米ジョンズ・ホプキンス大、心臓突然死リスクを予測するAI「MAARS」を開発
米ジョンズ・ホプキンス大学の研究チームが、心臓突然死のリスクを高精度で予測する新しい人工知能(AI)モデルを開発しました。今週、専門誌Nature Cardiovascular Researchに掲載された研究によると、このAIは現在の臨床ガイドラインを大きく上回る精度を示し、心臓病診療の在り方を変える可能性があります。
心臓突然死と若年層をおびやかす「肥大型心筋症」
今回の研究が焦点を当てたのは、遺伝性の心臓病である肥大型心筋症です。肥大型心筋症は、もっとも一般的な遺伝性心疾患の一つであり、とくに若い世代の心臓突然死の主な原因とされています。
研究チームは、この疾患を持つ人のなかから、どの患者が心臓突然死の高いリスクを抱えているのかを、より正確に見極める方法を模索してきました。
新AI「MAARS」とは何か
開発されたAIモデルは、Multimodal AI for Ventricular Arrhythmia Risk Stratification、略称MAARSと名付けられています。MAARSの特徴は、心臓のMRI画像と患者の多様な健康データを統合して解析する点にあります。
- 造影剤を用いた心臓MRI画像から、心筋の傷跡や瘢痕のパターンを抽出
- 電子カルテなどに含まれる健康情報を組み合わせて評価
- 従来は見落とされがちだった「隠れた警告サイン」をAIが検出
こうしたマルチモーダル(複数情報を統合する)解析により、心臓突然死のリスクをこれまでより細かく層別化できるとされています。
精度は現行ガイドラインの約2倍に
米国やヨーロッパで使われている現行の臨床ガイドラインは、高リスクの患者を見つける精度がおよそ50%にとどまるとされています。つまり、保護が必要な人を見逃したり、逆に必要のない人に植え込み型除細動器(ICD)が入れられている可能性があります。
今回の研究によると、MAARSは全体で89%という高い精度を記録しました。さらに、リスクがもっとも高いとされる40〜60歳の患者では、精度は93%に達したと報告されています。
研究のシニアオーサーであるナタリア・トラヤノバ氏は、「人生の働き盛りにある患者が適切に守られない一方で、本来必要のない人が長期にわたって除細動器と付き合わされている」と指摘した上で、「私たちのAIは、誰が心臓突然死の非常に高いリスクを抱えているかを高い精度で予測できる」と述べています。
MRI画像の「見えない情報」をAIが読み取る
MAARSが鍵としているのは、造影MRIに写る心筋の瘢痕です。心臓専門医にとっても、この微妙なパターンを定量的に評価することは容易ではありません。
研究チームは、この「読み取りが難しい」画像データにディープラーニング(深層学習)を適用し、心臓突然死のリスクと関連する特徴をAIに学習させました。その結果、従来のアルゴリズムでは捉えきれなかった予測因子を抽出できたとしています。
共著者で心臓専門医のジョナサン・クリスピン氏は、「このAIモデルは、現行のアルゴリズムと比べて、高リスク患者を見つける能力を大幅に高めた。臨床ケアを変革する力を持っている」とコメントしています。
今後はより広い患者層と別の心疾患へ
研究チームは今後、MAARSをより幅広い患者集団で検証し、信頼性を高めていく計画です。また、肥大型心筋症以外の心疾患にも応用を広げる方針を示しています。
具体的には、心臓サルコイドーシスや、不整脈源性右室心筋症といった病気への適用が検討されています。これらの疾患も、重い不整脈や心臓突然死と関わる可能性があり、リスク予測の精度向上が求められています。
変わりつつある「リスク評価」の常識
今回の研究は、AIが医療現場で果たす役割が今後さらに大きくなることを示唆しています。特に、心臓突然死のように「起こるまで分かりにくい」リスクを、画像とデータの組み合わせで見える化する試みは、患者と医療者双方にとって意味のある一歩といえます。
誰にどのタイミングで強力な治療やデバイスを導入するのか。その判断をサポートする新しいツールとして、このAIモデルがどこまで実臨床に浸透していくのかが、今後の注目点となりそうです。
Reference(s):
cgtn.com








