天王星の磁場、「誤解」だった? ボイジャー2号と太陽風が描き直す惑星像
天王星の磁場は長年「他の巨大惑星とはかなり違う」と考えられてきましたが、その前提が揺らいでいます。1986年にNASAの探査機ボイジャー2号が観測したデータを分析し直したところ、実はごくまれな太陽風イベントのさなかに天王星へ接近していたことが分かり、天王星の磁気圏(磁場に守られた空間)についての理解が見直されつつあります。
この記事のポイント
- 1986年のボイジャー2号は、太陽風が極端に強い「レアな4%の瞬間」に天王星を通過していたことが判明
- その結果、天王星の磁気圏は「プラズマがほとんどない特殊な環境」と誤解されていた可能性
- 新研究は、天王星の磁気圏が木星・土星・海王星など他の巨大惑星に近い姿かもしれないと指摘
- 最大の衛星タイタニアとオベロンは、これまで考えられていたよりも磁気圏の内側にとどまっている可能性が高い
- 衛星の地下にあるかもしれない海や、生命が存在しうる環境を探るうえで、天王星探査ミッションの重要性が増している
「天王星の謎」はなぜ生まれたのか
天王星は、ドイツ生まれの英国人天文学者ウィリアム・ハーシェルが1781年に発見した惑星です。望遠鏡を使って初めて見つかった惑星で、太陽系の中では木星・土星に次いで3番目に大きく、直径は約5万700キロメートル。体積にして地球63個分のサイズを持ちます。
太陽からの距離は地球のおよそ20倍。大気は主に水素とヘリウムで構成され、メタンが含まれることで青緑色に見えます。28個の既知の衛星と2つのリング系を持ち、極端に傾いた自転軸のため、「ボールが転がるように」横倒しで公転しているように見えることでも知られています。
とはいえ、私たちが天王星について知っていることの多くは、このときのボイジャー2号の観測に依存しています。ボイジャー2号は1986年に5日間のフライバイ(接近通過)観測を行い、そのデータが現在に至るまで天王星研究の土台になってきました。
実は「押しつぶされた」磁気圏を見ていたボイジャー2号
今回、NASAジェット推進研究所(JPL)の宇宙プラズマ物理学者ジェイミー・ジャシンスキー氏らの研究チームは、ボイジャー2号の接近前後8か月分のデータを改めて詳細に解析しました。その結果、探査機が天王星を通過したのは、太陽から吹き出す高エネルギー粒子の流れである太陽風が、異常に強くなっていた時期だったことが分かりました。
太陽風が強まると、惑星の磁気圏は外側から押され、通常よりも小さくなります。研究チームによると、ボイジャー2号が観測したとき、天王星の磁気圏は通常の約20%の体積にまで「押し縮められて」いたといいます。こうした強烈な太陽風の条件がそろうのは、解析した期間のうちわずか4%程度に過ぎませんでした。
ジャシンスキー氏は、「もしボイジャー2号が1週間早く到着していたら、もっと大きな磁気圏を観測できていただろう」と述べています。言い換えれば、私たちがこれまで「典型的な天王星」と思ってきた姿は、実はかなり特殊な瞬間のスナップショットだった可能性があるのです。
磁気圏とプラズマとは何か
そもそも磁気圏とは、惑星の磁場が周囲の空間を支配している領域のことです。太陽風や宇宙線といった高エネルギーの粒子から惑星やその衛星を守る「バリア」のような役割を果たします。木星や土星、海王星といった巨大惑星は、いずれも強力な磁気圏を持っています。
一方、プラズマとは、固体・液体・気体に続く「第4の状態」と呼ばれる物質の姿で、原子が電子とイオンに分かれた高エネルギー状態のガスのことです。惑星の磁気圏にあるプラズマは、次のようなさまざまな起源を持つとされています。
- 太陽風に含まれるプラズマ
- 磁気圏内を公転する衛星から放出されるプラズマ
- 惑星の大気そのものから逃げ出したプラズマ
ジャシンスキー氏は、「通常の惑星磁気圏はこうしたプラズマで満たされている」が、天王星では太陽風由来のプラズマも衛星由来のプラズマもはっきりと見えず、「観測されたプラズマは非常に薄かった」と振り返ります。
「プラズマがない特異な惑星」像からの転換
ボイジャー2号の当時の観測から、研究者たちは天王星の磁気圏について、プラズマが著しく少なく、非常にエネルギーの高い電子が異常に強いベルトを形成しているという印象を持ちました。
しかし今回の再解析結果からは、そうした「特異な姿」が、太陽風によって大きく押し縮められた、めったに起こらない状態を見ていただけだった可能性が浮かび上がっています。研究チームは、もし通常に近い状態で観測できていれば、天王星の磁気圏は木星・土星・海王星といった他の巨大惑星にかなり似て見えたはずだと指摘しています。
言い換えれば、天王星は「極端に変わった惑星」ではなく、私たちがこれまでデータの読み方を誤っていた可能性があるということです。
衛星タイタニアとオベロン、地下海の手がかり
ボイジャー2号の観測からは、天王星最大の2つの衛星であるタイタニアとオベロンが、しばしば磁気圏の外側を公転しているように見えるという結果も導かれていました。磁気圏の外に出てしまう時間が長い場合、衛星はより激しい宇宙線や太陽風にさらされることになります。
今回の研究は、磁気圏全体のサイズが再評価されたことで、この2つの衛星は実際にはこれまで考えられていたよりもしばしば磁気圏の内側にとどまっている可能性が高いと示しています。これは、衛星内部に隠れているかもしれない液体の水の海(地下海)を磁場の変化を通じて探るうえで、重要な意味を持ちます。
JPLの惑星科学者コリー・コクレーン氏は、タイタニアとオベロンについて、「他の主要な衛星と比べて大きいことから、天王星系の中でも液体の水の海を持つ最有力候補と考えられている」と述べています。
外側の太陽系で「生命の条件」を探る
科学者たちは今、太陽系の外側にある衛星の地下海が、生命を支えうる条件を備えているかどうかに強い関心を寄せています。その一環として、NASAは10月14日に木星の衛星エウロパを目指す探査機を打ち上げ、そこに生命の存在が可能かどうかを調べようとしています。
天王星の衛星でも同様に地下海の可能性が高まるなか、ジャシンスキー氏は「将来の天王星ミッションは、惑星本体や磁気圏だけでなく、大気、リング、衛星を理解するうえでも極めて重要だ」と強調します。
今回の研究は、単に天王星の磁場像を塗り替えただけではありません。ひとつの惑星や衛星を理解するには、「いつ」「どんな状況で」観測したデータなのかを丁寧に読み解く必要があることを、改めて思い出させてくれます。天王星へ向かう次の探査機が、どのような「本当の姿」を見せてくれるのか。国際ニュースとしても、宇宙好きの読者としても、今後の展開に注目したいところです。
Reference(s):
cgtn.com








