初の民間宇宙遊泳の富豪、NASA長官に指名 スペースXとの連携はどうなる
アメリカの宇宙機関NASAのトップに、初の民間による宇宙遊泳を行った富豪実業家ジャレッド・アイザックマン氏が指名されました。民間宇宙企業スペースXと深く関わる人物が、政府機関の長に就く可能性は、今後の宇宙開発のかたちを大きく左右しそうです。
トランプ次期大統領がNASA長官に指名
大統領就任を控えるドナルド・トランプ氏は今週水曜日、41歳の実業家ジャレッド・アイザックマン氏をNASA長官に指名しました。上院で承認されれば、アイザックマン氏はジョー・バイデン大統領に指名されて就任したビル・ネルソン現長官(82)の後任となります。
ネルソン氏はフロリダ選出の民主党上院議員を務めた経歴を持ち、現職の連邦議員として1986年にスペースシャトル「コロンビア」に搭乗した経験もあります。この飛行は、後に大事故となった「チャレンジャー」打ち上げ直前のミッションでした。
初の民間宇宙遊泳を行ったジャレッド・アイザックマン氏
アイザックマン氏は、クレジットカード決済企業シフト4を創業した億万長者で、自ら戦闘機を操縦するパイロットでもあります。幼稚園の頃から自称「宇宙ギーク」だと語り、16歳で高校を中退して高卒認定試験(GED)を取得。その後、両親の自宅の地下室で始めたビジネスを成長させ、現在の会社につなげました。
スペースXとの密接な協力関係
アイザックマン氏は、イーロン・マスク氏が率いるスペースXから一連の宇宙飛行を購入し、同社との協力関係を深めてきました。2021年には、懸賞で選ばれた一般市民らを連れて地球周回飛行を実施。その後、今年9月の飛行では、スペースXが開発する新型船外活動用スーツを試すため、宇宙船のハッチの外に短時間「顔を出す」形で宇宙空間に出て、初の民間による宇宙遊泳(船外活動)を行いました。
マスク氏はSNS「X」に投稿し、アイザックマン氏を「高い能力と誠実さを兼ね備えた人物」と称えています。
ビジネスと飛行の経歴
アイザックマン氏は、世界有数の民間戦闘機運用会社「ドレイケン・インターナショナル」を設立し、世界最大規模の民間戦闘機保有を実現しました。コールサイン(無線で使う呼び名)は「ルーキー」を意味する「ルーク」で、2009年には小児難病の願いをかなえる慈善団体「メイク・ア・ウィッシュ」のために資金を集めながら、世界一周のスピード記録を樹立しています。
現在もアメリカ東部ペンシルベニア州を拠点に妻と2人の娘と暮らしており、今後さらに2回のスペースX飛行を予約済みです。その一つでは、同社の大型ロケット「スターシップ」を使った初の有人地球周回飛行の指揮を執る予定とされています。
アルテミス計画と民間宇宙企業への依存
ネルソン氏の在任期間中、NASAは有人月探査計画「アルテミス」を本格化させました。この計画は、アポロ計画の双子の女神にちなんで名付けられた次世代の月探査プログラムで、早ければ2026年にも4人の宇宙飛行士を月周回軌道へ送り、その後、50年以上ぶりとなる月面着陸を目指しています。
NASAは、この月面着陸の成否をスペースXの大型ロケット「スターシップ」に託しています。スターシップはテキサス州から試験打ち上げが続けられている「メガロケット」で、宇宙飛行士を月面へ降ろす役割を担う計画です。
すでにNASAは、国際宇宙ステーション(ISS)への宇宙飛行士や物資の輸送をスペースXに依存しています。一方、別の民間企業であるボーイングも、宇宙船「スターライナー」でNASAの乗員輸送に参入しようとしてきました。
スターライナーの不具合とISSに取り残された乗組員
ボーイングは今年6月、NASAの依頼を受けた初の有人飛行を実施しましたが、スターライナー宇宙船には多くのトラブルが発生しました。その結果、2人の試験飛行パイロットは国際宇宙ステーションに長期滞在を余儀なくされています。
当初8日間の予定だったミッションは、8カ月以上の長期滞在へと大きく延びました。2人は来年2月、スペースXの宇宙船に乗り換える形で地球へ帰還する見通しです。この出来事は、NASAがスペースXへの依存度を一段と高めつつある現状を浮き彫りにしています。
太陽系探査と火星サンプルリターン計画
NASAは、人間の宇宙飛行と並行して、太陽系のロボット探査にも力を入れています。現在、氷に覆われた木星の衛星エウロパへ向かう探査機が航行中で、火星探査車「パーサビアランス」は火星の岩石や土壌のサンプルを採取するミッションを続けています。
しかし、これらの火星のサンプルを地球へ持ち帰る「サンプルリターン計画」では、予算の制約が大きな課題となっています。当初の計画は総額110億ドル規模に膨らみ、試料が地球へ届くのは2040年以降になる見通しでした。
限られた予算の中で、NASAはより迅速かつ低コストな方法を模索しており、人間の宇宙飛行と同様に、産業界や外部の組織にアイデアと協力を求めています。
民間実業家トップでNASAはどう変わるのか
こうした背景のもと、民間の宇宙飛行を自ら経験した実業家がNASA長官に就任すれば、宇宙政策の優先順位や進め方に変化が生まれる可能性があります。
- スペースXをはじめとする民間企業との連携が、これまで以上に重視されること
- 月・火星探査や太陽系探査で、スピードとコスト削減を意識した戦略が前面に出てくること
- 一方で、特定企業との距離感や、公的機関としての中立性をどう維持するかが問われること
アイザックマン氏は、SNSへの投稿で指名について「光栄に思う」としたうえで、「宇宙からこの驚くべき惑星を目にする幸運に恵まれた者として、人類史上もっとも壮大な冒険をアメリカがリードすることに情熱を抱いている」と強調しました。今後、上院での承認手続きを経て、NASAの新たなリーダーシップ像がどのように形づくられるのかが注目されます。
押さえておきたいポイント
- 初の民間宇宙遊泳を行った富豪ジャレッド・アイザックマン氏が、トランプ次期大統領によりNASA長官に指名された
- 現長官ビル・ネルソン氏のもとで、NASAはアルテミス計画など有人月探査の準備を加速してきた
- ISSへの輸送や将来の月面着陸で、NASAはスペースXへの依存を強めている一方、ボーイングのスターライナーはトラブルで乗組員が長期滞在中
- 火星サンプルリターン計画などでは予算制約が厳しく、民間の技術と発想を取り入れた新たな計画づくりが進んでいる
- 民間実業家出身の長官が誕生すれば、国家と民間がより密接に組み合わさる新しい宇宙開発の時代が本格化する可能性がある
Reference(s):
Billionaire who performed the first private spacewalk to lead NASA
cgtn.com








