スペイン元サッカー連盟会長に有罪判決 女子W杯「同意なきキス」で罰金刑
2023年の女子ワールドカップ表彰式で起きた同意なきキス事件をめぐり、スペインの高等裁判所は元サッカー連盟会長ルイス・ルビアレス氏に性的暴行の有罪判決を言い渡し、罰金刑と接近禁止命令を科しました。スペイン社会のジェンダー観を揺さぶったこの事件は、判決後も新たな議論を呼んでいます。
何が決まったのか:判決のポイント
スペインの高等裁判所は今月木曜日、2023年女子ワールドカップ決勝後の表彰式で、ルビアレス氏がMFジェニ・エルモソ選手に同意なくキスをした行為について、性的暴行の罪で有罪と認定しました。
一方で、エルモソ選手に圧力をかけてキスが「合意だった」と言わせようとしたとされる強要の罪については無罪とし、共犯として訴追されていた3人も無罪としました。
今回の判決内容は次の通りです。
- 性的暴行罪で有罪、強要罪は無罪
- 罰金は1日20ユーロを18か月間支払う形式で、総額は1万ユーロ超
- エルモソ選手への慰謝料として3,000ユーロを支払い
- 1年間、エルモソ選手に200メートル以内に近づくことや連絡を取ることを禁止
検察は当初、実刑判決を求めていましたが、裁判所は「暴力や脅迫を伴わないキス」という事案の性質から、懲役刑ではなく金銭による刑罰を選択しました。
裁判所と当事者の主張
今月の裁判で、ルビアレス氏は一貫して「キスはエルモソ選手の同意のもとだった」と主張してきました。これに対し、エルモソ選手は「同意していない」「不意を突かれた」と証言しました。
判決文の中で、担当のホセ・マヌエル・フェルナンデス・プリエト判事は、エルモソ選手の証言を信用できると判断し、同意はなかったと認定しました。そのうえで、この行為は「常に非難されるべきもの」としながらも、暴力や脅しを伴っていない点から「強度が比較的軽い」ケースだと位置づけています。
そのため、裁判所は「自由を奪う刑罰よりも、金銭による刑罰が相当だ」として、罰金刑を選びました。
ルビアレス氏は判決後、「戦い続ける」と述べ、控訴する考えを示しています。また、エルモソ選手側の弁護士も控訴方針を明らかにしており、今後は上級審での争いに舞台が移る見通しです。
発端は女子ワールドカップ優勝セレモニー
問題となったのは、2023年女子ワールドカップの決勝でスペイン代表が優勝した後、オーストラリア・シドニーで行われた表彰式の場面です。トロフィー授与の列に並んでいたエルモソ選手に対し、ルビアレス氏が抱き寄せて口にキスをする様子がテレビ中継や動画で広く拡散しました。
当初、ルビアレス氏は「自然な喜びの表現だった」と主張して謝罪を拒みましたが、エルモソ選手やチームメート、多くのサッカーファンから「同意なき行為だ」と批判が噴出。スペイン国内では、女子サッカー界に根強く残る性差別や権力構造への問題提起へと議論が広がりました。
優勝という歴史的快挙は、本来ならスペイン女子代表の功績として祝福されるべきものでしたが、この「同意なきキス」問題が大きな政治・社会問題へと発展し、栄光の瞬間に影を落とす結果となりました。
スペインで広がった「MeToo」とジェンダー議論
この事件をきっかけに、スペインでは女子サッカーだけでなく、職場やスポーツ界全体における性加害やハラスメント、権力を持つ立場の人間による不適切な振る舞いが改めて問われることになりました。
多くの女性選手や市民が声を上げ、スペイン版「MeToo」とも言える動きが勢いを増しました。街頭では抗議デモが行われ、SNS上でも「私たちの口は、あなたのためのものではない」といったメッセージが拡散されました。
サッカー協会のガバナンスや、選手が安心して異議を唱えられる環境づくりを求める声も高まっています。今回の有罪判決は、こうした社会的な流れの中で下された司法判断として受け止められています。
それでも残る論点:同意、権力、そして「お祝いだから」の線引き
今回の事件が投げかけた問いは、スポーツの現場だけにとどまりません。特に次のような点は、日本を含む多くの国で考えるべきテーマでもあります。
- 祝勝ムードの中であっても、身体への接触には明確な同意が必要であること
- 上司や組織トップなど、権力を持つ側からの行為は、相手が「嫌だ」と言いづらい構造を内包していること
- 一見「軽い」行為に見える場合でも、被害を受けた側の尊厳を傷つけうること
裁判所は今回、暴力や脅迫を伴わない「比較的軽度な」ケースと判断し、懲役刑ではなく罰金刑としました。しかし、量刑がどうであれ、「同意なきキスは性加害である」という司法判断が明確に示されたことは、今後の議論に大きな意味を持つといえます。
今後の焦点:スポーツ界はどう変わるか
ルビアレス氏には、サウジアラビアでのスペイン・スーパーカップ開催をめぐる金銭を巡る別の捜査も続いています。今回の判決と合わせて、スポーツ組織の透明性や説明責任を求める声はいっそう強まりそうです。
一方で、エルモソ選手側も控訴する方針を示しており、被害者側から見て今回の量刑や判断が妥当だったのかという点についても、改めて審査が行われる可能性があります。
今後のポイントとしては、
- 控訴審で量刑や有罪認定がどう判断されるか
- スペインのサッカー界で、ハラスメント防止の仕組みがどこまで実効性を持つか
- 国際サッカー連盟や各国協会が、選手の権利保護にどう取り組むか
といった点が注目されます。
女子サッカーの躍進とともに、ピッチ外の環境づくりも問われる時代になっています。今回の判決は、その転換点の一つとして長く記憶されるかもしれません。
Reference(s):
Former Spanish football chief Rubiales fined over non-consensual kiss
cgtn.com








