米国の水道水で新たな化学物質 毒性の可能性に懸念
米国の水道水から、処理過程で生じるこれまで未知だった化学物質が見つかり、約3分の1の住民が影響を受けている可能性があるとする研究が報告されました。毒性の有無はまだ確定していませんが、環境や健康リスクを考えるうえで重要なニュースです。
科学誌「サイエンス」に掲載 新たな副生成物を特定
最近、科学誌「サイエンス」に掲載された研究によると、米国の水道水の一部から、新しい化学物質の副生成物が見つかりました。この物質は、水道水の消毒に使われるクロラミン(塩素とアンモニアを組み合わせた消毒剤)が原因で生じることが分かりました。
研究チームは、この物質の正体をクロロニトラミド陰イオン(chloronitramide anion)と特定しています。クロラミンは、ウイルスや細菌を殺す目的で、米国の多くの自治体で広く使われている消毒方法です。
クロラミン自体は以前から利用されていますが、この副生成物の構造が明確になったのは、ごく最近になって分析技術が進歩したことが背景にあるとされています。
「潜在的に有毒」の可能性 しかし結論はまだ
研究者たちは、現時点でこの化学物質が人の健康にとって危険だと断定できる証拠はないとしています。一方で、既に懸念されている他の化学物質と似た特徴を持つことから、「潜在的に有毒」である可能性を否定できないとみています。
今回の物質が注目されている理由として、科学者たちは次の点を挙げています。
- 既に問題視されている化学物質と性質が似ているとみられること
- 米国の多くの地域でクロラミンが使われており、曝露する人の数が非常に多いこと
- 長期的な健康影響に関するデータがまだ全く蓄積されていないこと
2025年12月現在、この物質のリスク評価は始まったばかりで、科学者たちは毒性の有無や影響の程度を詳しく調べている段階です。
約1億1300万人が影響か 米国の3分の1の住民に関わる問題
研究によると、米国では約1億1300万人が、クロラミンで処理された水を日常的に水道から飲んでいるとされています。これは米国の住民のおよそ3分の1に相当します。
クロラミンが導入された当初から、この新しい副生成物も存在していたとみられますが、技術的な制約により、これまで正体が分かっていませんでした。今回ようやく構造が明らかになったことで、ようやく本格的にリスクを評価できるスタートラインに立ったとも言えます。
有害性の判断と規制には「年単位」で時間
一部の科学者は、この物質が人体にとって有害かどうか科学的に結論を出すまでには、年単位の時間がかかると指摘しています。さらに、仮に危険性が確認されたとしても、規制を整備し、実際に運用されるまでには、そこからさらに時間を要する可能性があります。
一般的に、新しい化学物質のリスク評価は、次のようなステップをたどります。
- 実験室レベルでの毒性試験(細胞や動物を用いた影響の確認)
- 曝露量(どのくらいの濃度をどの程度の期間摂取しているか)の推定
- 人の健康への影響を推定するリスク評価モデルの構築
- 必要に応じた基準値や規制の検討・導入
今回の物質については、まだこのプロセスの初期段階にあり、結論や規制の方向性が見えるのはこれからとされています。
水道事業体に求められる対応と住民へのメッセージ
研究者たちは、規制が整うまでの間、水道事業体が最新の研究成果を継続的にフォローし、住民の曝露をできる限り減らす努力をすべきだと提言しています。
具体的には、
- この物質を含む副生成物のモニタリング(監視)の強化
- 処理方法や運用条件の見直しを通じた副生成物の抑制
- 水質データや研究動向に関する情報の透明な公開
一方、住民側にとって重要なのは、不安を過度に膨らませるのではなく、自治体や水道事業体が発信する情報や最新の研究結果に注意を向けておくことです。現時点では、毒性や健康影響について結論が出ていないことも、押さえておくべきポイントです。
日本や世界への示唆 「見えないリスク」をどう管理するか
今回のニュースは米国の水道水の話ですが、その意味するところは米国に限られません。多くの国や地域で、水道水の安全を守るためにさまざまな消毒方法が用いられており、その過程で副生成物が生じる点は共通しています。
重要なのは、
- 科学技術の進歩によって、これまで見えなかった物質が新たに「見える」ようになっていること
- リスクが不確実な段階でも、早めに情報を共有し、監視体制を整えること
- 安全性とコスト、実効性のバランスをとりながら、水道水の質を継続的に改善していく姿勢
2025年12月現在、クロロニトラミド陰イオンの健康影響については、まだ多くの疑問が残されています。ただ、こうした研究を通じて、水道水の安全性をめぐる議論が一段と深まり、国際的なルールづくりや技術開発が進んでいく可能性があります。
「見えないリスク」をどう把握し、どう向き合うのか。今回の米国の事例は、日本を含む世界の水道行政や環境政策にも静かな問いかけを投げかけていると言えます。
Reference(s):
Scientists find new, 'potentially toxic' chemical in U.S. tap water
cgtn.com








