米共和党がAI規制を10年間禁じる条項 州政府が猛反発する理由
米国下院の共和党議員らが、州や自治体による人工知能(AI)の規制を今後10年間禁じる条項を、看板となる税制法案に盛り込みました。AI規制をめぐり、連邦政府と州政府の権限の線引きをどうするかという根本的な問いが、2025年現在あらためて浮かび上がっています。
10年間、州と自治体のAI規制を封じる条項とは
問題となっているのは、下院エネルギー・商業委員会が扱う大規模な税制法案の中に、短いながらも影響の大きいAI関連の条項がひそかに差し込まれたことです。
その条項は、州政府や地方自治体がAIを規制する独自ルールを作ることを、今後10年間にわたり禁じるという内容です。もし成立すれば、AI技術の使い方やリスク管理について、州レベルでの新たな規制は原則としてできなくなります。
これは、全米で統一された、比較的ゆるやかなAIルールを望んできたテック企業にとっては大きな追い風になりえます。AI産業側は、州ごとに異なる規制が乱立すると、対応コストが膨らみ、開発スピードが落ちると懸念してきました。
一方で、州や自治体から見ると、住民を守るために必要な対策を取る手段を奪われかねないとして、強い警戒感が広がっています。
上院での行方は不透明 鍵を握るバード・ルール
もっとも、この条項が最終的に法律として生き残るかどうかは、現時点では不透明です。税制法案は予算関連の特別な手続き(いわゆる予算調整プロセス)を使って進められており、その中身には厳しいルールが課されています。
共和党のジョン・コーニン上院議員(テキサス州選出)は、予算関連法案の内容を制限するバード・ルールと呼ばれる規定に言及しました。このルールは、法案の各条項が主に予算や財政に関わるものでなければならず、一般的な政策変更だけを目的とする条項は認められないと求めるものです。
コーニン氏は、AI規制をめぐる今回の条項は、予算措置というよりも政策そのものの変更に当たるとの認識を示し、上院の議会専門官が認めない可能性が高いと見ています。
上院では与野党双方の議員がAIに強い関心を持ち、連邦レベルでのルールづくりが必要だと考えていますが、これまでに提出された数多くのAI関連法案の多くは、政治的対立が続く連邦議会の中でほとんど前進できていません。
すでに約半数の州がディープフェイク規制に踏み切り
AI規制をめぐる対立の背景には、州レベルでの先行する取り組みがあります。監視団体パブリック・シチズンの追跡によると、これまでに米国の約半分の州が、選挙キャンペーンにおけるAIディープフェイクを規制する法律を制定しています。
ディープフェイクとは、AIを使って政治家や有名人などの顔や声を本物のように合成し、虚偽の発言や行動をしているように見せかける技術です。選挙の文脈では、偽動画や偽音声が有権者を誤導し、民主的なプロセスを損なうリスクが指摘されています。
こうしたリスクに対応するため、州議会は選挙広告でのディープフェイク利用にラベル表示を義務付けたり、悪意ある利用に罰則を設けたりするなど、さまざまな形で規制に踏み出してきました。
そのため、今後10年間にわたって新たな州レベルのAI規制を一律に禁じる案は、現在行われている取り組みの拡大や改善を事実上止めてしまいかねない、という懸念が出ています。
州議員と司法長官からの強い反発
反発の声は、民主・共和両党の州レベルの政治家から上がっています。
カリフォルニア州の上院議員スコット・ウィーナー氏は、SNSへの投稿で共和党の提案を本当にひどいと表現し、強い言葉で批判しました。連邦議会は、国民を守るための実質的なAI規制をつくることができていない一方で、州が行動することだけは禁じようとしていると指摘しています。
また、複数の州司法長官による超党派のグループも、連邦議会に対して反対の書簡を送りました。
サウスカロライナ州の司法長官アラン・ウィルソン氏(共和党)は、声明でAIには大きな可能性と同時に大きな危険もあると述べ、自州が住民を守るために地道な取り組みを続けてきたと強調しました。そのうえで、具体的な解決策を示さないまま、ワシントンから一律の方針を押し付けて州の手を縛るのは、連邦政府による行き過ぎた介入だと批判しています。
連邦か州か AIルール作りの主導権争い
今回の動きの背景には、AI規制の主導権を誰が握るべきかという根本的な問題があります。
- テック企業側は、州ごとに異なる規制が乱立すると、事業コストが増え、イノベーションのスピードが落ちると懸念してきました。全国一律で予測しやすいルールのほうが望ましい、とする立場です。
- 一方、州や自治体は、地域の事情に合わせてきめ細かいルールを作れることを重視しています。特に、選挙や地域社会に密接に関わる問題では、住民に近いレベルで素早く対応したいという思いがあります。
10年間という長期にわたり州や自治体のAI規制を封じる今回の条項は、AIルールの決定権を事実上、連邦レベルに集中させる方向性を示すものだと言えます。しかし、その一方で、連邦レベルでどのような具体的ルールが整備されるのかは、現時点では明確ではありません。
もし連邦議会が十分な規制を整備できなければ、州も動けず、AIの急速な発展に対して実質的なルールの空白期間が生まれる恐れもあります。今回の議論は、イノベーション促進とリスク管理のどちらをどの程度優先するのかという、難しいバランスの問題を突きつけています。
日本とアジアの読者にとっての問い
AI規制を誰が担うのかというテーマは、米国だけの問題ではありません。中央政府が一元的に定めるのか、地方自治体にも裁量を認めるのか、あるいは産業界の自主ルールにどこまで頼るのか。多くの国や地域が、今後避けて通れない論点です。
特に、ディープフェイクのように選挙や世論形成に影響を与えうるAI技術については、表現の自由と、有権者の知る権利・選挙の公正さをどう両立させるかが課題になります。
今回の米国の動きは、日本やアジアの読者にとっても、次のような問いを投げかけています。
- AI規制は、国レベルで一元的に行うほうがよいのか、それとも地方自治体にも一定の裁量を認めるべきなのか。
- 選挙とAI技術の関係で、最低限守るべきルールは何なのか。
- イノベーション促進と、市民の安全・民主主義の保護のバランスをどう取るべきなのか。
2025年のいま、AIは日常生活から政治、経済まで社会のあらゆる領域に入り込みつつあります。米国で進むAI規制をめぐるせめぎ合いは、私たち自身がどのようなデジタル社会を望むのかを考えるヒントにもなりそうです。身近な人と、このニュースをきっかけに話し合ってみる価値はありそうです。
Reference(s):
U.S. Republicans include a 10-year ban on states regulating AI in bill
cgtn.com








