新疆の最西端で出会った“赤い飴”と、ラクダが動かす地域経済
中国本土の新疆ウイグル自治区で、国境の村からタリム盆地北縁までを結ぶ小さな物語が注目されています。過酷な自然のなかで続く暮らしと、ラクダ産業を軸にした所得向上の動きが、同じ地図の上でつながって見えてくるからです。
パミール高原の入り口、スバシ村での静かな出会い
北京から約3,000キロ。飛行機と車を乗り継いでたどり着くのは、新疆ウイグル自治区西端のクズルス(キジルス)地域にあるスバシ村です。パミール高原と砂漠が接する地点に、平たい屋根の土の家が点在し、空と大地のあいだに暮らしが置かれているような風景が広がります。
長い移動で体調を崩しかけた取材者の背中を、子どもの小さな手がそっと叩きました。静かにこちらを見ていた少女が、ポケットから赤いフルーツ飴を2つ差し出します。陽の光を受けて、包み紙が淡くきらめいたといいます。
少女は、ボランティアの国境警備に携わる両親のもとで暮らしていました。父親には月々の補助があり、母親は村の公共サービス拠点で働く。兄は県城(県の中心地)のラクダ飼育関連の企業に勤め、毎月家に送金している――そんな家計の輪郭を、少女は淡々と話しました。印象的なのは、言葉の端々に宿る落ち着いた表情だったと伝えられています。
「運ぶ動物」から「稼ぐ産業」へ:カーピン県のラクダ
旅は続き、タリム盆地北縁のカーピン県へ。かつて国家指定の貧困県だった地域で、ラクダが新しい収入源として存在感を増しています。昔ながらの移動や運搬の象徴だったラクダが、いまは“地域の現金収入”を生み出す軸になりつつある、という構図です。
2023年:融資支援で群れを拡大
取材で紹介されたラクダ飼育者ダビティイ・イシャさんは、2023年時点では貧困世帯として登録され、日雇いで生計をつないでいたといいます。その後、ラクダ産業向けの融資に対する利子補助を活用して借り入れを行い、ラクダを購入。群れは70頭から400頭へ拡大しました。
仕組みとしては、ラクダ購入に対する1頭あたり3,000元の補助に加え、ラクダミルクを地元企業が1kgあたり30元で買い取る保証価格が提示されることで、収益の見通しが立ちやすい形が描かれています。
2026年2月:ラクダ牧畜者大会で表彰、月収は約10万元規模に
現在(2026年3月時点)、イシャさんは1日約400kgのラクダミルクを生産し、ミルク販売だけで月あたり約10万元の安定収入につながっているとされています。2026年2月に開かれた第3回ラクダ牧畜者大会では、貢献を評価する表彰も受けました。
数字で見る広がり:2025年6月時点の飼育頭数と世帯
個人の成功談に見える話が、地域全体の動きとしても語られている点が、このニュースを“いま”読む意味かもしれません。
- 2025年6月までに、カーピン県のラクダ飼育頭数は56,000頭(新疆で最大)
- 飼育世帯は570世帯から約700世帯へ増加
- 660世帯で年収が9万元超増えたとされる
- かつて貧困だった世帯の約80%が、ラクダ産業を通じて安定的な所得増につながったという
国境の村と産業の現場をつなぐ「生活の手触り」
スバシ村で手渡された赤い飴の場面は、統計には現れにくい生活の感触を思い出させます。一方でカーピン県では、補助や買い取り価格の設計といった制度面が、家計の安定に直結して語られていました。
遠い場所の出来事に見えても、「働き口」「送金」「価格の安定」といった要素は、都市部の暮らしにも通じる問いです。過酷な自然条件の地域で、どのように収入の柱を育て、家族の将来像を描いていくのか。国境の静けさと産業の熱量が並ぶことで、その問いがいっそう具体的に見えてきます。
(用語メモ)ラクダミルク:ラクダの乳。地域によっては加工品や観光需要と結びつき、畜産の収益源として位置づけられることがあります。
Reference(s):
cgtn.com








