エア・インディア機墜落調査、焦点はエンジンとフラップ ボーイング787全機に安全点検
エア・インディアのボーイング787型機が離陸直後に墜落し、乗客乗員を中心に240人以上が死亡した事故で、調査当局はエンジンやフラップ(補助翼)、着陸装置に焦点を当てています。インドの航空当局は同社が運航するボーイング787型機全機に追加の安全点検を命じており、国際的な航空安全にも影響し得る動きとして注目されています。
住宅地上空で高度を失い火球に 過去10年で最悪の航空事故
墜落したのは、ボーイング787-8「ドリームライナー」です。機体には242人が搭乗しており、インド西部の都市アーメダバードを離陸後まもなく、ロンドン南部のガトウィック空港に向かう途中で高度を急速に失いました。
監視カメラ映像によると、機体はアーメダバードの住宅密集地上空で高度を下げ、そのまま地上の建物に衝突して大きな火球となりました。墜落地点は医科大学の学生寮で、昼食時の時間帯だったとされています。
搭乗者のうち生存者は1人のみと伝えられています。地上でも、学生らを含む最大24人が犠牲になった可能性があると地元メディアは報じていますが、この人数についてはまだ独立した確認は取れていません。
この事故は、過去10年間で世界最悪の航空事故と位置づけられています。航空業界にとって極めて重い教訓となる可能性があります。
調査の焦点:エンジン推力、フラップ、開いたままの脚
事故調査では、エア・インディアとインド政府が、主に次の点に注目しているとされています。
- エンジンの推力に問題がなかったか
- フラップ(離着陸時に揚力を増やすための補助翼)が適切に作動していたか
- 離陸後も着陸装置が開いたままだった理由と、その影響
関係者によると、事故機は離陸後も着陸装置(ランディングギア)が収納されず、その状態のまま高度を失い墜落した可能性が指摘されています。着陸装置が開いたままだと空気抵抗が大きくなり、上昇性能や操縦性に影響するおそれがあります。
調査チームは、エア・インディア側に運航や整備面で過失がなかったかどうかも検証しており、整備記録や機体の状態のチェックが進められています。一方、鳥との衝突(バードストライク)の可能性は、現時点では主な焦点にはなっていないとされています。
また、テロの関与など異常事態の可能性も排除せず、対テロ専門部隊も調査プロセスに加わっています。ただし、現段階で特定のシナリオに結論づけられているわけではなく、原因究明には時間を要するとみられます。
用語を簡単に整理すると
- エンジン推力:機体を前に進ませ、離陸・上昇させる力。推力不足や不均衡は、離陸直後の安定性に直結します。
- フラップ:主翼の後ろ側にある可動部分で、下げることで揚力を増やし、低速でも浮き上がりやすくします。設定の誤りや故障は、離陸性能に影響します。
- 着陸装置(ランディングギア):車輪などからなる脚。通常は離陸後すぐに収納されます。出たままだと抵抗が増え、燃費や性能に悪影響を及ぼします。
ボーイング787全機への追加点検 運航継続か、全面運航停止か
今回の事故を受けて、インド政府は国内で運航されているボーイング787型機を一時的に運航停止にするかどうか、検討しているとされています。インドのフラッグキャリアであるエア・インディアは、ボーイング787-8と787-9を合わせて30機以上保有しています。
一方で、エア・インディア社内の関係者によると、政府から全面的な運航停止に関する正式な連絡は、現時点では届いていないということです。
規制当局が命じた具体的な安全対策
インドの航空規制当局は、エア・インディアが運航するGEnxエンジン搭載のボーイング787-8/787-9について、追加の整備措置を命じました。内容は次の通りです。
- 6月15日午前0時から、すべてのフライトについて離陸前のパラメータを「一度きりの追加点検」として確認すること
- トランジット中(次の便に備えた短時間の地上整備)の点検項目に、操縦系統が正常に作動しているかを確認する「フライトコントロール検査」を追加すること
- エンジンが必要な出力を発揮できるかを確認する「パワー・アシュアランス・チェック」を、2週間以内に実施すること
これらは、今後の運航を続けるうえで、エンジンと操縦系統に重大な不具合がないことを確かめるための緊急的な措置といえます。乗客にとっては、一見すると不安材料に映るかもしれませんが、裏を返せば、当局がリスクを慎重に洗い出そうとしている動きとも読み取れます。
ブラックボックス回収 残るはコクピットの声
航空事故調査の要となる「ブラックボックス」についても情報が入っています。救助隊と調査官は、墜落現場となった建物の屋上から、飛行データ記録装置(デジタル・フライト・データ・レコーダー)を回収しました。
この装置には、高度、速度、エンジン出力、操縦かんの操作状況など、多数の飛行データが記録されています。離陸滑走開始から墜落までの短い時間に、機体に何が起きていたのかを再現するうえで欠かせない情報源です。
一方で、もう一つのブラックボックスであるコクピット・ボイス・レコーダー(操縦室の音声記録装置)については、まだ所在が分かっていないとされています。こちらには、操縦士同士の会話や、警報音、無線交信などが録音されています。乗員が何を見て、何を判断し、どのような操作を行ったのかを読み解くためには不可欠な記録です。
飛行データと音声記録がそろうことで、技術的な不具合と人的要因の両面から、より精密な原因分析が可能になります。今後の捜索と解析の進展が注目されます。
何が問われているのか:航空会社、当局、利用者それぞれの視点
今回のエア・インディア機墜落事故では、航空会社の安全管理だけでなく、規制当局の監督体制や、機体メーカーの設計・運用ガイドラインなど、多くのレイヤーがあらためて問われることになります。
ただ、現時点で原因が特定されていない段階で、特定の企業や機種を一方的に危険視することは、事実に基づいた議論からは離れてしまいます。調査は、機体の残骸、整備記録、運航データ、乗員の訓練状況など、多数の要素を丹念に突き合わせながら進みます。
私たち利用者の側からできることは、次のような点かもしれません。
- 事故後の公式発表や信頼できるニュースソースから、冷静に情報を追うこと
- 航空会社や当局がどのような再発防止策や追加点検を行っているのかに注目すること
- 噂や断片的な情報だけで結論づけず、調査の経過と結果を待つ姿勢を持つこと
過去10年で最悪とされる今回の航空事故は、多くの命を奪う悲劇となりました。同時に、世界の航空業界全体が安全の基準と運用をあらためて検証し、次の10年をより安全なものにできるかどうかを問う出来事でもあります。
インド当局とエア・インディアによる調査と安全対策がどのような結論に至るのか、そしてそれが国際的な航空安全の議論にどうつながっていくのか。引き続き慎重に見ていく必要があります。
Reference(s):
Air India crash probe focuses on engine, flaps and landing gear
cgtn.com








