中国が発表 2024年世界トップ10科学技術成果を読み解く
2024年、江蘇省南京市で開かれた記者会見で、中国科学院(CAS)と中国工程院(CAE)が「2024年世界のトップ10科学技術成果」を発表しました。機能するヒト脳組織の3Dプリントや失語症の人を支援する脳読解装置、視力回復を目指す幹細胞治療など、ライフサイエンスと先端テックが交差する成果が並びました。
2025年の今、私たちはこれらの成果を「未来の断片」としてどう受け止めるべきか。国際ニュースとしての位置づけとともに、社会やビジネスへのインパクトを整理します。
中国の学術機関が選ぶ「世界トップ10」
発表を行ったのは、中国の最高学術機関とされる中国科学院(CAS)と中国工程院(CAE)です。両機関の院士と呼ばれる研究者たちは、科学と工学分野で国内最高位の学術称号を持ち、その投票によって世界のトップ10成果が選ばれました。
記者会見は江蘇省南京市で開かれ、CAEの王辰副院長が成果を公表しました。この「世界トップ10」選出は今回で31回目となり、科学技術への公共の理解を深めることを目的とした毎年の恒例イベントになっています。
同じ場では「中国の2024年トップ10科学技術成果」もあわせて発表され、世界と中国の両方の動きを見渡せる構成となりました。
注目分野1:脳を「作り」、言葉を「読み解く」技術
2024年のリストからは、脳科学と神経技術に関する成果が複数選ばれました。ヒト脳の機能を再現しようとするアプローチと、脳の活動から言葉を読み取ろうとするアプローチが同時に進んでいることが分かります。
機能するヒト脳組織の3Dプリント
トップ10の一つは、機能を持つヒトの脳組織を3Dプリントすることに成功した研究です。立体的に細胞を積み重ねて脳組織を再現することで、従来の細胞培養では難しかった複雑な神経回路の振る舞いを再現できる可能性があります。
このような3Dプリント技術は、将来的に脳疾患のモデルづくりや薬の効果検証などに役立つと期待されますが、倫理的な議論も含め、慎重な議論が欠かせません。
バイリンガル脳読解装置と失語症の支援
別の成果として、世界初とされるバイリンガル(2言語対応)の脳読解装置が選ばれました。この装置は、発話が難しい失語症の人の脳活動を読み取り、再び「話す」ことを助けることを目指しています。
脳信号から言語を復元する技術は、コミュニケーション支援の新しい手段になり得る一方で、プライバシー保護やデータの扱いなど、社会的なルールづくりも同時に問われます。
最大規模の脳遺伝子制御ネットワークアトラス
さらに、最大規模の脳の遺伝子制御ネットワークアトラスの構築もトップ10に入りました。どの遺伝子がどのように脳で働き合っているのかを地図のように整理することで、発達障害や認知症など、さまざまな脳疾患の理解に向けた基盤が整いつつあります。
注目分野2:量子チップと宇宙望遠鏡が変える「観測」
2024年のトップ10には、極めて小さな量子の世界と、広大な宇宙の構造という、スケールのまったく異なる「観測」の進歩も含まれました。
量子チップ「Willow」の精度向上
Googleの新しい量子チップ「Willow」は、重要な精度の節目を達成したとして選出されました。量子チップは、量子ビットと呼ばれる単位を使って計算を行う次世代の計算基盤です。
誤りをどこまで抑えられるかは、量子計算が実用化できるかどうかの鍵となります。今回の成果は、量子コンピューターを現実の問題解決に使うための一歩として注目されています。
宇宙望遠鏡「Euclid」と「宇宙アトラス」
宇宙観測の分野からは、「Euclid(ユークリッド)宇宙望遠鏡」が初の「宇宙アトラス」画像を撮影した成果が選ばれました。
宇宙アトラスとは、数多くの天体を一枚の地図のようにとらえ、宇宙の大規模な構造を描き出そうとする試みです。こうした観測データは、宇宙がどのように形づくられてきたのかを理解するための重要な材料になります。
注目分野3:がん、視力、臓器移植、感染症…医療フロンティアの広がり
リストの中でも、多くを占めたのが医療・ライフサイエンス分野の成果です。病気の理解を深める基礎研究から、具体的な治療法や予防法に近いものまで、さまざまな段階の研究が含まれています。
がん細胞の超精密3Dアトラス
一つは、がん細胞の超精密な3Dアトラス(立体地図)の作成です。がん細胞がどのような構造を持ち、周囲の細胞とどう関わっているのかを詳細に可視化できれば、治療標的をより正確に絞り込める可能性があります。
世界初の視力回復を目指す幹細胞治療
世界で初めて、人の視力を回復させることを目指した幹細胞治療もトップ10入りしました。損なわれた視覚機能を細胞レベルで再生しようとする試みは、失明や重い視力障害に対する新たな選択肢になり得ます。
初の生体ブタ腎臓移植
また、ブタの腎臓を生きた人へ移植する「世界初の生体移植」が行われたことも大きなニュースとして選ばれました。臓器不足が続くなかで、異種移植と呼ばれるアプローチは、倫理や安全性への議論を伴いながらも、解決策の一つとして模索されています。
長時間作用型HIV予防注射の試験成功
HIV感染を防ぐための長時間作用型注射薬の試験成功も、2024年の成果として挙げられました。服薬の負担を減らし、より多くの人が予防にアクセスしやすくなる可能性があります。
宇宙輸送の新段階:スターシップ第5回試験飛行
宇宙輸送インフラの分野では、SpaceXの大型ロケット「スターシップ」の第5回試験飛行がトップ10に入りました。この試験では、第1段ロケットの回収に成功したとされています。
ロケットの再使用が安定して実現できれば、宇宙への輸送コストを大きく下げ、衛星打ち上げや月・火星探査など、さまざまな計画の前提を変える可能性があります。
なぜ中国発の「トップ10リスト」が重要なのか
今回のリストは「世界の」科学技術成果を対象としていますが、それを選んだのが中国科学院と中国工程院である点も見逃せません。どのようなテーマを重視し、どのような研究を「節目」と見なすのかは、その国や地域の科学技術戦略を映し出す鏡でもあります。
脳科学、量子技術、宇宙観測、がんや感染症対策、臓器移植など、2024年のトップ10は、生命・情報・宇宙という三つの領域に重点が置かれているように見えます。これらは今後、産業政策や国際協力の重要なキーワードにもなっていくでしょう。
2024年の成果から見える三つの潮流
- 脳と心へのアプローチの高度化:脳組織の3Dプリントや脳読解装置、脳の遺伝子ネットワーク解析など、人間の認知や意識に迫る研究が加速しています。
- 医療の個別化と再生医療の前進:がん細胞の3Dアトラスや幹細胞治療、HIV予防注射など、一人ひとりに合った治療や長期的な予防をめざす流れが強まっています。
- 観測技術の飛躍と宇宙インフラの整備:量子チップの高精度化、宇宙アトラスの作成、再使用ロケットの試験成功など、「見る」「測る」「運ぶ」のすべてがアップデートされつつあります。
2025年の今、私たちが考えたいこと
2025年を迎えた今、2024年の科学技術成果を振り返ることは、これからの一年をどう過ごすかを考える手がかりにもなります。新しい技術は、便利さだけでなく、ルールづくりや倫理、教育、ビジネスのあり方も問い直します。
日々のニュースの中で見逃してしまいがちな科学技術の動きを、「世界トップ10」という切り口からとらえ直すことで、家族や友人、職場での会話に新しい視点を持ち込むことができそうです。
Reference(s):
cgtn.com








