アイスランド「失われた森」を取り戻す 火と氷の島の森林再生 video poster
かつて国土の約4割が森林に覆われていたアイスランドが、いま「失われた森」を取り戻す大規模な森林再生プロジェクトに挑んでいます。過放牧と森林伐採、そして火山活動で裸地化した大地を、どのように再び緑で覆おうとしているのでしょうか。
かつては森の島、20世紀初頭には森林1%未満に
アイスランドでは、かつて最大で国土の40%ほどが森林だったとされています。しかし、何世紀にもわたる過放牧や伐採に加え、繰り返される火山噴火の影響で、森は急速に失われました。
20世紀初頭には、森林は国土の1%未満にまで減少。樹木がなくなったことで、火山性のもろい土壌が強い風や砂嵐にさらされ、ヨーロッパでも最も荒廃した景観のひとつといわれるほどの状態に陥りました。
ヘクラ火山の麓で進む「14万ピッチ」規模の植林
南部のヘクラ火山の斜面近くでは、アイスランド土地森林局のサムソン・ハルダルソンさんとフレフナ・イェンスドッティルさんが、荒廃の規模と再生の難しさを示しています。長年の羊の放牧によって自生のカバノキ(バーチ)の若木は食べ尽くされ、噴火を繰り返す火山の火山灰が表土を奪ってきました。
そうした土地に、いまはサッカー場14万面分に相当する広大な再植林ゾーンが設けられています。そこでは、在来種のカバノキに加え、慎重に選ばれた外来種の樹木を組み合わせて植えています。目的は、火山灰や暴風、そして進行する気候変動にも耐えられる、しなやかで多様な森をつくることです。
夏の山小屋が「生きた実験室」に
ヘクラ火山からそれほど遠くない場所では、森林遺伝学者のアザルステイン・シグルゲイルソン博士が、自身の夏の山小屋を「生きた実験室」に変えています。荒涼とした溶岩原の中で、シトカトウヒやロッジポールマツ、さらにはナラやブナといった樹種まで試験的に育てています。
これらの「パイオニア種(先駆樹種)」が風よけや日陰をつくることで、より繊細な樹木も生育できる小さな環境=マイクロクライメート(微気候)が生まれます。こうした工夫によって植物の多様性が戻り、かつてはアイスランドで見られなかった鳥類が新しい森林を棲みかとして選ぶようになっているといいます。
トースモルク渓谷、約100年かけた再生の物語
内陸部の豊かな渓谷トースモルクは、アイスランドの森の再生における象徴的な成功例です。かつてこの谷も激しい侵食に苦しんでいましたが、1924年、残っていたカバノキ林を守るために一帯が柵で囲われ、放牧などから保護されました。
そのおよそ1世紀後、トースモルクの森林は当初の約200ヘクタールから、ほぼ5,000ヘクタールにまで拡大しました。現在では、世界各地から集まるボランティアが、夏になると地元チームと共にヤナギの挿し木を植え、将来の火山灰や嵐に備えて土壌を安定させる作業に取り組んでいます。
森は防波堤であり、気候危機への備えでもある
アイスランドが進める森林再生は、単に「失われた景観を取り戻す」だけではありません。樹木は、火山灰が地表を覆った際にそれを受け止め、土壌が風に飛ばされるのを防ぐ自然の防波堤として機能します。同時に、二酸化炭素を吸収・貯蔵することで、急速に進む地球温暖化への対策にもなります。
火山と共生してきた「火と氷の島」が、森の力を使ってレジリエンス(回復力)を高めようとしていることは、世界各地で続く自然災害や気候変動への適応策を考えるうえでも重要なヒントになりそうです。
「自分は木陰を歩けなくても」— 世代を超えるまなざし
サムソン・ハルダルソンさんにとって、この仕事はきわめて個人的な意味を持つといいます。「自分がその木々の下を歩けないとしても、木を植えることに喜びを感じます。大事なのは、次の世代の土地を守れるだけの強い森を残すことなのです」と語ります。
森が育つには何十年、場所によっては百年以上という時間が必要です。いまアイスランドで進む森林再生は、「自分の生きているあいだ」に完結しないプロジェクトに、どう向き合い、どうバトンを渡していくのかという問いも投げかけています。
火山の麓で黙々と苗木を植える人びとの姿は、遠く離れた私たちにとっても、「未来の誰かのために、いま始められることは何か」を静かに考えさせる風景なのかもしれません。
Reference(s):
cgtn.com








