なぜ宇宙で原子力発電が必要なのか:月面基地と深宇宙探査の現実 video poster
太陽光発電が主役だった宇宙開発の世界で、いま「宇宙原子力」が本格的な選択肢として浮上しています。NASAが2030年までに月面に原子炉を設置する計画を打ち出し、中国の国際月面研究駅(ILRS)構想も進むなか、なぜ月や深宇宙で原子力発電が必要とされているのでしょうか。
NASAと中国、月面エネルギーをめぐる新たな局面
今年8月、NASAの暫定長官ショーン・ダフィー氏は、2030年までに月面に原子炉を設置する計画を発表しました。この動きは、資源が豊富な月面地域をめぐる中国との新たな宇宙開発競争の一環として位置づけられています。
一方、中国は2017年に国際月面研究駅(ILRS)プロジェクトを打ち上げました。ILRSは国際協力によって建設される月面基地構想で、将来的なエネルギー源として原子力が想定されています。アフリカ、アジア、ヨーロッパなど、世界各地からすでに50を超える機関が参加しており、「共同建設・成果共有」という理念のもと、開かれたプロジェクトとして進められています。
なぜ月面に原子力発電所が必要なのか
月の表面積は約3,790万平方キロメートルとされ、地球の陸地面積とほぼ同じ規模です。いま計画されている多くの月面基地は、太陽光が比較的安定して当たり、水氷が眠るクレーターにもアクセスしやすい「極域(きょくいき)」に置かれる想定です。ここでは太陽光発電と水資源の利用が両立しやすく、温度も比較的安定しています。
しかし、科学的な観測や資源探査のうえで重要とされる地域は、それだけではありません。国際宇宙航空連盟の宇宙輸送委員会の主席である楊宇光(ヤン・ユグアン)氏は、「科学研究の観点からは、月の赤道付近や他の低緯度地域にも基地を設置する必要がある」と指摘します。
こうした地域には、将来の資源として注目されるヘリウム3などが高濃度で存在すると考えられていますが、環境は過酷です。昼は強烈な熱にさらされ、夜はマイナスの極寒が14日間続きます。この長い「月の夜」のあいだ、太陽光発電はほぼ機能しません。
楊氏は「しかし、私たちにはもう一つの選択肢がある。それが原子力だ」と述べます。原子力はエネルギー伝送効率の面で太陽電池よりもはるかに高く、最大で100万キロワット級の電力供給も視野に入るといいます。長期間にわたり安定したエネルギーを供給できることが、月面基地にとって決定的な強みになります。
太陽光だけでは足りない理由
月面や深宇宙でエネルギーが必要になる場面は、今後ますます増えていきます。例えば、次のような設備は大量の電力を消費します。
- 居住モジュールの空調や生命維持装置
- 資源採掘機や加工プラント
- 長距離通信アンテナや探査レーダー
- 月面ローバーや建設ロボットの充電
極域以外の地域では、太陽光パネルだけでこれらすべてをまかなうのは現実的ではありません。長い夜を乗り切るためには巨大な蓄電池が必要になりますが、それを打ち上げて運ぶコストも無視できません。
その点、原子力発電は少ない燃料で大きな電力を長期間生み出せるため、月面のように補給が難しい環境では合理的な選択肢といえます。
宇宙での原子力利用は新しい話ではない
とはいえ、「宇宙に原子炉」と聞くと、危険性を心配する人も多いでしょう。実は、宇宙と原子力の組み合わせはまったくの新発想ではありません。1960年代以降、米国や旧ソ連は、少量の放射性同位体を使う電源「放射性同位体電源(RTG)」を人工衛星、火星探査機、ボイジャー探査機などに利用してきました。
こうした電源は、太陽光が弱い深宇宙でも長期間電力を供給できることから、すでに実績のある技術です。月面原子炉は、これをさらに大規模化し、基地全体を支える「発電所」としての役割を担おうとするものだといえます。
国連も想定する「原子力なしでは届かない」ミッション
国連も、太陽光では不十分な任務において原子力エネルギーが重要になる可能性を認めています。国連の枠組みでは、宇宙空間での原子力利用に関する安全性、透明性、国際協議のガイドラインが定められており、各国はこれに沿って計画を進めることが求められています。
月面原子炉やILRSのエネルギー計画は、そうした国際的なルールを踏まえながら、「どう安全を確保しつつ、人類の活動範囲を広げていくか」という問いに向き合うプロジェクトだと見ることができます。
深宇宙探査の鍵としての「宇宙原子力」
月面での原子力発電が実現すれば、その先にある火星探査や小惑星探査、さらにはより遠い深宇宙ミッションにとっても大きな一歩になります。安定した大電力が確保できれば、これまで難しかった次のような挑戦も現実味を帯びます。
- 大規模な科学観測装置の常時稼働
- 長期滞在型の有人探査基地の運営
- 月・火星を経由した深宇宙へのステーション構想
宇宙での原子力発電は、単なる「電源の選択肢」というだけでなく、人類がどこまで宇宙に踏み出せるかを左右するインフラになりつつあります。
これから私たちが注目したいポイント
2025年のいま、月面原子炉やILRSといった構想は、まだ計画・設計段階にあります。それでも、各国が原子力を含む新しいエネルギー戦略を模索していることは確かです。
私たちがこれから注目したいのは、次のような点です。
- 原子力発電の安全性と、その国際的なルールづくりがどう進むか
- NASAと中国を含む各国・各機関の協力と競争のバランス
- 月面で得られる科学的成果や資源開発が、人類全体にどう還元されるのか
宇宙における原子力の利用は、リスクと可能性の両方をはらんだテーマです。ニュースとして追うだけでなく、「どのような宇宙開発が望ましいのか」を考えるきっかけとして、自分なりの視点を持っておきたいところです。
Reference(s):
cgtn.com








