TikTok禁止の行方:米国で何が起きているのかを時系列で読む
米国でTikTokが全面禁止になるかもしれない──この数年続く議論は、2025年12月の今も国際ニュースの大きなテーマです。この記事では、米国で何が起きてきたのかを時系列で整理し、禁止が現実になった場合の影響を考えます。
TikTokとは何か:急成長した動画アプリ
TikTokは、中国の企業バイトダンスが開発した短尺動画アプリ「抖音(Douyin)」の国際版です。バイトダンスは2012年に起業家の張一鳴氏が設立し、ユーザーの好みに合わせて動画を自動的におすすめする高度なアルゴリズムで急成長してきました。
2017年にTikTokとして世界展開を始めると、若い世代を中心に爆発的な人気を獲得し、調査会社SensorTowerによると2019年には世界で2番目に多くダウンロードされたアプリとなりました。米国内では、約1億7,000万人のユーザーが利用しているとされます。
2019〜2020年:安全保障リスクとしての注目
TikTokの急成長と並行して、米国では安全保障上の懸念が高まりました。2019年、米国国防総省は軍関係者に対し、端末からTikTokを削除するよう勧告しています。背景には、アプリによる大規模なデータ収集と、運営企業が中国の企業であることへの警戒感がありました。
2020年には、当時のトランプ政権が大統領令を出し、TikTokの利用制限を本格的に進めようとしました。根拠として挙げられたのは、データの扱いや、中国政府とつながる可能性があるという懸念です。ただし、これらの措置は法廷での争いに直面し、多くは実際の全面的な禁止には至りませんでした。
バイデン政権への移行と2024年の新法
その後、バイデン政権はトランプ政権時代のTikTok禁止をめぐる訴訟を一時停止し、事実上、当初の禁止プロセスは止まった形になりました。一方で、競合する米国のSNS企業、特にメタ(旧フェイスブック)は、TikTokを子どもや若者にとっての脅威として積極的にアピールし、世論形成にも影響を与えました。
2024年春、状況は再び動きます。米議会は「外国の敵対勢力が支配するアプリ」から米国人を守ることを目的とした法律を可決し、バイデン大統領が署名しました。この法律により、大統領は国家安全保障上の脅威と見なされるアプリを禁止する権限を持つことになり、バイトダンスに対しては、米国事業の売却を迫る期限が設定されました。
2025年1月:最高裁が争点を審理
これに対し、TikTok側は米政府を提訴しました。主張の中心は、この法律に基づく禁止は合衆国憲法に反し、企業としてのTikTokだけでなく、ユーザーの言論の自由(米国憲法修正第1条)も侵害するという点です。
2025年1月10日、米連邦最高裁判所はこの問題に関する弁論を行いましたが、その場で直ちに結論は示しませんでした。TikTokの未来は、司法判断と政治判断の両方に大きく左右される局面に入ったといえます。
想定されていたシナリオ:2025年1月19日以降に何が起こりうるか
当時示されていたスケジュールでは、もし最高裁が禁止を支持し、米政府も施行を延期しなければ、2025年1月19日にTikTokは米国で禁止される可能性がありました。その場合、次のような影響が想定されていました。
- アプリストアからの削除:米国のスマートフォンユーザーは、アプリストアでTikTokを新規にダウンロードできなくなる。
- サービス停止:すでにインストール済みのユーザーも、配信側のサービスが停止すれば動画を視聴できなくなる可能性がある。
- 回避手段の模索:一部のユーザーはVPN(仮想プライベートネットワーク)などのツールを使い、米国外の接続としてTikTokにアクセスしようとする可能性がある。
また、別の選択肢として、ユーザーが他のSNSに移る動きも予想されていました。例えば、中国発の別のソーシャルメディアであるRedNoteは、米国からの新規登録が急増し、iPhone向け無料アプリランキングの上位に入る状況が報じられていました。
クリエイターと従業員への影響
米国でのTikTok禁止が現実になった場合、もっとも影響を受けるのは、TikTokで生計を立てているクリエイターたちです。彼らは別のプラットフォームに移ったとしても、TikTok上で築いたフォロワーやコミュニティを最初から作り直さなければならない可能性があります。
他方で、TikTokの米国従業員については、バイトダンスが「すぐに米国から撤退することはない」と伝えたと報じられており、少なくとも短期的には雇用が一気に失われるわけではないとみられていました。
政治の動き:トランプ氏の復帰と選択肢
米国政府側にも、いくつかの選択肢があると指摘されていました。禁止の実施を延期することも可能であり、2025年1月20日に就任したドナルド・トランプ氏は、TikTokを救済する案を検討していると伝えられていました。また、最高裁が禁止を覆す判断を下せば、施行直前であっても状況は一変する可能性があります。
なぜこの問題は重要なのか:3つの論点
TikTok禁止をめぐる米国の議論は、単に1つの人気アプリの行方にとどまりません。国際ニュースとして注目するべき論点がいくつかあります。
- 表現の自由と安全保障のバランス
国家安全保障上の懸念を理由に、どこまでプラットフォームへのアクセスを制限できるのかという問題です。米国では、憲法による言論の自由の保障との関係が大きな争点になっています。 - グローバル・プラットフォーム競争
国境をまたいで利用されるSNSや動画アプリに対し、各国政府がどこまで規制をかけられるのか。今回のケースは、今後の国際的なデジタル規制の前例となる可能性があります。 - 生活インフラとしてのSNS
約1億7,000万人の米国ユーザーにとって、TikTokは娯楽だけでなく、情報収集やビジネスにも使われています。禁止が現実になれば、日常の情報環境やクリエイター経済に大きな揺さぶりが生じる可能性があります。
2025年12月の今、私たちが見ておきたいこと
2025年1月までの動きだけを見ても、TikTokをめぐる米国の議論は、テクノロジー、政治、法制度、ビジネスが複雑に絡み合っていることが分かります。2025年12月の今、この問題は次のような問いを私たちに投げかけています。
- 安全保障を理由に、どこまでデジタルプラットフォームへのアクセスを制限できるのか。
- 国境を越えて使われるアプリに対し、各国の司法や立法はどのようなルールを作るべきか。
- プラットフォーム依存が進む中で、クリエイターやユーザーはどのようにリスク分散を考えるべきか。
TikTokの行方は、単にひとつのアプリに関するニュースではなく、デジタル時代の国際秩序と私たちの日常がどのように結びついているのかを考えるきっかけにもなっています。今後の米国の司法判断や政策の動きは、日本を含む世界のデジタル政策にも少なからず影響を与える可能性があります。
Reference(s):
TikTok's future: A timeline and analysis of the potential ban impact
cgtn.com








