泉州トランシーバー産業に国産チップ デジタル中国サミット発の新展開
福建省泉州市のトランシーバー産業が、国産通信チップの導入によって再び脚光を浴びています。今週、福建省福州市で閉幕した第8回デジタル中国建設サミットでは、泉州が約60億元規模のデジタル経済プロジェクト7件に調印し、地域のデジタル経済に新たな勢いが加わりました。
泉州市当局によると、ここ数年で同市は産業チェーンの延伸・強化・補完に力を入れ、投資誘致とデジタル経済クラスターの育成を進めてきました。これまでに310件を超えるデジタル経済関連プロジェクトと連携し、投資総額は1300億元を超えるとされています。
国産チップが泉州のトランシーバー産業に第2の波
数あるハイテクプロジェクトの中でも、特に注目を集めているのが、国産チップと泉州のトランシーバー産業の本格的な連携です。泉州は中国のプロ向けトランシーバー生産拠点として知られ、その市場シェアは中国全体の約7割に達するとされています。
この産業を支えているのが、深圳から泉州に高性能通信チップとモジュール事業を移転したリトンテクノロジーです。同社は現地企業と協力し、研究開発から製造、販売、サービスまでを一体化した体制を構築。長年の課題だったチップ不足を解消し、トランシーバー産業のボトルネックを取り除きつつあります。
1980年代の小さな工房から200社超の産業クラスターへ
泉州・南安のトランシーバー産業の歴史は、1980年代までさかのぼります。当初は数軒の小規模な工房からスタートしましたが、現在ではアナログ機からデジタル機までを手がける企業が200社以上集積する一大産業クラスターに成長しました。
一方で、この産業は長く輸入チップと海外特許に依存してきました。筐体や電源など多くの部品は地元企業が開発できても、心臓部となる重要モジュールについては海外サプライヤーへの依存が続き、コスト高や供給制約が課題となっていました。
2015年の転機と逆流する人材
こうした状況を変えるため、泉州は2015年ごろから産業チェーンの強化に本腰を入れます。海外や沿海部で経験を積んだ出身企業家を招き入れ、地縁や産業ネットワークを生かして投資を呼び込む取り組みを進めてきました。
その象徴的な動きが、リトンテクノロジーの泉州への拠点移転でした。同社が開発した第1世代のシステムオンチップA6は、泉州のトランシーバー工場に大きな変化をもたらします。月産1万台規模だった工場でも、A6の採用により月50万台超の生産が可能になり、性能も安定したとされています。
2023年のA8チップが突破した特許の壁
2023年には、第3世代となるA8チップが登場しました。A8は中国国内で設計から製造まで完結する国産チップで、デジタルベースバンドと無線周波数の機能を1枚のチップに統合しています。
特徴的なのは、独自の無線プロトコルADRと音声符号化技術ボコーダーを実装している点です。これにより、従来は海外特許に依存していた領域のいくつかを自前の技術でカバーできるようになり、知的財産の制約を乗り越える道筋が見えつつあります。通信の安全性と信頼性の向上にもつながると期待されています。
年600万台から4000万台へ アナログからデジタルへ加速
国産チップの普及は、出荷台数にもはっきりと現れています。2008年には年間約600万台だった泉州のトランシーバー生産は、現在では4000万台を超える規模に拡大しました。
近年は、ADR方式のデジタルトランシーバーに関するグループ規格の制定や、中国国家無線管理当局による新たな周波数利用ルールの公布など、制度面の整備も進みました。これらの動きは、トランシーバー産業全体のアナログからデジタルへの移行を後押ししています。
チップの自給自足に近い体制と標準化の進展がかみ合うことで、泉州のトランシーバー産業は、コストだけでなく安全性や信頼性の面でも競争力を高めつつあるとみられます。
デジタル経済と安全保障の交差点としての泉州
プロフェッショナル向けトランシーバーは、警察や消防、物流、製造現場、インフラ管理など、社会の安全と日常の運営を支える基盤的な通信手段です。泉州の事例は、こうした分野でのデジタル化と国産技術の活用が同時に進む姿を映し出しています。
第8回デジタル中国建設サミットをきっかけに、泉州では今後、トランシーバーそのものの高性能化だけでなく、クラウド管理やデータ解析といったサービス分野への広がりも意識した連携が進む可能性があります。
一方で、国際市場での競争やサイバーセキュリティへの対応など、解くべき課題も少なくありません。どこまで産業チェーンを国内で完結させるのか、どの領域で海外との協力を図るのか。泉州の歩みは、デジタル経済と産業政策を考えるうえでの一つの実験場として、今後も注目を集めそうです。
Reference(s):
Indigenous Chip Development Breathes New Life into Quanzhou’s Walkie-Talkie Industry
cri.cn








