トランプ政権2026年宇宙予算案 NASA月ロケット中止で火星重視へ
米トランプ大統領の2026年度宇宙予算案で、NASAの大型ロケットSLSや月周回拠点ゲートウェイの中止が打ち出され、火星探査を重視する方針への大幅な転換が示されました。日本人宇宙飛行士の月面着陸を目指す日米協力にも影響が出る可能性があり、国際ニュースとして注目を集めています。
2026年NASA予算案:24%削減と火星シフト
今回公表された2026年度の予算案では、NASAの予算が現在の約248億ドルから約60億ドル削減され、約24%の大幅カットとなる見通しです。ほぼすべての部門が深刻な削減対象となる一方で、人間による宇宙探査分野だけは例外的に増額され、『火星重視』のプログラムに約10億ドルの上乗せが提案されています。
その代償として、NASAの科学予算は47%もの削減が見込まれており、世界中の数千人の研究者が関わる大型科学プロジェクトの中止や縮小につながるおそれがあります。宇宙政策団体プラネタリー・ソサエティは、この全体的な削減について『宇宙科学・探査・イノベーションにおける米国のリーダーシップにとって歴史的な後退だ』と強い懸念を表明しています。
SLS・オリオン・ゲートウェイ中止の衝撃
予算案の中で最も象徴的なのが、アルテミス計画の中核を担う巨大ロケット『スペース・ローンチ・システム(SLS)』と、有人宇宙船『オリオン』の扱いです。両者は2027年に予定される3回目の打ち上げ(アルテミス3)を最後に、中止する方針が示されました。SLSはボーイングとノースロップ・グラマンが、オリオンはロッキード・マーティンが中心となって開発してきた大型システムです。
ホワイトハウスの予算概要は、SLSとオリオンを『極めて高コスト』と位置づけ、開発費が2010年以降で約230億ドルに達し、当初計画より140%も超過していると指摘しました。1回の打ち上げに約40億ドルかかるともされており、予算案では、これらに代えてより費用効率の高い民間の打ち上げシステムを活用し、より野心的な月探査ミッションを支える新しい仕組みに移行するとしています。
あわせて、地球から月へ向かう宇宙船と月面着陸船との乗り換え拠点となるはずだった月周回ステーション『ゲートウェイ』の計画も、中止される見通しです。ゲートウェイは月周回軌道上に設置され、アルテミス4以降のミッションで本格運用が始まる予定でした。ノースロップ・グラマンは約9億3500万ドル規模の契約でモジュールの一部を担当し、下請けのタレス・アレニア・スペースが先月、主要モジュールを納入したばかりです。同社はすでにこの計画に関連して約1億ドルの損失計上を行っており、予算案の影響は産業界にも大きく波及しそうです。
マスク氏の構想に近づく火星重視路線
今回のトランプ政権の宇宙予算案で唯一と言ってよい増額分野が、人間による火星探査を軸としたプログラムです。アルテミス計画はもともと、月を火星探査のための『実験台』と位置づける構想としてトランプ氏の最初の政権期に始まりましたが、今回の見直しでは、スペースXの最高経営責任者イーロン・マスク氏が掲げてきた『人類の火星移住』構想に一層近い形で再設計されつつあります。
トランプ氏の新政権は現在、人類を火星に送り込むことに強いこだわりを示しており、長年火星を目標としてきたマスク氏も、政権の助言役としてその路線を後押ししてきました。マスク氏はホワイトハウスへの復帰を目指したトランプ陣営に2億5000万ドルを投じたとされ、その中心にあるのが大量輸送ロケット『スターシップ』です。スターシップは、多目的に使える巨大ロケットとして2027年のアルテミス3でNASA宇宙飛行士を月面に降ろす契約をすでに獲得しており、SLS・オリオンと並ぶ月探査の主役に位置づけられています。
予算案は、議会や宇宙産業界からの『月計画を維持せよ』という強い圧力と、マスク氏の周辺からの『火星を最優先に』という主張との間で折り合いをつけるかのように、『月と火星の並行路線』にも言及しています。その一方で、アルテミスの体制は大幅に組み替えられる見込みです。トランプ氏が指名した次期NASA長官候補で、民間宇宙飛行でも知られる実業家ジャレッド・アイザックマン氏は、先月の上院公聴会で同様の構想を説明しており、今月中にも予定される上院本会議での承認投票の行方が注目されています。
科学コミュニティと同盟国の懸念
一連の削減は、アメリカ国内の研究者だけでなく、欧州宇宙機関(ESA)やカナダ、日本など、多くの同盟国・パートナーにも影響します。アルテミス計画には、数十社の民間企業と世界各国・地域が参加し、多額の投資と長期契約が結ばれてきました。今回の予算案は、ワシントンで長年守られてきたこうした契約を根本から揺るがし、各国が参加する科学ミッションや技術実証プロジェクトの中止や再編を迫るものとなっています。
アルテミス計画そのものは、トランプ氏の最初の政権期に始まったもので、中国の宇宙飛行士が2030年までに月面に到達する前に人類を月に戻すことを一つの目標に掲げてきました。その後、同計画は数十億ドル規模の巨大プロジェクトへと膨らみ、いまや新たな宇宙開発競争の最前線にあります。今回の予算案は、その前提となるロケットや月周回拠点の中止を打ち出したことで、アルテミスの枠組みそのものを作り直す必要が生じています。宇宙政策の専門家の間では、アメリカの宇宙分野での存在感が弱まりかねないとの見方も強まっています。
日本の宇宙戦略への意味合い
日本にとっての関心事は、自国の宇宙飛行士が月面に立つ道筋がどうなるかです。昨年、NASAと日本政府は将来のアルテミス月ミッションに日本人宇宙飛行士を搭乗させることで合意しました。これは日米同盟にとって象徴的な一歩であり、実現すればアジア出身の宇宙飛行士として初めて、月以外の天体に足跡を残す歴史的な機会になると期待されてきました。
しかし、ゲートウェイの中止やSLS・オリオンの段階的な廃止が打ち出されたことで、そのミッション設計は根本から見直しを迫られています。予算案によれば、アルテミス3以降にどのような月ミッションを行うのかは現時点で明確ではなく、スペースXやジェフ・ベゾス氏のブルーオリジンが開発する月着陸船など、民間ロケットへの依存が高まる可能性が指摘されています。一方で、NASAはすでに建造済みのゲートウェイ関連機器を別のミッションに転用できると説明し、各国のパートナーを新たな取り組みに招く方針も示しています。
日本側にとっては、日本人宇宙飛行士が参加する月ミッションの位置づけが維持されるのか、ミッションの内容や時期がどのように変わるのか、そして政府間の協力から民間企業を軸とした枠組みへどの程度シフトするのかが焦点となります。これから数カ月は、次のような点が重要なチェックポイントになりそうです。
- アイザックマン氏のNASA長官就任の可否と、その方針が正式に示されるタイミング
- トランプ政権と議会の予算交渉で、SLSやゲートウェイ関連の削減がどこまで維持・修正されるか
- NASAと日本を含む国際パートナーが、新しい月・火星探査計画の枠組みをどのように再構築するか
宇宙開発は、技術だけでなく国際協力や産業政策、人材育成を含む長期的な国家戦略と深く結びついています。2026年度のNASA予算案は、2020年代後半から30年代にかけての月・火星探査の姿を大きく描き替える可能性をはらんでおり、日本としても冷静に動向を見守りつつ、自国の宇宙戦略や産業への影響を慎重に見極めていく局面に入っていると言えます。
Reference(s):
Trump 2026 space budget would cancel NASA rocket, lunar station
cgtn.com








