BRICSが結核対策で連携強化 世界の保健協力はどう変わるか
世界の結核症例の半数超を占めるBRICS諸国が、2025年には結核(TB)対策を軸に保健協力を一段と強化する姿勢を示してきました。本記事では、その動きと背景を整理し、国際保健のパラダイムがどう変わりつつあるのかを見ていきます。
BRICSが結核に注目する理由
BRICSは、世界の結核患者数の50%以上を抱えるとされています。加盟国の多くでは、結核が依然として重要な公衆衛生課題であり、保健医療体制や社会経済状況とも深く結びついています。
このためBRICS諸国にとって、結核対策は自国の課題であると同時に、世界の感染症対策をリードするテーマにもなりつつあります。
今年5月のネットワーク会合で何が話し合われたか
2025年5月には、第18回BRICS結核研究ネットワーク会合が開催されました。この場では、結核対策に関する幅広いテーマが議論されています。
- 結核の予防と早期診断
- ワクチン開発と新しい予防戦略
- 治療薬や治療期間短縮の可能性
- 公衆衛生上の介入策(コミュニティでの支援など)
- 資金動員の機会と課題
- 各国間の戦略対話の進め方
参加者たちは、とくに次の2点で連携を強めていく方針を共有しました。
- 新しい結核ワクチンの研究開発で、パートナーシップを拡大すること
- より短期間で効果的な治療法の開発を進めること
結核は古くから知られる病気ですが、ワクチンや治療法はなお改善の余地が大きく、研究協力の余白も広い分野です。負担が大きい国同士が知見と資源を持ち寄ることで、世界全体の対策加速につながる可能性があります。
「世界で最も命を奪う感染症」結核の現状
世界保健機関(WHO)によると、毎年1,000万人が結核を発症しています。結核は予防も治療も可能な病気であるにもかかわらず、WHOの2024年グローバル結核報告書によれば、2023年だけで125万人が命を落としました。
WHOのデータでは、結核患者の多くは低所得国・中所得国に暮らしており、とくに負担が集中する「高負担国」とされる30カ国で状況が深刻です。世界の結核患者のおよそ半数は、インド、インドネシア、中国、フィリピン、パキスタンの5カ国に集中しているとされています。
結核はしばしば「過去の病気」と見なされがちですが、数字を見ると、現在も国際保健の中心的な課題の一つであり続けていることがわかります。
標準治療と薬剤耐性という二つの顔
一般的な結核は、4種類の抗生物質を6カ月間服用する標準治療で対応できます。代表的な薬剤にはリファンピシンやイソニアジドがあり、これらを組み合わせて治療するのが基本です。
しかし一部では、これら標準的な薬が効かない薬剤耐性結核も問題になっています。薬剤耐性結核では、治療期間が長くなり、使用する薬も増えるなど、患者にとって負担の大きな治療が必要になります。
こうした薬剤耐性への対応には、新薬の開発とともに、診断技術の向上や治療中断を防ぐ仕組みづくりが欠かせません。BRICSの研究ネットワークが治療と診断の両面で議論しているのは、そのためです。
2035年を見据えたEnd TB戦略と資金ギャップ
WHOはEnd TB戦略と呼ばれる取り組みを掲げ、世界の結核流行を終息させることを目標にしています。この戦略は、結核による死亡者数と新規患者数を大幅に減らし、患者とその家族が壊滅的な支出に追い込まれないようにすることを柱としています。
計画によれば、2035年までに結核を公衆衛生上の脅威ではないレベルにまで抑え込むことが掲げられています。
一方で、結核対策に充てられる資金は近年減少傾向にあります。WHOによると、結核サービスへの世界全体の支出は、2019年の68億ドルから、2023年には57億ドルまで減少しました。これは、国際社会が掲げる目標額のわずか26%にとどまる水準です。
この資金ギャップは、医療現場の体制整備や新しい診断・治療法の普及を遅らせる要因になりかねません。その意味で、結核の負担が大きいBRICS諸国が、研究協力や資源動員の面で主導的な役割を果たすかどうかは、国際社会にとっても重要なポイントになります。
BRICSの保健協力がもたらす静かな変化
結核対策を軸にしたBRICSの連携強化は、次のような点で国際保健のあり方に静かな変化をもたらしつつあります。
- 負担の大きい国が前面に出る:世界の結核患者の多くを抱える国が協力することで、現場に根ざした議論や解決策が生まれやすくなります。
- ワクチン・治療開発の加速:研究ネットワークを通じてデータや技術を共有することで、新しいワクチンや短期治療法の開発が進む可能性があります。
- 資金と政策のギャップを埋める試み:世界的な資金不足が続くなかでも、複数の国が戦略対話を行うことで、限られた資源をどう配分するかという議論が具体化しやすくなります。
結核は、予防可能で治療も可能でありながら、いまも多くの命を奪い続ける感染症です。BRICS諸国による保健協力の強化は、その現実を変えようとする試みの一つといえます。静かに進むこうした取り組みが、2035年に向けたEnd TBの目標達成にどこまで近づけるのか、今後も注視していく必要があります。
Reference(s):
BRICS reshape paradigm for global health cooperation in ending TB
cgtn.com








