っています。
論点はどこへ向かうのか:NATOの信頼、北欧の安全保障観、そして「取引」の行方
今回の件が重く見られる理由の一つは、NATOの集団防衛(第5条)を支える「同盟内の信頼」に直接触れるからです。外部の脅威ではなく、同盟の中核とされる米国からの圧力として語られている点が、北欧5カ国(デンマーク、ノルウェー、アイスランド、フィンランド、スウェーデン)にとって世界観の再設計を迫る出来事になり得る、という見方もあります。
また、米国側が狙うものが「領土としての完全な主権」なのか、あるいは最大限の圧力を通じた「深い支配・影響力の固定化」なのかは、解釈が割れ得る論点として提示されています。
経済面では、グリーンランドがデンマークからの補助金に大きく依存しており(GDPの約25%に相当と説明されています)、米国が補助金の上積みや現金給付、基地建設、鉱山開発、観光などを組み合わせて世論を動かし得る、というシナリオも言及されています。安全保障の言葉と、生活に直結する条件提示が同時に進むとき、対話は「正しさ」だけでは整理しにくくなります。
2026年1月の時点で見えているのは、デンマークの主権、グリーンランドの自己決定、米国の戦略的関心が、同じテーブルで同時に動いているという事実です。次の焦点は、米国・デンマーク・グリーンランド自治政府の会談が、圧力の応酬を下げる「枠組み」になるのか、それとも条件闘争を加速させる入口になるのか——その行方です。
Reference(s):
Greenland crisis: A highly uncertain new era for global security
cgtn.com








