中国発AI「DeepSeek」、欧州スタートアップの切り札に
中国発AI「DeepSeek」、欧州スタートアップの切り札に
中国発の対話型AI「DeepSeek」が、欧州のスタートアップ企業にとって強力な武器になりつつあります。OpenAIなど米テック企業が先行してきた生成AI市場で、DeepSeekは圧倒的な低価格と十分な性能を武器に、欧州勢がグローバルAI競争に追いつくための新たな選択肢として注目されています。この国際ニュースは、AIのコスト構造と勢力図が変わりつつあることを示しています。
欧州スタートアップがDeepSeekに乗り換える理由
ドイツのスタートアップNovo AIのCEO、ヘマンツ・マンダパティ氏は、いち早くDeepSeekのチャットボットを採用した一人です。約2週間前までOpenAIのChatGPTを使っていましたが、DeepSeekに切り替えるのにかかったのは「数分」だったといいます。
同氏は、アプリケーションをOpenAI向けに構築していれば、他のモデルへの移行は容易で、実際にDeepSeekへの切り替えも短時間で済んだと振り返ります。DeepSeekから提示された条件は「実際の価格より5倍安い」水準で、コストを大きく削減できた一方、ユーザー側にはほとんど違いが感じられないといいます。
英国企業NetMind.AIの最高商務責任者(CCO)、シーナ・レジャル氏も、DeepSeekの早期導入組です。同氏は、DeepSeekの登場が「AIの民主化を大きく前進させ、ビッグテックと競い合うための公平な土俵をつくる一歩だ」と評価しています。
デンマークのEmpatik AIのCEO、ウルリク・R・T氏も、DeepSeekを「自社のような企業にとって大きなチャンス」と表現し、「巨額の予算がなくても自分たちのビジョンを実現できることを示した」と語っています。資金力で劣る欧州のスタートアップにとって、低コストで高性能なモデルの存在は、戦い方そのものを変えつつあります。
価格差は最大40倍 AIの「民主化」を後押し
DeepSeekのインパクトを決定づけているのが、その価格設定です。調査会社バーンスタインのアナリストによれば、DeepSeekの料金はOpenAIの同等モデルと比べて20〜40分の1の水準だとされます。
具体的には、OpenAIはAIモデルが処理するデータの単位であるトークン100万件あたり2.50ドルを課金しています。一方、DeepSeekは同じ100万トークンあたり0.014ドルという極めて低い価格を提示しています。マンダパティ氏が語る「通常よりさらに5分の1」というオファーを踏まえると、実際の負担額はそれ以上に下がるケースもありそうです。
もちろん、一部のアナリストはDeepSeekの学習コストが本当にここまで低いのかについて疑問を示しています。しかし、それでもなお、米国の同等モデルと比べて大幅に低コストである点については、見方が一致しています。
小さな学習コスト、大きな存在感
DeepSeekの存在感を一気に高めたのが、先月公表された研究論文です。同社は最新モデルDeepSeek-V3の学習に必要だった計算資源のコストが、米エヌビディアのH800チップを用いたにもかかわらず600万ドル未満にとどまったと明らかにしました。
この発表をきっかけに注目が集まり、DeepSeekはAppleのApp StoreでChatGPTを追い抜き、生産性アプリ部門でトップ評価を得るまでになっています。高性能モデルの学習には巨額投資が不可欠という常識に、現実的な「別解」を示した形です。
半導体企業Axelera AIのCEO、ファブリツィオ・デル・マッフェオ氏は「これは『大きければ良いとは限らない』という警鐘だ」と話します。誰もが手にできるモデルが増えれば、AIの総保有コストと技術開発の障壁が下がり、業界全体のイノベーションを促進する触媒になり得るという見立てです。
米国主導の巨額AI投資と欧州の課題
背景には、米欧間の巨大な投資ギャップがあります。データ会社PitchBookによると、2024年には米国のAI企業にベンチャーキャピタルが投じた資金は約1000億ドルに達しましたが、欧州向けは約158億ドルにとどまりました。
基盤モデル(汎用AIの土台となる大規模モデル)の主要プレーヤーとして名が挙がる欧州企業は、フランスのMistralのみで、残りはOpenAI、Meta、Anthropic、Googleといった米テック大手が占めています。資金力と人材を背景に、米国勢がリードしてきた構図です。
一方、2025年1月22日には、ドナルド・トランプ米大統領が、OpenAI、ソフトバンク、オラクルが参加する5000億ドル規模のAI構想「Stargate」を打ち出しました。すでに巨額の民間投資が集中する米国で、政府レベルの大型イニシアチブが加わることで、AIインフラと技術開発の集中はさらに進む可能性があります。
こうしたなかで、DeepSeekのような低コストモデルを活用することは、欧州のスタートアップにとって、自前で同規模の投資を行わずに世界最先端の技術水準に近づくための現実的な戦略になりつつあります。
静かに始まる価格競争 マイクロソフトも動く
DeepSeekの登場は、業界全体の価格競争にも火をつけつつあります。「価格戦争はすでに始まった」との見方も出ています。
先週、マイクロソフトはOpenAIの推論モデルo1を、従来の月額20ドルのサブスクリプションではなく、全てのCopilotユーザーが無料で使えるようにしました。これは、DeepSeekのような低価格モデルの台頭を受け、ユーザー囲い込みを強化する動きと見ることもできます。
欧州企業にとっては、競争激化によって高性能AIへのアクセスコストが下がる一方、どの企業のインフラやエコシステムにどこまで依存するかという、新たな戦略判断も迫られます。
日本の読者への問い AI競争のどこに立つか
DeepSeekをめぐる欧州の動きは、日本にとっても無関係ではありません。資金と人材が米国や欧州に集中するなかで、各国の企業は、自国開発か、海外モデルの活用か、その組み合わせをどう設計するかを問われています。
今回の国際ニュースから見えてくるのは、次のようなポイントです。
- 欧州スタートアップにとって:限られた資金でも高度なAIを導入できる現実的なルートになりつつある。
- 米国のビッグテックにとって:価格や性能をめぐる競争圧力が高まり、ビジネスモデルの再設計が必要になり得る。
- 政策担当者にとって:投資額だけでなく、誰がどのAIにアクセスできるかという設計が重要になっている。
日本の企業や開発者にとっても、どの国・どの企業のAIモデルを、どの条件で使うのかは、今後の競争力を左右するテーマになりそうです。コストと性能、スピードと安全性のバランスをどこに置くのか。DeepSeekをめぐる欧州の選択は、私たち自身の選び方を見直すヒントにもなり得ます。
Reference(s):
DeepSeek helps Europe's tech firms catch up in global AI race
cgtn.com








