ミャンマー中部M7.7地震の科学と教訓
2025年3月下旬にミャンマー中部で発生したマグニチュード7.7の地震は、広い範囲で甚大な被害をもたらし、死者は千人を超えました。この国際ニュースは、日本からは遠い出来事に見えますが、地震多発国に暮らす私たちにとっても重要な教訓を含んでいます。本記事では、この地震がなぜこれほど破壊的になったのか、その科学的背景と今後の防災につながるポイントを日本語で整理します。
ミャンマー中部を襲ったM7.7地震の概要
今回の地震はミャンマー中部の浅い場所、深さ約10キロで発生しました。震源が浅いと、地表に伝わる揺れが非常に強くなり、建物やインフラへのダメージが大きくなります。その結果、耐震性が十分でない建物を中心に多くが倒壊し、被害が拡大しました。
揺れは国境を越えて伝わり、ミャンマーと接する中国南西部の雲南省でも強い震動が観測されました。震源から約300キロ離れた雲南省瑞麗市では、2人がけがをする被害が出ています。地震のエネルギーは、原子爆弾約300発分に相当するとされ、いかに巨大なエネルギーが一瞬で解放されたかが分かります。
プレート運動が生む巨大なひずみ
地球の外側の硬い殻は、複数のプレートと呼ばれる岩盤がパズルのように組み合わさってできています。プレートは常に少しずつ動いており、その境界では地震が起きやすくなります。
ミャンマーは、世界でも特に地震活動が活発な「ヒマラヤ・ビルマ弧」と呼ばれるゾーンに位置しています。ここでは、インドプレートがユーラシアプレートに年間およそ5センチの速さでぶつかり続けています。この衝突によって、地殻に莫大なひずみがたまり、それが限界を超えたときに一気に解放されるのが大地震です。
ミャンマー国内には「サガイン断層」と呼ばれる大きな横ずれ断層が南北に走っています。今回のような大規模地震は、このような断層にたまったエネルギーが急激に解放されることで発生します。
なぜこれほど被害が拡大したのか
今回のミャンマー地震が特に破壊的だった背景には、いくつかの条件が重なったと考えられます。
1. 浅い震源と強烈な揺れ
震源の深さがおよそ10キロと非常に浅かったため、地表の揺れが強くなりました。浅い地震は、同じ規模でも深い地震よりも被害が出やすいという特徴があります。
2. 大都市マンダレーに近かった
震源はミャンマー第2の都市マンダレーの近くに位置し、強い揺れが人口密度の高い都市部を直撃しました。都市に近い大地震では、建物の倒壊や火災、インフラの寸断などが同時多発的に起きやすくなります。
3. 耐震性の低い建物が多かった
中央ミャンマーの多くの建物は、強い横揺れを想定した耐震設計が十分ではなかったとみられています。特に、古い建物やれんが造りの構造物は、激しい揺れに耐えきれず倒壊したと報告されています。
4. 地すべりが救助を遅らせた
震源周辺の丘陵地では、揺れにより地すべりが発生し、道路が土砂で埋まりました。そのため、重機や救急車が現場にたどり着くまでに時間がかかり、救助活動が大きく遅れた地域もありました。地震そのものの被害に加え、アクセスの悪化が二次的な被害拡大につながった形です。
歴史が示す「繰り返されるパターン」
ミャンマーでは、1930年のバゴー地震(マグニチュード7.3)でも、今回と似たような被害パターンが見られました。規模の大きな地震が人口の多い地域や耐震性の低い建物を直撃し、多くの建物が倒壊したのです。
この歴史的な経験は、「強い地震は再び起こりうる」ということと、「被害を減らすには事前の備えが決定的に重要だ」という二つの点を改めて示しています。
揺れたその瞬間、どう動くべきか
では、今後同じような大地震が起きたとき、私たちはどう行動すべきなのでしょうか。地震防災の基本行動は、国や地域を問わず共通する部分が多く、ミャンマーの経験も日本の防災に生かすことができます。
屋内にいるとき
- 揺れを感じたら、すぐにしゃがむ(ドロップ)。
- テーブルなどの頑丈な家具の下にもぐり、頭と首を守る(カバー)。
- 家具の脚などをつかんで揺れが収まるまで動かない(ホールド・オン)。
よくある誤解として、「ドア枠に立つと安全」という考えがありますが、現代の建物では必ずしも安全ではなく、むしろ周囲から落下物が来るおそれがあります。ドアではなく、低く・隠れる・固定する、という基本行動を優先することが勧められます。
屋外にいるとき
- 建物やブロック塀、電柱、看板などから素早く離れる。
- できるだけ広い空き地や公園など、開けた場所に移動する。
- ガラスや看板が落下してくる可能性を常に意識する。
地震後の数日を生き抜くために
大地震の後は、電気・水道・ガスなどのライフラインが止まる可能性が高くなります。今回のミャンマー地震のように道路が寸断されれば、支援物資の到着にも時間がかかります。
そのため、各家庭で最低3日分を目安に、次のような備えをしておくことが重要です。
- 飲料水と簡単に食べられる缶詰や保存食。
- 懐中電灯や予備の電池、携帯電話の充電手段。
- 常備薬や簡易の救急セット。
また、ガスの元栓の締め方を家族全員が理解しておくことで、地震後の火災リスクを減らすことができます。ベッドのそばに丈夫な靴を置いておけば、割れたガラスの上を歩く際のけがを防げます。
山間部・農村部での注意点
今回のミャンマー地震では、丘陵地での地すべりが救助の妨げとなりました。日本を含む山間部や農村部では、平時から次のような「安全ゾーン」を確認しておくことが命を守る鍵になります。
- 崖や急斜面から離れた、比較的平坦な場所。
- 土砂災害警戒区域の外にある広場や学校など。
- 夜間でも家族が集まりやすい避難場所。
シンプルな対策が被害を大きく減らす
歴史を振り返ると、他の地震多発地域の国々では、比較的シンプルな対策によって地震時の犠牲者を大幅に減らしてきた例があります。例えば、次のような取り組みです。
- 学校や病院など、重要施設の耐震補強を優先的に進める。
- 地域単位での地震避難訓練を定期的に実施する。
- 地震が起きた瞬間にどう動くかを、子どもから高齢者まで共有する。
こうした対策はコストも時間もかかりますが、長期的には「命を救う投資」となります。今回のミャンマー中部地震が示したのは、大地震そのものを止めることはできなくても、事前の準備次第で被害の大きさは大きく変えられるという現実です。
「地震活動期」かどうかより、今できる備えを
一部の専門家は、今回のような大きな地震が世界各地で続いていることについて、「地球全体が新たな地震活動期に入った」と断言するのはまだ早いと指摘しています。プレート運動は非常に長い時間スケールで進んでおり、短期間の地震の増減から大きな結論を出すのは難しいためです。
とはいえ、巨大地震がいつ、どこで起きても不思議ではないという点は変わりません。重要なのは、「地震活動期かどうか」を議論すること以上に、私たち一人ひとりと地域社会が、具体的な備えを一つずつ進めていくことです。
ミャンマー中部のM7.7地震は、地震の科学と防災の重要性を改めて示す国際ニュースとなりました。この出来事を「遠い国の災害」として終わらせず、日常の中の小さな備えにつなげていくことが、次の大地震から自分と周りの人の命を守る第一歩になります。
Reference(s):
cgtn.com







