H5N1鳥インフル、単一変異でヒト感染リスク増か 米研究が指摘
高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)H5N1が米国の乳牛の間で確認される中、ウイルス表面のタンパク質にたった1カ所の変異が入るだけで、ヒトへの感染がより起こりやすくなる可能性を示した研究が発表されました。本稿では、この最新の国際ニュースを日本語で分かりやすく整理します。
米国の乳牛で広がるH5N1、今のところヒト同士の感染は確認されず
今回対象となったのは、現在米国の乳牛で流行している高病原性鳥インフルエンザH5N1ウイルスです。現在の牛由来H5N1株は、ヒト同士で効率よく感染が広がることは知られていません。
これまでに報告されているヒトでの感染例は、感染した野鳥や家きん、乳牛など、すでにH5N1にかかっている動物に直接接触した人に限られています。つまり、現時点で「人から人へ」一般的にうつるウイルスではないとされています。
鍵を握るのはウイルス表面のヘマグルチニン
インフルエンザウイルスは、表面にあるヘマグルチニン(HA)と呼ばれるタンパク質を使って、私たちの体の細胞に付着します。HAがどの種類の細胞に結びつきやすいかによって、そのウイルスが鳥に適したものか、ヒトに適したものかがおおよそ決まります。
米国の医療研究機関であるScripps Researchの研究チームは、牛由来H5N1ウイルスによる米国初のヒト感染例から分離された株(系統2.3.4.4b)を用い、HAの遺伝子配列にさまざまな変異を入れたとき、鳥型の受容体とヒト型の受容体のどちらに結びつきやすくなるのかを詳しく調べました。
たった1カ所の変異で「鳥型」から「ヒト型」へ
研究チームが注目したのは、HAの226番目のアミノ酸です。この部分がグルタミン(Q)からロイシン(L)に置き換わる、いわゆるQ226L変異が起きると、受容体の好みが鳥型からヒト型へと切り替わることが分かりました。
つまり、HAのごく一部が変わるだけで、ウイルスがヒトの細胞に結びつきやすくなる可能性がある、ということになります。論文は、学術誌『Science』に掲載されました。
「今すぐ大流行」ではないが、なぜ重要なのか
今回の結果は、あくまで実験室での受容体への結合性を調べたものであり、実際にヒト同士の間で容易に感染が広がることを示したわけではありません。また、現在流行している牛由来H5N1ウイルスが、すでにその変異を獲得していると示したものでもありません。
それでも重要なのは、「ヒトへの適応」に関わりそうなポイントが、少なくとも一つはっきりと示されたことです。米国立衛生研究所(NIH)は、この研究を資金面で支援しており、高病原性鳥インフルエンザH5N1がヒトに感染しやすくなるような遺伝的変化を起こしていないかどうか、引き続き慎重な監視とモニタリングが必要だと強調しています。
監視とモニタリングは何を意味するのか
H5N1のような高病原性インフルエンザに対する「監視・モニタリング」とは、具体的には次のような取り組みを指します。
- 野鳥、家きん、乳牛などの動物で見つかったウイルスの遺伝子配列を継続的に解析する
- ヒトの感染例が出た場合、そのウイルスの性質や変異を詳しく調べる
- 受容体結合性など、ヒトへの適応を示唆する性質の変化を早期に検出する
- 得られた情報をもとに、公衆衛生上の対策やワクチン開発の優先順位を検討する
こうした地道なモニタリングがあるからこそ、「どの変異が危険のサインなのか」を早めに察知し、社会全体で備えることができます。
読者として押さえておきたいポイント
今回のH5N1研究から、私たちが押さえておきたいポイントをまとめると、次の3点になります。
- 現在の牛由来H5N1は、ヒト同士で広がるウイルスとはみなされていない
- しかし、HAの226番目のアミノ酸がグルタミンからロイシンに変わるだけで、ヒト型受容体への結合性が高まる可能性が示された
- この知見は、今後の遺伝子監視や公衆衛生戦略を考えるうえで重要な「早期警戒シグナル」となりうる
新型コロナ以降、「次のパンデミック」をめぐるニュースはどうしても不安をかき立てがちです。ただし、科学研究の多くは、危険を誇張するためではなく、「どこにリスクがあり、どこから備えを始めるべきか」を冷静に見極めるために行われています。
高病原性鳥インフルエンザH5N1に関する今回の報告も、その一つです。リスクを過小評価も過大評価もせず、最新の国際ニュースと科学的知見を手がかりに、私たち自身の視点をアップデートしていくことが求められています。
Reference(s):
cgtn.com








