OpenAI取締役会、マスク氏の974億ドルChatGPT買収提案を拒否
ChatGPTを運営する米OpenAIが、共同創業者イーロン・マスク氏が率いる投資コンソーシアムからの974億ドル規模の買収提案を「会社は売り物ではない」として正式に拒否しました。急速に進む人工知能(AI)開発の中で、非営利と営利、そして人類全体への利益をどう両立させるのかという根本的な問いが、あらためて浮かび上がっています。
974億ドルの買収提案を全会一致で拒否
ロイターなどの報道によると、OpenAIの取締役会は現地時間の金曜日、マスク氏らが提示した総額974億ドルの買収案を全会一致で退けました。取締役会はX(旧ツイッター)への投稿で、ブレット・テイラー取締役会議長のコメントとして、OpenAIは売却の対象ではなく、マスク氏による最新の試みは競争相手を妨害するものだと強調しました。
テイラー氏はさらに、今後OpenAIの組織を再編する場合でも、非営利団体としての中核と「AGI(汎用人工知能)が人類全体に利益をもたらすようにする」という使命を一層強化するものだと述べています。
一方でマスク氏の弁護士マーク・トベロフ氏は声明で、OpenAI側こそ営利事業の支配権を売りに出しており、その結果として「慈善団体ではなく特定の取締役を富ませることになる」と批判しました。
提案は「入札ではない」? 裁判所を舞台に続く攻防
今回の買収提案をめぐっては、X上での応酬も続いています。アルトマンCEOは、提案を受けた直後の月曜日にXへ「ノー・サンキュー」とだけ投稿し、丁重に断る姿勢を示しました。これに対しマスク氏は、アルトマン氏を「詐欺師だ」と非難する投稿で応じました。
翌火曜日には、アルトマン氏が米ニュースサイトAxiosの取材に対し、OpenAIは売却するつもりはないとあらためて明言しました。さらに水曜日に提出された裁判所への書面で、マスク氏側の弁護士は、OpenAIが営利企業への移行計画を取り下げるなら、同社の非営利部門に対する買収提案を撤回すると表明しました。
しかしOpenAI側の代理人である弁護士ウィリアム・サビット氏は、金曜日付の書簡で、マスク氏側が裁判所への新たな提出書面で提案に「重要な条件」を追加したと指摘。その結果、「大々的に宣伝されたその入札は、もはや真の入札とは呼べないことが明らかになった」と厳しく批判しました。
共同創業から決裂へ マスク氏とOpenAIの長い確執
マスク氏とアルトマン氏はもともとOpenAIの共同創業者でしたが、マスク氏は2019年に同社を離れています。その後OpenAIは、非営利団体としての枠組みを保ちながらも、多額の資金を集めるために営利部門を設立し、外部から巨額の出資を受けてきました。
マスク氏は、こうした動きがOpenAIの創設時の理念に反し、公益よりも利益を優先していると主張してきました。昨年8月には、アルトマン氏、OpenAI、そして最大の出資者であるマイクロソフトを相手取り、契約違反などを理由に訴訟を提起しています。
さらに昨年11月には、OpenAIが営利企業の構造に移行することを差し止める仮処分を連邦裁判所に求めました。今回の買収提案とその拒否は、こうした法廷闘争の延長線上に位置づけられます。
OpenAIが描く新しい組織像 「公共利益」と資本調達の両立
OpenAIは、今回の騒動の少し前にあたる昨年12月下旬、組織体制の見直し計画を公表していました。同社は、より多くの資本を調達しやすくするため、公共の利益を目的に掲げる株式会社の一形態であるパブリック・ベネフィット・コーポレーション(Public Benefit Corporation)を新たに設立する方針を示しています。
この新体制の狙いについてOpenAIは、現在の非営利の親団体による制約を軽くしつつ、長期的な研究開発に必要な資金を柔軟に集められるようにするためだと説明しています。一方でマスク氏側は、それが非営利団体としての使命を弱めるものであり、支配権を事実上「売却」する行為だとみています。
AGIをめぐる根本的な問い 誰が「人類のためのAI」を担うのか
今回の対立の背景には、AGI(汎用人工知能)をめぐる大きなビジョンの違いがあります。AGIとは、人間のようにさまざまな状況で自ら学習し、適応し、判断できる超高度なAIのことを指し、多くの開発者にとって最終目標とされている技術です。
OpenAIの取締役会は、組織再編を行うとしても、AGIの恩恵を人類全体に行き渡らせるという非営利団体としての使命を強化するものだと強調しています。一方でマスク氏は、営利化が進めば、AGIが特定の企業や一部の株主の利益のためだけに使われるリスクが高まると警鐘を鳴らしてきました。
どちらの側も「人類の利益」を掲げていますが、AI技術のコントロールを誰がどのようなルールのもとで担うべきか、その答えはまだ見えていません。今回の買収拒否は、その論争がいよいよ本格化していることを示しているともいえます。
今後の注目ポイント 裁判とガバナンスの行方
OpenAIの取締役会が買収提案を「誠実な入札ではない」とまで断じたことで、マスク氏らのコンソーシアムによる今回の動きは一旦壁にぶつかった形です。ただし、法廷での争いは続いており、OpenAIの最終的な組織構造や支配権のあり方は、まだ確定していません。
今後、国際的なAI業界や投資家が注目しそうなポイントとしては、次のような点が挙げられます。
- 米連邦裁判所が、マスク氏による仮処分の申し立てをどう判断するか
- OpenAIが予定するパブリック・ベネフィット・コーポレーションへの移行が、どのような形で実現するか
- マスク氏のAI企業xAIを含む他社との競争が、研究開発やサービスの提供体制にどのような影響を与えるか
ChatGPTをはじめとする生成AIが身近になった今、舞台裏でどのような資金とガバナンスの争いが起きているのかを知ることは、ユーザーである私たちにとっても無関係ではありません。今回のニュースをきっかけに、「AIの所有者は誰であるべきか」「利益と公共性をどう両立させるべきか」を考えてみる時間をとってみてもよさそうです。
Reference(s):
OpenAI board unanimously rejects Elon Musk's $97.4 billion proposal
cgtn.com








