イスラエル研究陣、インメモリ計算ソフトPyPIMを開発
イスラエル工科大学(Israel Institute of Technology)は木曜日、コンピューターのメモリ内で直接計算処理を行えるソフトウェアパッケージを開発したと発表しました。CPU(中央演算装置)を経由せずに演算することで、時間とエネルギーの無駄を減らし、現代コンピューティングのボトルネックとされる「メモリウォール」問題に挑む国際ニュースです。
インメモリコンピューティングとは何か
従来のコンピューターは、メモリ(記憶装置)とCPU(処理装置)が物理的にも論理的にも分かれており、プログラムは次のような流れで動きます。
- データはまずメモリに保存される
- 計算が必要になるたびに、データをメモリからCPUへ転送する
- CPUが計算した結果を、再びメモリに書き戻す
プロセッサの性能やメモリ容量は向上し続けている一方で、メモリとCPUの間のデータ転送速度はそれに追いついていません。この転送の遅さと電力消費が「メモリウォール」と呼ばれ、人工知能やビッグデータなど、大量のデータを扱う処理の大きな障害になっています。
インメモリコンピューティングは、こうした問題に対して「データを動かすのではなく、計算をメモリの側に近づける」という発想で挑む技術です。
イスラエル研究チームが開発したPyPIMとは
イスラエルの研究チームは、メモリ内で直接処理を行う「プロセッシング・イン・メモリ(PIM)」技術をソフトウェア面から支える新しいプラットフォーム「PyPIM」を開発しました。
発表内容によると、PyPIMの特徴は次の通りです。
- PythonとデジタルPIM技術を組み合わせたプラットフォームである
- PIM専用の新しい命令を導入し、一部の演算をメモリ内で直接実行できる
- 開発者はPythonのような馴染みのある言語を使って、PIM対応コンピューター向けソフトウェアを書ける
- 性能向上を事前に見積もるためのシミュレーションツールも用意されている
従来のプログラムは、基本的に「メモリはデータを置く場所」「CPUは計算する場所」と役割を分けて設計されてきました。PyPIMはこの前提を緩め、特定の数値演算やアルゴリズム処理をメモリ側で処理できるようにするソフトウェア基盤と位置づけられます。
メモリウォール問題への具体的なアプローチ
研究チームは、PyPIMを用いてさまざまな数学的・アルゴリズム的タスクを実行し、その性能を検証しました。発表によると、プログラムのコードを大きく書き換えることなく、処理時間を大幅に短縮できたとしています。
PyPIMのアプローチは、主に次の2点でメモリウォール問題の緩和に貢献すると考えられます。
- データ移動の削減:メモリとCPUの間を行き来するデータ量が減るため、待ち時間が短くなる
- エネルギー効率の向上:大容量データの転送は電力を多く消費するため、転送回数の削減は省エネにもつながる
特に、行列計算や探索アルゴリズムなど、メモリアクセスが頻繁な処理ほど、この効果は大きくなりやすいとみられます。
開発者にとっての意味: PythonでPIMを扱える利点
今回の発表で重要なのは、PIMという先端的なハードウェア技術を、Pythonという一般的なプログラミング言語の世界に引き寄せた点です。
これにより、開発者側には次のようなメリットが生まれます。
- 新しいハードウェアアーキテクチャを意識し過ぎずに、既存のPythonコードからPIMを試せる
- 学術研究や試作段階で、シミュレーションツールを使いながら性能向上の見込みを評価できる
- 数値計算、データ分析、機械学習など、Pythonで書かれた既存のエコシステムを活かしやすい
この「なるべく既存の書き方を変えずに、高速化の恩恵だけを受ける」という設計は、忙しい開発現場や研究現場にとって大きなポイントになりそうです。
これからの課題と広がりの可能性
今回の研究は、メモリ内で処理を行うPIMコンピューターに向けたソフトウェア基盤の一例を示したものです。今後、次のような点が議論の焦点になっていくと考えられます。
- PIMを前提としたハードウェアの普及と標準化
- どの種類の処理をメモリ側に任せるのが最も効率的かという設計指針
- 既存のコンピューターアーキテクチャとの共存や移行方法
一方で、今回のPyPIMのように、開発者が慣れた言語でPIMにアクセスできる環境が整っていけば、研究コミュニティや企業の実証実験は加速しやすくなります。人工知能、グラフ分析、シミュレーションなど、データ移動がネックになっている分野で、インメモリコンピューティングの活用が広がる可能性があります。
なぜ今、このニュースに注目するのか
コンピューターの性能向上は、これまで主にCPUの処理速度向上に依存してきました。しかし近年は、データ転送の制約が前面に出てきており、単にCPUを速くするだけでは限界が見えつつあります。
イスラエル研究チームによるPyPIMの発表は、「メモリ側を賢くする」という別の方向からコンピューティングの未来を描こうとする試みです。国際ニュースとしての技術的インパクトだけでなく、私たちが日常的に使うスマートフォンやクラウドサービスの裏側で、どのような思想転換が起きているのかを考えるきっかけにもなります。
インメモリコンピューティングがどこまで広がるかはまだ未知数ですが、「データを動かすより、計算を動かす」という発想は、これからの10年を左右する重要なキーワードの一つといえるでしょう。
Reference(s):
Researchers develop software for in-memory computing breakthrough
cgtn.com








