マスク氏のxAI、アップルとOpenAIを提訴 AI独占巡り米反トラスト訴訟
イーロン・マスク氏が率いるxAIとソーシャルメディア企業Xが、米テキサス州の連邦地裁でアップルとOpenAIを相手取る大規模な反トラスト(独占禁止)訴訟を起こしました。AIとスマートフォンをめぐる巨大企業同士の攻防は、今後の人工知能(AI)競争のルールに大きな影響を与えそうです。
訴状の概要:アップルとOpenAIへの主な疑い
提出された61ページの訴状で、xAIとXはアップルとOpenAIがAI分野とスマートフォン市場で競争相手を締め出す「違法な独占的パートナーシップ」を結んだと主張しています。訴状のポイントは次の通りです。
- アップルとOpenAIが提携し、生成AIチャットボット「ChatGPT」をiPhoneのオペレーティングシステム(OS)に統合される唯一の生成AIとして扱っている。
- その過程で、xAIの生成AIチャットボット「Grok(グロック)」など競合サービスがiPhoneの中核機能から締め出されている。
- 原告側は、アップルが米国スマートフォン市場の約65%、OpenAIが生成AIチャットボット市場の少なくとも80%を握る「二つの独占企業」だと位置づけています。
- こうした提携により、ChatGPTは数億人規模のiPhone利用者からの「数十億件のユーザープロンプト(入力指示)」に排他的にアクセスできるようになる、と警鐘を鳴らしています。
- アップルがApp Store内のランキングや検索結果を操作してChatGPTを優遇し、Grokアプリのアップデート承認を遅らせたと訴えています。
- xAIとXは、数十億ドル規模の損害賠償に加え、こうした反競争的行為の恒久的な差し止めと陪審裁判を求めています。
訴状は、「これは、人工知能という人類史上もっとも強力な技術が急速に社会を変える世界で、自らの支配を保とうとする二つの独占企業が手を組んだ物語だ」と強い言葉でアップルとOpenAIを批判しています。
アップル×OpenAI提携:ChatGPTが「デフォルトAI」に
訴訟の背景には、2024年6月に発表されたアップルとOpenAIの提携があります。この提携により、ChatGPTはアップルの音声アシスタント「Siri」や、iPhoneのさまざまな機能からアクセスできる唯一の生成AIアシスタントとされました。
つまり、多くの利用者にとって「iPhoneでAIを使う」といえば自動的にChatGPTが起動する設計になっている、というのがマスク氏側の見方です。競合サービスはアプリとして存在できても、OSレベルでの深い連携からは外されてしまう可能性があります。
「デフォルト」の座が持つ重み
スマートフォンの世界では、検索エンジンやブラウザ、音声アシスタントなどの「デフォルト設定」を巡って、これまでも独占禁止法が争点になってきました。今回の訴訟は、その焦点がAIアシスタントに移った形ともいえます。
特に、訴状が問題視するのはデータです。ChatGPTがiPhoneの標準AIとして膨大なユーザープロンプトに触れることで、競合サービスが決してたどり着けない規模のデータを学習に活用できるようになる——。これにより、競合他社が追いつけなくなる「データの壁」が築かれるとxAI側は懸念しています。
マスク氏側の視点:「二つの独占企業が手を組んだ」
訴状は、アップルとOpenAIを「二つの独占企業」と位置づけています。原告側によれば、
- アップルは米国スマートフォン市場の約65%を支配
- OpenAIはChatGPTを通じ、生成AIチャットボット市場の少なくとも80%を掌握
しているとされています。
こうした状況で、両社が排他的な提携を結ぶことは、競合を排除し市場支配を固定化する行為だとxAIとXは訴えています。背景には、AIモデルそのものの性能競争だけでなく、それをユーザーに届ける「入り口」を誰が握るのかという、プラットフォームを巡る争いがあります。
米国の反トラスト法では、市場支配力を利用して競争を不当に妨げる行為や、競合排除を目的とした協定が問題になります。今回のケースでは、「iPhoneという巨大なプラットフォーム」と「ChatGPTという圧倒的シェアのAI」が結びつくことで、競争がどこまで歪められているのかが焦点となりそうです。
OpenAIの反論とエスカレートする応酬
これに対しOpenAIは声明で、「今回の提訴はマスク氏による継続的な嫌がらせのパターンと一致している」と強く反発しています。
今回の訴訟は、今月初めにマスク氏がOpenAIを公に批判し、両者の間で激しい言葉の応酬が起きた流れの中で起こされました。マスク氏は、OpenAIがApp Store内でのランキング操作などを通じてxAIのGrokを不利に扱っていると非難しました。
これに対しOpenAIのサム・アルトマンCEOは、ランキング操作の指摘を「驚くべき主張だ」と一蹴し、逆に「マスク氏こそ、自身の企業や気に入らない競合に対して、ソーシャルメディアXを利用して操作を行っている」と反論。マスク氏がアルトマン氏を「嘘つき」と呼ぶ場面もあり、対立は個人レベルでも激しさを増しています。
元共同創業者同士の対立へ
マスク氏とアルトマン氏は、もともとOpenAIの共同創業者でした。しかしマスク氏は2018年にOpenAIを離れ、その後の路線をめぐって両者の関係は極めて険悪なものになっています。
2022年末に初代ChatGPTが登場し、「生成AIブーム」が世界的に広がる中、マスク氏は2023年にxAIを設立し、本格的にOpenAIや他の大手AI企業と競合する道を選びました。今回の訴訟は、技術開発をめぐる企業戦略だけでなく、創業者同士の価値観やビジョンの衝突が表面化したものともいえます。
AI競争とプラットフォーム支配:何が問われているのか
今回の米国の反トラスト訴訟は、一見するとアメリカIT企業同士の争いという印象かもしれません。しかし、その背後には、今後のAI産業全体に関わる大きな論点が隠れています。
主な論点を整理すると、次のようになります。
- デフォルトAIの影響力:スマートフォンに最初から組み込まれたAIアシスタントが事実上の標準となり、他の選択肢があっても利用されにくくなる可能性。
- データへのアクセス格差:一社のAIが膨大なユーザープロンプトを独占的に取得することで、学習データの面で圧倒的な優位に立ち、競争が形だけになるリスク。
- プラットフォーム運営の透明性:App Storeのランキングや審査プロセスが、公平な競争を妨げる道具になっていないかどうか。
- 創業者の対立と企業戦略:マスク氏とアルトマン氏の対立が、訴訟戦略やパートナーシップの選択にどう影響しているのか。
生成AIは、検索、仕事、創作、教育など、私たちの日常生活のあらゆる場面に入り込みつつあります。その入り口を誰がどのような条件でコントロールするのかは、技術だけでなく社会のルールづくりの問題でもあります。
利用者への影響とこれからの焦点
今回の訴訟の行方次第では、アップルのデバイス上で利用できるAIアシスタントの種類や、アプリストア運営のあり方が見直される可能性があります。ただし、反トラスト訴訟は審理が長期化することも多く、すぐに結論が出るとは限りません。
私たち利用者の目線からは、次のようなポイントを意識しておくと、この国際ニュースを立体的にとらえやすくなります。
- スマートフォンやPCで、AIアシスタントやチャットボットをどこまで自由に選べるか。
- AIサービスがどのようなデータをどの範囲で利用しているかについて、どれだけ説明が行われているか。
- プラットフォーム企業が、自社のサービスと競合他社のサービスを公平に扱っているか。
AIとプラットフォーム支配、そして創業者個人の対立が複雑に絡み合う今回の訴訟は、今後のAI時代のルールづくりを占う重要なケースになりそうです。日本にいる私たちにとっても、どのAIを「当たり前の存在」として受け入れるのか、その前提条件を問い直すきっかけになりそうです。
Reference(s):
cgtn.com








