イスラエル研究チーム、乳がん細胞の「休眠」を解明 再発予防へのヒントに
イスラエルの研究チームが、乳がん細胞が長年「眠ったまま」体内に潜み、ある日突然ふたたび増殖を始めるしくみの一端を明らかにしました。がんの再発をどう防ぐかという国際ニュースの大きなテーマに、新たな手がかりを与える研究です。
この成果は、イスラエルのワイツマン科学研究所が発表し、科学誌「Science Signaling」に掲載されました。日本語で読む国際ニュースとして、そのポイントを分かりやすく整理します。
乳がん細胞はなぜ「眠る」のか
研究チームは、乳がん細胞が体内で「休眠状態(スリープモード)」に入り、長い年月を経てから再び動き出すプロセスに注目しました。ポイントは、がん細胞がもともと健康な乳腺組織に備わっている自然な変化のしくみをまねている、という点です。
健康な乳腺の細胞は、本来次のように振る舞います。
- 初期段階では、細胞が盛んに増える「成長モード」
- その後、増殖が落ち着き、安定した「成熟モード」
乳がん細胞は、この切り替えのしくみを逆手に取ります。最初は「成長モード」を利用して数を一気に増やし、その後「成熟モード」に似た状態に入り込むことで、体の監視から逃れ、長く潜伏できるようになると考えられます。
鍵を握るタンパク質「OVOL」
今回の国際ニュースの中心にあるのが、「OVOL(オボル)」と呼ばれるタンパク質です。OVOLは、細胞が未熟な状態から成熟した状態へと変化するのを助ける役割を持つとされています。
研究チームは、とくにトリプルネガティブ乳がんと呼ばれるタイプの乳がん細胞に注目しました。この細胞の中でOVOLの量を人為的に増やしたところ、次のような変化が見られたと報告されています。
- がん細胞の分裂が止まり、増殖が抑えられる
- 細胞が「休眠」に近い状態へと押しやられる
- マウスを用いた実験では、腫瘍の成長スピードが遅くなる
つまりOVOLを増やすことは、短期的にはがんの勢いを抑える「ブレーキ」として働く可能性がある、といえます。
短期の抑制が、長期の生存を助けるというジレンマ
一方で、この研究はOVOLが「諸刃の剣」になり得ることも示しています。OVOLは一時的にはがんを抑える一方で、がん細胞が長期的に生き延びるのを助けてしまう可能性があるからです。
研究によると、
- OVOLの量が高いとき:がん細胞は分裂を止め、休眠状態に入りやすくなる
- OVOLの量が下がったとき:休眠していたがん細胞が再び「目覚め」、増殖を再開する
この「OVOLの低下」は、エストロゲン(女性ホルモンの一種)の減少など、ホルモンバランスの変化に伴って起きる可能性があるとされています。いったん目覚めたがんは、以前よりも攻撃性が増し、治療が難しくなる傾向があると報告されています。
休眠中に蓄積する「フリーラジカル」の危険
研究チームはさらに、休眠状態のがん細胞の内部で何が起きているのかを詳しく調べました。その結果、フリーラジカルと呼ばれる不安定な分子が細胞内に蓄積していることを突き止めました。
フリーラジカルは次のような影響をもたらします。
- DNAを傷つける
- 細胞が持つ本来の修復システムの能力を超えてしまう
このため、長い休眠期間を経たがん細胞は、目覚めた後により危険な姿になっている恐れがあります。DNAが多く傷つき、修復しきれない状態になることで、がん細胞がさらに不安定で攻撃的な性質を持つようになる可能性があるためです。
がんの「再発」をどう防ぐかへの新たなアプローチ
今回の研究は、「がんを見つけて取り除く」だけでなく、「治療後、体内に潜んだままのがん細胞をどう管理するか」という視点の重要性を浮き彫りにしています。
ワイツマン科学研究所のチームは、がんの休眠メカニズムをより深く理解することで、次のような新しい戦略につながる可能性を示唆しています。
- 休眠状態のがん細胞が再び目覚めるのを防ぐ治療法
- OVOLの量をコントロールし、短期の抑制と長期の安全性のバランスをとる方法
- フリーラジカルによるDNA損傷を抑え、危険な変化を起こさせないアプローチ
乳がんに限らず、さまざまながんで「治療から何年も経ってから再発する」ケースは少なくありません。今回の成果は、そうした再発リスクをどう減らすかを考えるうえで、重要な手がかりとなる可能性があります。
読者が押さえておきたいポイント
がんの治療は、「今ある腫瘍を小さくする」ことから、「将来起こりうる再発をどう防ぐか」という長期戦の発想へと広がりつつあります。今回の国際ニュースから見えてくるポイントを、最後に簡単に整理します。
- 乳がん細胞は、健康な乳腺の自然な変化のしくみをまねて「休眠」し、体内に潜むことがある
- OVOLタンパク質は、がん細胞の増殖を止めて休眠に導く一方、長期生存も助けてしまう可能性がある
- 休眠中のがん細胞にはフリーラジカルが蓄積し、目覚めた後により攻撃的になる要因になりうる
- 休眠メカニズムを理解することは、がんの再発を防ぐ新しい治療法につながる可能性がある
今後、OVOLやフリーラジカルを標的にした研究が進めば、「がんは治療後もしばらく安心できない」という常識が、少しずつ変わっていくかもしれません。日々アップデートされる医療・科学の国際ニュースを、日本語で丁寧に追いかけていくことが、私たちの選択肢を広げてくれます。
Reference(s):
cgtn.com








