水道水の新リスク?消毒剤クロラミンから未解明の副生成物
米国人口の約3分の1を含む世界中の人々が利用する水道水の消毒剤から、潜在的に有害な副生成物が見つかったとする研究が科学誌Scienceに掲載されました。日常の「安全な水」をどう考えればよいのか、ポイントを整理します。
何が見つかったのか:クロラミンと新たな副生成物
無機クロラミンは、公衆の水道水から病原体を取り除くために、数十年にわたって使われてきた消毒剤です。研究によると、現在では米国だけで1億1300万人以上がクロラミン処理された飲料水に依存しており、この手法はカナダやアジア、ヨーロッパでも広く利用されています。
米国や世界では依然として塩素が最も広く使われる消毒剤ですが、一部の水道事業体では、塩素が生み出す副生成物を減らすためにクロラミンへ切り替えてきました。塩素由来の副生成物の中には、膀胱がんや結腸がん、低出生体重、流産との関連が指摘されているものもあるためです。
しかし、クロラミンそのものも時間とともに分解し、その生成物の多くは十分に性質がわかっていないと、研究の筆頭著者であるジュリアン・フェアリー氏は説明します。40年以上前に存在が報告されながら、化学的な中身が特定されないままだった「正体不明の副生成物」もその一つでした。
フェアリー氏らのチームは、従来の化学的手法と、高分解能質量分析や核磁気共鳴(NMR)分光法といった最新の分析技術を組み合わせ、この「正体不明の物質」の正体を突き止めました。その名はchloronitramide anion(クロロニトラミド陰イオン)です。
研究チームが調べたクロラミン処理水40試料すべてから、このクロロニトラミド陰イオンが検出され、濃度は最大で1リットルあたり100マイクログラムに達していました。これは、多くの国や地域で定められている消毒副生成物の一般的な規制値(おおむね60〜80マイクログラム/リットル前後)を上回る水準です。
毒性はまだ不明、それでも懸念される理由
現時点で、この新たな副生成物の毒性について動物実験などの詳細な毒性試験は行われていません。それでも研究者たちは警鐘を鳴らしています。
フェアリー氏は「この化合物の構造そのものが懸念されるうえ、実際に形成されている濃度も気になるレベルにある。健康影響に関する研究が必要だと考えている」と述べています。論文では、クロロニトラミド陰イオンを公共用水の監視対象として「直ちに定量すべき候補」と位置づけ、健康リスクと毒性を精査する研究を求めています。
つまり、この物質が人の健康にどの程度影響するのかは「まだわからない」が、構造や検出レベルからみて、無視せず早急に調べるべきだ——というのが研究チームの立場です。
クロラミンを続けるか、塩素に戻すか:難しい選択
今回の研究は、水道事業体や規制当局にとって難しい問いを突きつけます。クロラミンは、塩素が生み出す既知の有害副生成物を減らす目的で広く導入されてきましたが、そのクロラミンも別の未知の副生成物を生んでいる可能性が浮かび上がったからです。
フェアリー氏は、水道事業者がクロラミンから塩素へと再び切り替える選択肢もあり得ると指摘します。ただしその場合でも、塩素が生み出すことがわかっている副生成物への対策として、別の二次消毒手段を組み合わせる必要が出てきます。
どの消毒方法を選ぶにしても、病原体を確実に抑え込みながら、副生成物による健康リスクをいかに最小化するかというバランスの問題になります。今回の発見は、そのバランス計算を見直すきっかけになりそうです。
私たちにできること:家庭での対策と情報収集
規制や水道設備の更新には時間がかかるため、研究チームは「気になる人は家庭用の浄水器のうち、活性炭ブロックを使ったタイプの利用を検討してほしい」と提案しています。活性炭は、多くの有機化合物や一部の副生成物を吸着して除去する働きがあるためです。
もちろん、これは今すぐ水道水が危険だと断定するものではありません。大切なのは、リスクが指摘された段階でどのように対応するかというリスク・マネジメントです。
- お住まいの自治体や水道局が、どのような消毒方法を採用しているかを確認する
- 水質検査結果や年次報告書に、消毒副生成物の情報が含まれているかを見る
- 必要に応じて、活性炭ブロック型浄水器の導入を検討する
- 新しい研究や規制の動きが報じられた際には、複数の情報源に目を通す
日本・アジアの読者への示唆
クロラミン処理は、米国だけでなくカナダやアジア、ヨーロッパでも採用されていると報告されています。日本でも、水処理の高度化や老朽化した配水管への対応など、水道インフラをどう更新していくかが大きな課題となっています。
今回の研究は、「安全な水」をめぐる世界的な議論に新たな論点を投げかけています。水質基準の見直しや消毒方法の選択は、コストや技術だけでなく、私たちがどの程度のリスクを許容するのかという社会的な合意とも深く結びついています。
これから注目したいポイント
今後数年は、この新たな副生成物と水道水の安全性をめぐる議論が続くとみられます。とくに、次のような点に注目が集まりそうです。
- クロロニトラミド陰イオンの毒性や健康影響が、動物実験や疫学研究でどのように評価されるか
- クロラミン処理を行う水道システムで、この物質がどれほど広く、どのレベルで検出されるのか
- 塩素やクロラミン以外の消毒技術を含めた、総合的なリスク比較とコスト評価
- 規制当局が、既存の消毒副生成物の基準を見直すのか、それとも新たな項目として追加するのか
水道の蛇口をひねれば当たり前のように出てくる水の背後では、多くの科学と政策判断が働いています。今回の発見をきっかけに、「水の安全」をめぐる議論に少しだけ意識を向けてみることが、私たち自身の健康を守る第一歩になるかもしれません。
Reference(s):
Study: Common water disinfectant creates potential toxic byproduct
cgtn.com








