マイクロソフト、イスラエル軍へのAI提供を初めて認める 「殺傷への利用は確認せず」
マイクロソフトがガザでの戦闘をめぐり、イスラエル軍に人工知能(AI)とクラウドサービスを提供していたことを初めて公に認めました。同時に、同社は自社のプラットフォームがガザの人々を標的にしたり危害を加えたりする目的で使われた証拠は見つかっていないと説明しており、AIの軍事利用と企業の責任をめぐる議論が一段と高まっています。
マイクロソフトが認めた「深い関与」とは
木曜日に公開された企業ブログの投稿で、マイクロソフトはイスラエル軍に対し、高度なAI機能とクラウド基盤「Azure(アジュール)」を提供していたことを明らかにしました。ガザでの戦闘が続くなか、イスラエル側の人質を捜索・救出する取り組みを支援したとしています。
この投稿は署名のない形で掲載されましたが、同社が自らの「深い関与」を公に認めたのはこれが初めてだとされています。国際ニュースとしても注目されるのは、AIやクラウドといった民間テクノロジーが、実際の武力紛争の現場でどのように使われているのかが少しずつ可視化されつつある点です。
マイクロソフトとイスラエル軍の連携は、イスラエルやウクライナ、米国など世界各地で軍が民間テック企業のAIを活用しようとする動きの一端でもあります。一方で、人権団体などは、誤りや偏りを含む可能性があるAIシステムが誰を、何を攻撃対象とするかの判断に関わることで、罪のない人々の犠牲が増えるのではないかと懸念を示しています。
「殺傷には使われていない」とするマイクロソフトの主張
マイクロソフトは、社員からの懸念の声やメディア報道を受けて、今回の案件について社内調査を実施し、追加の事実確認のため外部の企業にも依頼したと説明しています。ただし、その企業名や調査報告書の全文は公表されていません。
そのうえで同社は、クラウド基盤「Azure」とAI技術について「ガザの人々を標的にしたり、危害を加えたりするために使われた証拠はこれまでのところ見つかっていない」としています。イスラエル軍への支援については「厳格な監督のもと、限定的な範囲で行った」「一部の要請は承認し、他は拒否した」とし、人質の生命を救うことを優先しつつ、ガザの市民のプライバシーやその他の権利にも配慮したと強調しました。
一方で同社は、顧客が自前のサーバーや端末上でソフトウェアをどのように利用しているかについては「可視性がない」とも認めています。他の商用クラウド事業者を通じてマイクロソフトの技術が使われる場合も含め、その用途を完全に把握することはできないとし、自社の管理が及ばない領域があることを示しました。
社内グループや市民団体からの疑問
こうした説明に対し、社内外からは疑問や批判の声も上がっています。現職と元社員で構成されるグループ「No Azure for Apartheid(ノー・アジュール・フォー・アパルトヘイト)」は、マイクロソフトに対し、調査報告書の完全な公表を求めました。
同グループに関わったホッサム・ナスル氏は、10月にマイクロソフト本社でガザで犠牲になったパレスチナの人々を追悼する非公認の集会を組織したことなどを理由に解雇された元社員です。ナスル氏は今回の声明について「会社の本当の狙いは社員の懸念に向き合うことではなく、イスラエル軍との関係で傷ついたイメージを取り繕おうとする広報的な見せかけに過ぎない」と批判しています。
デジタル権利団体「Electronic Frontier Foundation(エレクトロニック・フロンティア・ファウンデーション)」のシンディ・コーン事務局長は、今回の声明を「透明性に向けた一歩」と評価しつつも、依然として多くの疑問が残ると指摘しています。とくに、イスラエル軍が自らの政府サーバー上でマイクロソフトのサービスやAIモデルをどのように活用しているのか、といった具体的な運用実態は明らかになっていません。コーン氏は、現地で起きていることとマイクロソフトの説明との間にはなお大きな隔たりがあると述べています。
民間テック企業が政府に「利用条件」を示す時代
今回の声明は、政府とテック企業の力関係という観点からも注目されています。ジョージタウン大学の安全保障・新興技術センターの上級研究員であるエメリア・プロバスコ氏は、民間企業が国際的な政府との取引でここまで詳細な基準を示すのは珍しいと指摘します。
プロバスコ氏は「いま私たちは、政府ではなく企業の側が、武力紛争の最中にある政府に対して利用条件を提示するという、きわめて特異な状況に直面している」と述べ、その状況を「戦車メーカーが『自社の戦車はこの目的にしか使ってはいけない』と政府に指示するようなものだ」と例えました。彼女は、こうした事態は「新しい世界」の兆候だと評しています。
イスラエル軍はマイクロソフト以外にも、グーグル、アマゾン、パランティアなど複数の米テック大手とクラウドやAIサービスに関する広範な契約を結んでいるとされています。AIの軍事利用は、特定の企業だけの問題ではなく、業界全体の課題になりつつあります。
AIと戦争、私たちが考えたいポイント
今回のニュースは、AIやクラウドといった一見「中立な」技術が、戦場でどのような役割を果たしうるのかを改めて問いかけています。newstomo.comの読者として押さえておきたい論点を、いくつか挙げてみます。
- 企業の説明責任:軍との契約内容や利用範囲をどこまで公開すべきか。
- 技術の「可視性」の限界:顧客の自前サーバーや他社クラウド上での利用を把握できないなかで、企業はどこまで責任を負えるのか。
- 社員の声との向き合い方:AIの軍事利用に懸念を示す社員や元社員の声を、企業はどう取り扱うべきか。
- 政府と企業の力関係:武力紛争のさなかに、利用条件を決める主導権は誰が握るべきなのか。
AIの国際ニュースは、ともすると遠い世界の出来事のように感じられます。しかし、私たちが日々使っているクラウドサービスや検索エンジンを提供する企業が、どのような「戦場」で自らの技術を使わせているのかを見つめることは、デジタル時代を生きる市民としての重要な問いかけでもあります。今回のマイクロソフトの説明は、その議論の出発点の一つにすぎません。今後、各社がどこまで具体的な情報を開示し、どのような倫理基準を示していくのかが問われています。
Reference(s):
Microsoft says it provided AI to Israeli military, denies use for kill
cgtn.com








