オーストラリア、16歳未満のSNS禁止法案 子どもの安全と自由どこまで守る?
オーストラリアが、16歳未満の子どもに対するソーシャルメディア利用禁止に向けて大きく動きました。子どもの安全と表現の自由、どこまで線を引くべきか――世界が注目する議論が続いています。
16歳未満にSNS禁止へ 下院を通過した法案とは
2025年、オーストラリア下院(代議院)で、16歳未満の子どもによるソーシャルメディア利用を事実上禁止する法案が可決されました。投票は賛成102、反対13と大差で、アルバニージー首相率いる中道左派・労働党政権は、野党を含む超党派の支持を取り付けています。
この法案は、世界でも最も厳しい水準とされるSNS規制の一つで、成立すれば、X(旧ツイッター)やインスタグラム、TikTok など主要なプラットフォームに大きな影響を与える可能性があります。
年齢確認は「合理的な措置」が義務に
法案では、ソーシャルメディア企業に対し、利用者が16歳以上であることを確認するための「合理的な措置」を講じることを義務づけています。
- 16歳未満の新規登録を認めない
- 既存アカウントについても年齢確認を進める
- 体系的な違反があった場合、最大4,950万豪ドル(約3,200万米ドル)の罰金
政府は、年齢確認の仕組みとして、顔認証などのバイオメトリクス(生体認証)や、運転免許証・政府発行IDの提示などを含む「年齢確認システム」の試験運用を行う計画を打ち出してきました。
個人情報は守られるのか 上院委員会が条件
一方で、オーストラリア上院の委員会は法案を支持しつつも、「SNS側が利用者にパスポートやデジタルIDなどの個人情報の提出を強制すべきではない」との条件を付けました。若者の安全を守ることと、プライバシーや個人データ保護をどう両立させるかが、大きな論点になっています。
委員会のカレン・グローガン上院議員は、「特に多様な背景を持つ若者たちを、議論の中心に据える必要がある」と述べ、若者の視点を取り入れた制度設計を政府に求めました。
背景にあるのは「子どもの心の危機」
今回の禁止方針が公に打ち出されたきっかけは、ソーシャルメディアの影響をテーマにした議会調査です。調査の過程では、ネット上のいじめや有害コンテンツが原因で自傷行為に至った子どもの親たちが、涙ながらに実態を証言しました。
アルバニージー首相は、SNSの「過度な利用」が子どもの身体的・精神的健康にリスクをもたらしていると強調し、保護者からの強い支持を追い風に規制を進めようとしています。
テック企業と若者からの反発
しかし、この動きに対しては、テクノロジー企業や若者の側から強い懸念の声も上がっています。
グーグル、メタ、TikTok、Xの主張
オーストラリア議会に提出された意見書のなかで、グーグルとメタ(フェイスブックやインスタグラムの運営企業)は、「年齢確認システムの試験運用が終了するまで、禁止の導入を遅らせるべきだ」と主張しました。年齢確認の仕組みがどこまで正確で、安全で、差別を生まないかについて、検証が必要だという立場です。
ByteDance 傘下の動画アプリ TikTok は、法案の詳細について「さらに議論が必要だ」とし、エロン・マスク氏が率いる X は、「提案されている法律は子どもの人権を損なうおそれがある」と懸念を表明しました。
「声を奪われる」若者たち
若者支援団体や当事者からは、「一律の禁止は、子どもたちから声を奪うことになる」という批判もあります。SNSは、同世代とのつながりだけでなく、家族やコミュニティとの連絡手段としても使われているからです。
シドニーの高校生で16歳のエニー・ラムさんは、「ソーシャルメディアを使いすぎるのがよくないことは分かっていて、自分でも気をつけています。でも、全面的な禁止はうまくいかないと思う」と話しています。若者にとって、SNSは単なる「遊び」ではなく、生活インフラの一部になっている現実があります。
世論は圧倒的に「賛成」
一方で、オーストラリア国内の世論は、今のところ禁止にかなり好意的です。世論調査会社ユーガブによる調査では、国民の77%が16歳未満のSNS禁止を支持しているとされ、数か月前の61%から大きく増加しました。
公共放送のオーストラリア放送協会(ABC)から、ルパート・マードック氏系のニュースコープに至るまで、多くの主要メディアも禁止を支持。国内最大の新聞グループであるニュースコープは、「Let Them Be Kids(子どもでいさせよう)」というスローガンを掲げるキャンペーンを展開し、規制の必要性を訴えてきました。
保護者団体の一つ、オーストラリア保護者評議会のジェニー・ブランチ=アレン会長は、「会員の多くが、これを家族に影響する最大級の問題の一つと捉えています。大企業は責任を取り始めるべきです。SNSと若者をめぐる問題を少しでも減らしたいのです」と語っています。
「守りすぎ」と「放任」のあいだで
今回のオーストラリアの動きは、子どもを守るためにどこまで国家が介入すべきか、そしてテック企業にどこまで責任を負わせるべきかという、世界共通の問いを突きつけています。
- 一律の年齢制限は、本当に子どもを守ることにつながるのか
- 抜け道(親のアカウントを借りる、年齢詐称など)をどう防ぐのか
- 年齢確認のための顔認証やID提出は、プライバシー侵害にならないか
- オンラインのリテラシー教育や、家庭・学校での対話は十分か
規制を強めれば、危険なコンテンツから子どもを遠ざけやすくなる一方で、「子どもの声を社会から見えにくくしてしまう」可能性も指摘されています。特に、家庭に問題を抱える子どもや、マイノリティの若者にとって、SNSは時に「逃げ場」や「居場所」となっているからです。
日本への示唆:議論の「土台」をどうつくるか
日本でも、SNSを通じた誹謗中傷や性被害、依存の問題がたびたび話題になります。一方で、若者の政治参加や社会問題への関心、クリエイティブな活動がSNSを通じて広がっているのも事実です。
オーストラリアの事例は、次のような点を考えるヒントになります。
- 年齢による一律規制と、個々の家庭・学校の役割をどう組み合わせるか
- テック企業にどこまで義務と責任を課すべきか
- 子ども・若者自身の意見を、制度設計にどう反映させるか
- プライバシーを守りながら、安全な年齢確認をどう実現するか
法規制か、教育か、自己責任か――議論は単純な二択ではありません。あなたなら、どこに「ちょうどよい線」を引くでしょうか。オーストラリアの動きは、私たち一人ひとりに、その問いを投げかけています。
Reference(s):
Australia nears social media ban for children after heated debate
cgtn.com








