イタリア、EU初の包括的AI法を成立 プライバシーと子どもの保護を強化
イタリア議会が、新たな人工知能(AI)法を可決しました。EUの画期的なAI規則『AI Act』と足並みをそろえた包括的な規制で、プライバシー保護や子どものアクセス制限など、人権とイノベーションのバランスを探る国際ニュースです。
イタリアがEUで初の包括的AI法を制定
イタリアの議会は水曜日、新しいAI法を承認しました。これにより、イタリアはEUの中で、EUのAI Actに整合する形で包括的なAI規制を整えた初の国となります。
ジョルジャ・メローニ首相率いる政権は、この法律の目的を「人間中心で、透明性が高く、安全なAI利用」を確立することだと位置づけています。同時に、イノベーション促進、サイバーセキュリティ(ネットワークと情報システムの安全)、プライバシー保護も柱に据えています。
人間中心・透明性・安全性という三つの柱
新法は、AIの判断や処理がどのように行われたかを追跡できる「トレーサビリティ」と、人による監督を義務づけています。アルゴリズム任せではなく、必ず人間が関与することを前提にしている点が特徴です。
デジタル変革担当のアレッシオ・ブッティ政務次官は、この法律について「イノベーションを公共の利益の枠組みに戻し、AIを成長、権利、市民の完全な保護へと導く」と強調しています。
医療・職場・行政など幅広い分野をカバー
このAI法は、特定の業界だけでなく、社会の多くの領域を横断するルールを定めています。対象とされる主な分野は次の通りです。
- 医療
- 労働(職場)
- 公共行政
- 司法(裁判・法執行)
- 教育
- スポーツ
これらの分野でAIが使われる際には、決定プロセスの追跡可能性と人間による監督が求められます。
医療:AIはあくまで補助役
医療分野では、AIが診断やケアを支援することが認められますが、条件付きです。最終的な判断権限は医師に残され、患者はAIがどのように使われたかについて説明を受ける権利を維持します。
つまり、AIが病気を自動的に診断して終わりではなく、必ず医師がチェックし、患者にも情報が開示される仕組みです。
職場:AI導入時の説明義務
職場でAIが導入される場合、雇用主は労働者に対して、その事実を知らせる義務があります。人事評価や採用、勤怠管理などにAIが使われるケースでは、従業員が「いつの間にかAIに評価されていた」という状況を避ける狙いがあります。
子どものAIアクセス制限と保護
新法は、14歳未満の子どもがAIサービスにアクセスする場合、親の同意を必要とすると定めています。これは、生成AIやチャットボットなどの利用による影響から、子どもを守るための措置と位置づけられます。
未成年者がAIと接する機会が増える中で、家庭と保護者の関与を強めるアプローチだと言えます。
AIガバナンス:複数の当局が監督
イタリア政府は、新法の下でAIを監督する国内当局として、デジタルイタリア庁と国家サイバーセキュリティ庁を指定しました。一方で、イタリア銀行や証券市場監督機関コンソブなどの既存の監督当局も、それぞれの権限を維持します。
AI開発や活用を、一つの機関ではなく、分野ごとの専門性を持つ複数の機関で見ていく体制です。
ディープフェイクへの刑事罰と違法利用の厳罰化
新たな刑事罰も、このAI法の注目点です。ディープフェイクなど、AIが生成したコンテンツを違法に拡散し、誰かに被害を与えた場合、1年から5年の懲役が科される可能性があります。
さらに、AIを不正に利用して行われたなりすましや詐欺などの犯罪については、刑罰を重くする規定も盛り込まれました。生成AIによる偽動画や偽音声が社会問題となる中で、抑止力を高める狙いが見て取れます。
著作権:AI支援作品はどこまで守られるか
著作権の扱いも、クリエイターや企業にとって重要なポイントです。イタリアのAI法は、AIの支援を受けて作られた作品であっても、そこに人間の「知的な創作努力」がある場合は、著作権によって保護されると定めています。
一方で、AIによるテキスト・データマイニング(大量の文章やデータからパターンを抽出する手法)については、著作権で保護されていないコンテンツか、認可を受けた研究機関による科学研究目的に限って認めるとしています。
これにより、商業目的での無制限なデータ吸い上げは制約される一方、学術研究など公益性の高い用途は確保するという線引きが示されています。
最大10億ユーロをAI関連企業に投資
新法はまた、AIや関連分野への投資も後押しします。国が後ろ盾となるベンチャーキャピタル基金を通じて、AI、サイバーセキュリティ、量子技術、通信の分野で活動する中小企業や大企業に対し、最大10億ユーロ(約11億8000万ドル)を出資できるようにしました。
ただし、批判的な見方もあります。この資金規模は、国際的なイニシアチブと比べると「十分とは言えない」との声もあり、今後どこまで実効性を持つのかは注視されそうです。
AIと公共の利益のバランスをどう取るか
イタリアのAI法は、次のようなメッセージを投げかけているように見えます。
- AIの判断には、人間が責任を持って関与すること
- 子どもや労働者など、より弱い立場の人を優先的に守ること
- ディープフェイクなど新しいリスクには、刑事罰も含めて対応すること
- 一方で、イノベーションや研究を支える資金とルールも整えること
AIは国境を越えて使われる技術であり、各国のルールづくりは互いに影響し合います。イタリアの今回の一歩は、AIと公共の利益のバランスをどのように取るのかを考えるうえで、一つの具体的なモデルとして注目されそうです。
Reference(s):
Italy enacts AI law covering privacy, oversight and child access
cgtn.com







