木製風力発電タワー「Wind of Change」 自然のカーボンファイバーが脱炭素を加速する video poster
再生可能エネルギーで「グリーン電力」を増やすだけでなく、そのインフラ自体もどれだけクリーンかが問われる時代になっています。スウェーデンでは、鋼鉄の代わりに木材を使った風力発電タワーが登場し、「インフラの脱炭素」という新しい一歩を示しています。
風力発電は本当に「クリーン」か ─ 見落とされがちなインフラのCO2
風力発電は、運転中にほとんど二酸化炭素(CO2)を出さないクリーンなエネルギーとして知られています。しかし、その土台となるタワーや基礎をつくるプロセスは、依然として高い炭素排出を伴います。
ユーザー入力で紹介されている例では、平均的な陸上風力発電機(出力約4メガワット)のタワーには、およそ480トンの鋼鉄が使われます。鋼鉄1トンを生産する際には、最大で2トンのCO2が排出される可能性があるとされています。
さらに、タワーを支えるコンクリート基礎に欠かせないセメントも問題です。セメント1トンの製造で、おおよそ1トンのCO2が出るとされており、風力発電設備の建設段階で、かなりの「隠れた排出」が発生していることになります。
2025年現在、再生可能エネルギーの拡大が世界的に加速するなかで、こうしたインフラ由来の排出をどう減らすかが、新たな課題になりつつあります。
スウェーデン発「Wind of Change」 ─ ほぼ木だけでできた風力タワー
こうした課題に挑んでいるのが、スウェーデンの企業モドヴィオン(Modvion)です。技術番組RAZORは、同社が手がけた木製風力発電タワー「Wind of Change」のエンジニアたちを取材しています。
「Wind of Change」は、ほぼ全面が木材で構成された風力発電タワーで、世界でも有数の高さを誇る木造構造物の一つとされています。鉄塔の代わりに木材を使用することで、タワー建設に伴うCO2排出を大幅に削減することを狙っています。
コンセプトエンジニアで共同創業者のデイヴィッド・オリヴグレン氏は、このアイデアを思いついたきっかけは「船を作っていたとき」だと語っています。長年、船や建築で使われてきた木の強さとしなやかさを、風力タワーに応用できないかと考えたことが、出発点になりました。
「自然のカーボンファイバー」 木材を工業製品として使う
モドヴィオンのもう一人の共同創業者でCEOのオットー・ルンドマン氏は、持続可能な方法で伐採された森林の木材を使い、「ラミネーテッド・ベニア・ランバー(Laminated Veneer Lumber:LVL)」という材料を製造していると説明しています。
LVLは、薄くスライスした木材を何層にも重ねて接着し、強く安定した構造材にしたものです。軽さのわりに強度が高いことから、ときに「自然のカーボンファイバー」とも呼ばれます。
このLVLを用いて、モドヴィオンはモジュール式のタワーを製造しています。タワーを細かいセクションに分けてつくることで、次のような利点が生まれます。
- 鋼鉄製タワーよりも軽くなるため、輸送にかかるエネルギーとコストを抑えやすい
- 分割されたモジュールを現地で組み立てられるため、山間部などアクセスが難しい場所にも設置しやすい
- 木材がCO2を貯蔵する性質を持つため、建設そのものが「炭素をしまい込む行為」に近づく
こうした工夫により、風力発電の「見えない排出」を削減しながら、設置の柔軟性も高めようとしているのが、モドヴィオンの特徴です。
混雑するグリーンエネルギー市場でどう戦うのか
再生可能エネルギーの分野は、すでに多くの企業や技術がひしめく「レッドオーシャン」に近い状況です。モドヴィオンのCFO(最高財務責任者)であるマリア=リナ・ヘドルンド氏は、この混雑したグリーンエネルギー市場に、木製タワーでどう食い込んでいくかを語っています。
同社が目指しているのは、「環境にやさしいだけでなく、実務的にも選ばれるインフラ」です。風力発電事業者にとっては、次のような点が重要な判断材料になります。
- 鋼鉄タワーと比べた場合のトータルコスト(製造、輸送、建設、メンテナンス)
- タワーの耐久性や安全性、保守のしやすさ
- プロジェクト全体のCO2排出削減効果
ヘドルンド氏は、こうした指標で木製タワーの優位性や競争力を示しながら、風力発電の新しいスタンダードの一つとして認知を広げていきたい考えです。再生可能エネルギー市場が成熟しつつある今、「環境価値」と「経済合理性」を同時に満たせるかどうかが、普及の鍵になっています。
インフラの脱炭素は日本やアジアにも関係がある
スウェーデン発の木製風力タワーの動きは、日本やアジアのエネルギー政策にも示唆を与えます。日本を含む多くの国・地域では、洋上風力や陸上風力の導入が進められていますが、その議論の中心は「どれだけ発電するか」に偏りがちです。
しかし、今回の「Wind of Change」が示しているのは、次のような視点です。
- 発電設備そのもののCO2排出まで含めた「ライフサイクル全体」で環境負荷を考える必要がある
- 木材などの再生可能な素材を、インフラレベルの構造物にどこまで応用できるか
- 地域の森林資源や林業と、エネルギー政策を結びつける可能性
デジタルネイティブ世代やグローバル志向の読者にとって、「再生可能エネルギー=風車や太陽光パネル」というイメージから一歩進み、インフラや素材の選び方まで含めた「本当の意味でのグリーン化」を考えることが求められています。
これから私たちが注目したいポイント
木製風力タワーは、まだ新しい試みですが、「自然のカーボンファイバー」としての木を大規模インフラに使う可能性を具体的に示した事例でもあります。今後、次のような点に注目が集まりそうです。
- 木製タワーの耐用年数や極端な気象条件への耐性
- 解体時のリサイクルや再利用のしくみ
- 各国・各地域の建築基準や安全規制との整合性
2025年のいま、エネルギー転換はすでに「どの電源を選ぶか」から、「その電源を支える素材や構造まで含めて、どれだけ脱炭素できるか」を競う段階に入りつつあります。
スウェーデンの「Wind of Change」が示すのは、技術革新だけでなく、インフラを設計する発想そのものを変える必要があるというメッセージです。木材という古くて新しい素材が、次のグリーントランジション(環境移行)の主役の一つになるかどうか、引き続き注目していきたいところです。
Reference(s):
RAZOR: How "nature's carbon fiber" could power the green transition
cgtn.com








