OpenAIとイーロン・マスク、営利化巡る裁判を前倒し審理へ
米人工知能(AI)企業OpenAIとイーロン・マスク氏の対立が、同社の営利化を巡る裁判を「前倒し審理」として本格化しつつあります。今年12月に向けて審理のスケジュールが動き出し、AIを誰のために開発するのかという根本的な問いが、法廷で争われようとしています。
営利化を巡る裁判、今年12月に向けて加速
米国カリフォルニア北部地区連邦地裁への最近の提出書類によると、OpenAIとマスク氏は、OpenAIの営利企業への移行を巡る裁判を迅速に進めることで合意しました。両者は連名で、今年12月に審理を開くよう裁判所に提案しています。
一方で、この迅速な審理を「陪審裁判」とするか、裁判官のみが判断する「ベンチトライアル」とするかについては、結論を先送りすることで合意しました。審理のスピードを優先しつつ、最終的な判断のかたちを慎重に探る構図です。
裁判所はこれに先立ち、マスク氏が求めていた「OpenAIの営利化プロセスをいったん止める」よう求める申し立てを退けています。その一方で、秋ごろに迅速な審理を行うことには同意しており、営利化を巡る法廷闘争は、短期決着を目指す流れが強まっています。
OpenAIは、今年3月4日の裁判所決定について「イーロン・マスク氏が自身の利益のためにOpenAIを減速させようとする最新の試みを退けた判断を歓迎します」とするブログ投稿を、今回の書類提出と同じ金曜日に公開しました。
訴えの焦点:創業ミッションと「営利」のギャップ
マスク氏は2015年、サム・アルトマン氏らとともにOpenAIを共同設立しました。当初の目的は、「人類全体の利益のためにAIを開発する」非営利の研究組織として活動することでした。しかしマスク氏は、同社が本格的に注目を集める前に離脱し、その後2023年には競合するAI企業xAIを立ち上げています。
マスク氏は昨年、テスラの最高経営責任者(CEO)でありX(旧ツイッター)のオーナーとして、OpenAIとアルトマン氏を提訴しました。訴状では、OpenAIが「人類のためのAI」という創業時の約束から外れ、企業利益を優先する方向へ転じたと主張しています。
これに対しOpenAIとアルトマン氏は、こうした主張を否定しています。アルトマン氏は、マスク氏が競合企業の成長を遅らせようとしていると反論しており、両者の対立は理念だけでなく、ビジネス上の競争も色濃く反映したものになっています。
なぜ営利化が争点なのか:巨額の資金とAIレース
今回の裁判の核心にあるのは、ChatGPTを開発したOpenAIが「営利企業モデル」へと移行するプロセスです。同社は、高度なAIの研究開発には巨額の資金が必要だとして、営利化は資本を集め、激しいAI競争に生き残るために不可欠だと説明しています。
OpenAIはこれまでに、66億ドル規模の資金調達ラウンドを実施してきました。さらに、ソフトバンクグループと最大400億ドルに及ぶ新たな資金調達について協議しているとされています。こうした大型の資金調達はいずれも、「OpenAIの非営利団体による支配を外す」企業構造の再編を条件としていると報じられています。
つまり、営利化を止めるかどうかは、単に組織の理念の問題だけではなく、今後もAI研究を続けるだけの資金を確保できるかという、極めて現実的な課題とも直結しているのです。
買収提案も「ノーサンキュー」:深まる個人対立
最近の裁判所への書類提出は、アルトマン氏とマスク氏の関係悪化を象徴するような出来事の延長線上にあります。アルトマン氏は、OpenAIは売却の対象ではないと明言し、マスク氏らが率いるコンソーシアムからの974億ドルに上る敵対的な買収提案を、「ノー・サンキュー」として退けました。
OpenAIの営利化を巡る法廷闘争は、AIのあり方をめぐる理念の対立であると同時に、AI業界をリードする2人の企業家の「因縁の対決」としても注目を集めています。
日本の読者が押さえておきたいポイント
この国際ニュースは、日本のAIビジネスやテック政策を考えるうえでも示唆に富んでいます。今回の動きから見える論点を、簡単に整理してみます。
- AIは公共財か、ビジネスか:非営利の理念と、巨額の開発費を支える営利モデル。その両立をどう図るかは、日本の研究機関やスタートアップにも共通する課題です。
- ガバナンス(統治構造)の重要性:誰が最終的な意思決定を行うのか、非営利団体か、出資者か。OpenAIの事例は、AI企業の支配構造を設計する難しさを映し出しています。
- 巨大プレーヤー同士の争いが市場に与える影響:訴訟や買収提案は、開発スピードやオープン性にも影響し得ます。日本企業や開発者が依存するプラットフォームにも、間接的な余波が及ぶ可能性があります。
今後、12月の審理がどのような形式で行われるのか、そして裁判所が営利化と創業ミッションのどちらに重きを置く判断を示すのかは、世界のAI業界にとっても大きな分岐点になりそうです。
Reference(s):
OpenAI and Musk agree to fast tracked trial over for-profit shift
cgtn.com








