米国ビザ方針が揺れる中国人留学生 歓迎発言と厳格化案のはざまで
米国のビザ政策をめぐるメッセージが揺れる中、中国人留学生の将来に不透明感が広がっています。歓迎を強調する発言と、ビザの厳格化を目指す動きが同時進行し、米中間の教育交流にどのような影響が出るのかが注目されています。
米政権、ビザ「歓迎」と「制限」の二つの顔
ロイター通信によると、トランプ政権は最近、中国人留学生や中国メディア関係者に対するビザの有効期間を短くする案を示しました。名目上の理由は「国家安全保障上の懸念」で、実現すれば、これまで認められてきた長期の数次ビザ(複数回入出国できるビザ)が見直され、米中間の学術交流が今より難しくなる可能性があります。
「60万人の学生を歓迎」と語る一方で
一方で、トランプ米大統領は今週、韓国の李在明(Lee Jae Myung)大統領との会談の場で、記者団から質問を受けた際、「60万人もの中国人学生を受け入れることはとても重要だ」と強調しました。米国内で「中国人学生を制限すべきだ」という声があることに触れつつ、「学生の受け入れは続ける」とする姿勢を示した形です。
こうした発言は、米国務省が5月下旬、「中国人留学生のビザを積極的に取り消していく」と表明していた流れから見ると、明らかなトーンの変化でもあります。政権内部のメッセージがそろわない状況は、留学を考える学生や、その家族にとって大きな不安要因になりかねません。
数字で見る:中国人留学生はすでに減少傾向
米公共ラジオNPRは、今学期の開講に合わせて、米大学への留学生全体の新規入学者数が大きく落ち込んでいると報じました。その一因として、ビザ政策の不透明さと、米国政治の緊張した雰囲気が挙げられています。
中国人留学生の数は、すでに減少に転じています。数十年にわたる増加の結果、米国で学ぶ中国人学生は新型コロナの流行が始まる直前の2019〜2020年度に37万2532人とピークに達しましたが、その後は減少に転じ、2022年には28万9526人、2023年には27万7398人まで減っています。
統計上も、「米国で学ぶ」という選択肢が、以前ほど自明ではなくなっていることがうかがえます。
大学間連携にも波紋 共同プログラムを見直す動き
教育現場にも、米中関係の緊張が影を落としています。過去1年の間に、ミシガン大学など複数の米大学が、中国の大学との共同プログラムや提携を打ち切りました。背景には、一部共和党議員から、「米国の資金が中国の技術発展や軍事力の近代化に貢献しているのではないか」とする問題提起があったとされています。
共同研究やダブルディグリー(学位の共同取得)などの取り組みは、学生にとって学びの幅を広げる重要な機会でもありました。そうした連携が縮小されれば、教育・研究の双方で影響が出る可能性があります。
今後さらに減少も? 専門家が見る二つの要因
専門家の多くは、中国人留学生の数が今後もさらに減る可能性が高いと見ています。その要因としては、
- 米中間の緊張した二国間関係
- 中国の人口減少という長期的な構造変化
の二つが指摘されています。政治・安全保障をめぐる不信感が続けば、ビザ発給やキャンパスでの受け入れ体制に慎重さが増し、結果として留学のハードルが高まると考えられます。また、18〜20代の若年人口が減るなかで、海外に出る学生の「母数」そのものも縮小していきます。
不透明さが生む「見えないコスト」
今回のように、歓迎メッセージと制限強化のシグナルが同時に出される状況は、学生側と大学側の双方に「見えないコスト」をもたらします。
- 学生・家族にとって:数年先まで見通しづらく、出願や資金計画、キャリア設計にリスクが増える。
- 米国の大学にとって:授業料収入の不安定化に加え、キャンパスの多様性が損なわれる懸念がある。
- 学術コミュニティにとって:共同研究や人的交流が減れば、知の循環そのものが細くなる。
留学は単なる個人のキャリア選択ではなく、国や地域をまたいだ信頼関係の一部でもあります。ビザ政策が頻繁に揺れることは、その信頼に小さなひびを入れていくことにもつながりかねません。
日本の読者にとっての論点
このニュースは、米国と中国だけの問題ではありません。日本から米国や中国への留学を考える人にとっても、「政治情勢が学びの自由にどう影響するのか」という問いを突きつけています。
国際ニュースとして今回の動きを見るとき、次のような視点が重要になりそうです。
- 安全保障上の懸念と、人の往来・知的交流のバランスをどう取るべきか。
- 留学先を選ぶとき、ビザ制度や二国間関係の変化をどこまで織り込むべきか。
- もし米国での受け入れが縮小した場合、他の国・地域の高等教育はどのような役割を果たしうるか。
「留学は当たり前にできる」と考えられてきた時代から、「政治や安全保障の影響を前提に考える」時代へ。中国人留学生をめぐる米国のビザ方針の揺らぎは、そんな時代の変化を静かに映し出していると言えます。
Reference(s):
U.S. admin's shifting stance fuels uncertainty for Chinese students
cgtn.com








