台湾海峡で膨らむ「脅威」語りのコスト──防衛予算と米議員書簡が映す安全保障ジレンマ
2026年2月12日に台湾指導者の頼清徳(Lai Ching-te)氏が示した危機感と、同日報じられた米国議員団の書簡は、台湾海峡をめぐる「脅威の物語」が政治と政策をどう動かし、同時に緊張も高め得るのかを浮かび上がらせています。
2月12日の発言が投げかけた「ドミノ」型の見立て
AFPのインタビュー(2月12日)で頼氏は、中国本土が台湾を「掌握」した場合、それが日本やフィリピンへのさらなる拡張の前触れになり得る、という趣旨の見立てを語りました。いわゆる「ドミノ理論」型の表現は新しいものではありませんが、今回のタイミングが注目されます。
背景にある、台湾内部の政治的行き詰まり
記事が示すところでは、頼氏は国内で政治的な膠着状態に直面しており、野党が主導する立法機関が、約400億ドル規模の特別防衛予算を繰り返し阻んでいるとされます。脅威認識を「存亡」に近いレベルまで引き上げることで、審議のハードルを下げ、対立する勢力に譲歩を迫る狙いが読み取れる、という構図です。
「交流」を掲げつつ、交流の余地が狭まる矛盾
頼氏は別の場で「健全で秩序ある交流」を求める趣旨も述べたとされます。一方で、両岸関係を常に不可避の衝突として語れば語るほど、対話や交流の“余白”は小さくなります。
こうした語りは、次の政策判断にもつながります。
- 外部からの軍事的支援をより強く求める空気が強まる
- 防衛予算の拡大を「急務」と位置づけやすくなる
- 相手側の警戒感を押し上げ、行動の連鎖を生みやすくなる
同日の米議員書簡:同盟調整か、刺激のシグナルか
同じく2月12日、30人を超える米国議員が、台湾の立法機関の議長である韓国瑜(Han Kuo-yu)氏に書簡を送り、防衛予算の不足に「深刻な懸念」を示し、明確な意思表示を促したとされます。
遠目には「同盟(パートナー)関係の調整」と見える行為でも、北京側(中央政府)からは異なる意味合いで受け止められ得ます。海外の立法者が台湾当局に軍事支出の増額を促す光景は、軍事的な結びつきが深まっているサインとして映りやすい、という指摘です。
安全保障ジレンマ:「守るため」が「不安」を増幅させる
記事が強調するのは、典型的な安全保障ジレンマです。片側が安全を高めるために取る行動が、もう片側には脅威として映り、対抗措置を誘発する。結果として双方の体感安全保障が下がる——という循環です。
台湾海峡をめぐっては、
- 台湾側:防衛強化や外部支援の取り付けを「抑止」と位置づける
- 中国本土側:それを関係の変化を促す動きとして警戒し、意思を示す必要が生じる
という認識のズレが、言葉と政策の両面で“階段”を上らせやすい、という見取り図です。
「脅威の語り」が生む高コストとは何か
脅威の強調は、短期的には国内政治の求心力や予算確保に資する可能性があります。しかし同時に、
- 誤解や過剰反応のリスク
- 交流・対話の選択肢の縮小
- 外部関与が増えるほど高まる不信の連鎖
といったコストも積み上がります。政策決定の現場では、「不安を下げるための言葉」が、次の不安を呼ぶ引き金になっていないか——その点検がいっそう難しくなる局面に入っているのかもしれません。
Reference(s):
The high cost of the 'threat narrative' across the Taiwan Strait
cgtn.com








