国際ニュース:イタリアの少子化と不妊危機 犯人はマイクロプラスチックか
イタリアで進む深刻な少子化・不妊問題に、マイクロプラスチックという新たな疑いが浮上しています。海に囲まれたこの国の沿岸部で行われた小さな研究が、「見えない汚染」と人間の生殖機能の関係に光を当てつつあります。
イタリアで進む「静かな」出生数減少
イタリアでは、赤ちゃんが生まれる数が長期的に減り続けています。報告によると、ある年の出生数は前年比2.6%減となり、これで16年連続の減少となりました。出生数は1861年のイタリア統一以来、最も低い水準に落ち込んでいるとされます。
その背景としてよく挙げられてきたのが、若者や専門人材が国外に流出する「頭脳流出」、長引く経済成長の停滞、そして子どもを持つことへの十分な支援やインセンティブがないことなどです。
こうした状況を受けて、ジョルジャ・メローニ首相は人口減少問題を政権の最重要課題の一つに位置づけています。政府は、2人以上の子どもを持つ母親への減税や、出産前後の母親・父親ともに育児休業期間を延長するなど、家族支援策を打ち出しています。
サレルノの小さなクリニックで起きたこと
しかし、イタリア南部の海沿いの町サレルノでは、少し異なる角度からこの危機を見ようとする試みが行われました。地元の不妊治療クリニックで、18人の女性が生殖補助医療を受けるなか、その卵巣濾胞液が分析されたのです。
卵巣濾胞液とは、卵巣内で育つ卵子の周囲を満たしている液体で、卵子に栄養を与え、その成熟や受精の準備を調整する重要な役割を担っています。
研究チームは、この卵巣濾胞液にマイクロプラスチックが含まれているかどうかを調べました。その結果、18人のうち14人からマイクロプラスチックが検出されたと報告されています。
研究者が受け止めた「非常に憂慮すべき」結果
論文の筆頭著者であるルイジ・モンターノ氏は、この結果を「非常に憂慮すべきもの」と表現しています。研究成果は「Ecotoxicology and Environmental Safety」誌に掲載され、論文では、これらの新たな汚染物質が女性の生殖システムに侵入していることを示す「重要な警告シグナル」だと結論づけられています。
とはいえ、この研究はサンプル数も限られており、論文自体も「マイクロプラスチックの濃度と女性の生殖健康との間に相関が存在する可能性」を示すにとどまるとしています。原因と結果の関係が立証されたわけではなく、今後の検証が不可欠だという前提が強調されています。
マイクロプラスチックと有害化学物質
今回の研究が注目を集める背景には、マイクロプラスチックそのものだけでなく、それが運びうる化学物質への懸念があります。マイクロプラスチックには、PFAS、ビスフェノール、フタル酸エステル類といった化合物が付着していることが多いとされています。
これらの化学物質は、がんやホルモンの働きの乱れと関連づけられてきました。ホルモンは生殖機能のコントロールに深く関わるため、ホルモンバランスが乱れれば、卵子や精子の質、排卵や着床といったプロセスに影響が及ぶ可能性があります。
まだ多くの点が解明されていないものの、「マイクロプラスチック+有害化学物質」という組み合わせが、人間の生殖にどのような影響を与えるのかは、今後の重要な研究テーマになりつつあります。
男性側の生殖機能への影響も?
モンターノ氏が関わる研究プロジェクトは、人間の生殖に広く焦点を当てており、女性だけでなく男性についても検討しています。氏は、マイクロプラスチックが精子数の減少にも関わっている可能性があると疑っているとされています。
具体的な仕組みや影響の度合いはまだ明らかではありませんが、「卵巣濾胞液にまで入り込む粒子が、男性の生殖器官に影響しないと言い切れるのか」という問いが、研究者の間で共有されつつあるといえるでしょう。
次のステップは「どれだけ入っているか」を測ること
ニューメキシコ大学でマイクロプラスチックを研究するシャオジョン・ユー氏も、今回の結果の重要性を認めています。同氏は論文へのコメントのなかで、「次のフェーズの仕事は、量を定量化することだ」と述べました。
どのくらいの量のマイクロプラスチックが体内に存在し、その量がどの程度から生殖機能に影響し始めるのか。こうした点を明らかにするには、より大規模で長期的な研究が必要になります。
イタリアの不妊危機は、地球規模の問題の一部か
イタリアの少子化と不妊の危機は、国内政治だけでなく世界の議論でも大きなテーマになっています。しかし、これまでの議論の多くは、経済や雇用、家族政策といった社会・経済的な要因に焦点が当てられてきました。
一方で、今回のような研究は、こうした危機がより大きな地球規模の背景の中で生じている可能性を示唆します。世界保健機関(WHO)の最近の報告によれば、世界のカップルの約17.5%が不妊を経験しているとされています。
もし、環境中のマイクロプラスチックが人間の生殖能力に影響しているとすれば、それは特定の国にとどまらない問題となります。イタリアの不妊危機は、実は世界的な環境変化と健康リスクの一断面に過ぎないのかもしれません。
私たちが立ち止まって考えたいこと
もちろん、現時点で言えるのは、「マイクロプラスチックが不妊危機の決定的な原因だ」と断定するには、証拠がまだ不足しているということです。それでも、サレルノの小さなクリニックから出た研究結果は、いくつかの重要な問いを私たちに突きつけています。
- 少子化や不妊を、個人の「選択」や経済状況だけの結果として語ってしまっていないか。
- 日々の生活の利便性の裏側で進む環境汚染が、世代を超えた影響をもたらしている可能性を、どこまで真剣に受け止めるべきか。
- 政策や社会保障だけでなく、環境中の汚染物質を減らす取り組みを、人口問題の議論の一部として組み込む必要がないか。
マイクロプラスチックが不妊危機の「犯人」なのかどうかは、これからの研究が明らかにしていくことになります。ただ一つ確かなのは、少子化や不妊をめぐる議論が、経済や価値観だけでなく、環境と健康という視点も含んだ、より広い問いへと広がり始めているということです。
Reference(s):
cgtn.com








