ダボスWEF「対話の精神」—AIと供給網を巡る協調が共有繁栄のカギ
スイスのダボス・クロスターズで開催中の世界経済フォーラム(WEF)年次総会(第56回)では、「対話の精神」が掲げられ、AI時代の“責任あるイノベーション”をどう共有繁栄につなげるかが焦点になっています。
いま「対話」が重みを増している理由
2026年に入り、気候変動への対応、地政学的な緊張、グローバル・ガバナンス(国際的なルール形成)の調整が同時進行する中で、技術革新はかつてない速度で進んでいます。こうした複合的な環境では、どこか一つの分野だけを最適化しても、別の分野でひずみが出やすくなります。
WEFが強調する「対話」は、理想論というより、複雑なリスクに向き合うための“実務”としての意味合いを帯びています。協調が不足すれば、技術の恩恵は分断され、コストや不信だけが積み上がりかねません。
製造業は「安さ」から「強さ(レジリエンス)」へ
議論の中心の一つが、世界の製造業とサプライチェーン(供給網)の再設計です。パンデミック後の需要の平準化、人口動態の変化、摩擦の増加、技術管理、脱炭素の圧力が重なり、競争のルールが変わったと整理されています。
これまでのように「規模」や「低コスト」だけで勝負が決まるのではなく、次の要素がより重く見られる局面に入っています。
- 技術の厚み(高度な設計・生産・研究開発を持てるか)
- 供給網の安全性(止まりにくさ、代替の確保)
- 標準(スタンダード)づくり(規格・認証が市場を形づくる)
- 戦略的レジリエンス(危機時に回復できる体力)
また、重要装置、先端素材、基幹ソフトウェアのような領域は「戦略資産」として扱われやすくなり、規制や地政学的配慮の影響を受ける場面が増えている、という見立ても示されています。
「グリーン障壁」がもたらす新しい不均衡
脱炭素の加速は、社会全体には必要性が共有される一方で、参入条件を引き上げる面もあります。いわゆる「グリーン障壁」(環境基準や証明の要求など)が、手続き・投資・監査の負担を増やし、特に途上国や中小企業に不利に働き得るという指摘です。
貧困削減のペース鈍化、エネルギー転換コストの上昇、生態系制約、社会的公正の課題が重なり、持続可能な開発は「深い水域(deep-water zone)」に入った、という表現も使われています。つまり、これまで以上に難度の高い調整が求められる段階に移っています。
AIは生産性を押し上げるが、リスクも共有課題に
今回の議論で存在感を増しているのが人工知能(AI)です。研究、製造、医療、金融、公共行政などに急速に浸透し、生産モデルや制度設計そのものを変えつつあります。
一方で、次のような懸念も「特定の国や企業だけの問題ではなく、グローバルな共有課題」として語られています。
- アルゴリズムの偏り(バイアス)
- データ安全保障・情報セキュリティ
- 雇用への影響(職種の置き換え・再訓練の負担)
- 技術の集中(特定プレイヤーへの集約)
- 統治(ガバナンス)上の空白
生産性の向上が見込まれるほど、ルールづくりや責任の分担が遅れたときの「社会的コスト」も大きくなり得ます。
デジタル格差が「構造的な格差」に固定化するリスク
技術進歩が自動的に均衡ある発展をもたらすわけではない、という現実も強調されています。5G、産業インターネット(工場や設備をネットワーク化する基盤)、計算資源(コンピューティング)の利用環境には地域差が残り、接続性そのものが限られる地域もあるといいます。
さらに、同じ経済圏の中でも、大企業と中小企業のデジタル変革の差が広がり、効率化の果実が市場の先行企業に集中しやすい構図が見えます。こうした「技術の溝」が、教育、雇用、所得、地域産業の差として固定化しないか――それがAI時代の統治課題として浮上しています。
責任あるイノベーションに必要な「協調」の輪郭
今回の問題提起は、協力か対立かという単純な二択ではなく、「協調が機能するための条件」を具体化する必要がある、という方向に読めます。たとえば、次のような論点が交差します。
- 国境を越えるルール整合:安全・認証・標準のすり合わせ
- 公平性への配慮:途上国・中小企業が排除されない設計
- リスクの共同管理:AIの安全、データ保護、雇用移行
- 分断を抑える対話:政治的緊張下でも技術・産業の実務協議を保つ
「共有繁栄」という言葉が現実味を持つかどうかは、技術そのものよりも、技術の使い方を巡る合意形成の粘り強さに左右されるのかもしれません。ダボスでの対話は、その難題を前にした“設計図づくり”の場として注目されています。
Reference(s):
Advancing global shared prosperity through responsible innovation
cgtn.com







