花がニッケルを採る?アルバニア発「フィトマイニング」というサステナブル採掘 video poster
電気自動車のバッテリーに欠かせないニッケル。その需要が世界的に高まる一方で、従来の採掘は環境への負荷が大きいことが課題になっています。こうした中、アルバニアで「花の力」で金属を採るという、少し不思議で革新的なサステナブル採掘の試みが進んでいます。
環境負荷の大きい金属採掘に代わる一手
国際ニュースでもたびたび取り上げられるように、世界では毎年、数十億トン規模の金属が採掘されています。その裏側で、山の大規模な掘削やエネルギー消費、水質汚染など、環境へのコストは小さくありません。
特にニッケルは、電気自動車(EV)のバッテリーに使われる重要な金属として、2025年現在も需要が増え続けています。そのニッケルを「掘る」のではなく「育てる」ことで取り出そうとしている国が、バルカン半島のアルバニアです。
毒性の強い土壌に適応した「超集積植物」
この取り組みの主役は、学名 Odontarrhena chalcidica(オドンタレナ・カルキディカ)という植物です。アルバニアの一部に広がる超苦鉄質土壌と呼ばれる特殊な土壌は、ニッケルが豊富な一方、通常の作物にとっては毒性が強く、農業利用には向きません。
ところが、この植物はそうしたニッケル濃度の高い土壌でこそよく育つ「ハイパーアキュムレーター(超集積植物)」です。根からニッケルなどの金属を吸い上げ、葉や茎に高濃度で蓄える性質を持っています。
アルバニア農業大学のアイダ・バニ教授は、この植物をはじめとする超集積植物の能力を10年以上にわたって分析し、どれだけ金属を吸収できるのか、そしてそれを産業や環境保全にどう生かせるのかを研究してきました。
フィトマイニング(アグロマイニング)とは何か
こうした植物を使って金属を回収する手法は、フィトマイニング(植物採鉱)またはアグロマイニング(農業採鉱)と呼ばれます。仕組みはシンプルです。
- ニッケルを多く含む土壌で、超集積植物を育てる
- 十分に成長したら、植物を収穫する
- 収穫した植物を焼却し、灰に含まれるニッケルを回収する
このプロセスは、従来の鉱山開発に比べてはるかにエネルギー消費が少なく、効率よくニッケルを取り出せるとされています。また、第二の効果として、汚染された土壌から金属を引き抜き、時間をかけて浄化・修復する役割も期待されています。将来的には、元々は有害で使いにくかった土地を、農地として再生できる可能性もあります。
「金属を掘る」のではなく「金属を育てる」スタートアップ
アルバニア北部では、MetalPlantというスタートアップ企業がフィトマイニングの実用化に挑戦しています。彼らはトロポヤという地域で、超集積植物の畑を約7ヘクタールにわたって栽培し、「地面から掘り出す」代わりに「畑で金属を育てる」ことを目指しています。
従来の鉱山なら、重機で山を削り、鉱石を砕き、エネルギーを大量に使う精錬工程が必要でした。対してMetalPlantのアプローチでは、土壌そのものは掘らず、植物を栽培して収穫するという農業型のプロセスが中心になります。この発想の転換が、サステナブルなニッケル生産へのカギになりつつあります。
強化岩風化でCO₂も固定する「二重の効果」
MetalPlantがさらに踏み込んでいるのが、強化岩風化(エンハンスト・ロック・ウェザリング)と呼ばれる手法です。オリビンという岩石を砕き、畑の表面に撒くことで、次のような効果を狙っています。
- 土壌の性質が変わり、植物によるニッケルの吸収量が高まる
- オリビンが雨水と反応する過程で、大気中のCO₂を取り込み、安定した炭酸塩として固定する
つまり、ニッケルをより効率よく採りながら、同時にCO₂を長期的に封じ込める「金属採取+炭素除去」の二重の効果を目指しているということです。
「カーボンネガティブなニッケル」への期待
フィトマイニングと強化岩風化を組み合わせることで、ニッケル生産を単に「クリーン」にするだけでなく、全体として大気中のCO₂を減らす「カーボンネガティブ」にできる可能性があります。
もしこのモデルが経済的にも成り立ち、大規模に展開できれば、アルバニアは世界のニッケル生産における新しいグリーンモデルとして注目されるかもしれません。環境負荷の大きい採掘を前提とせず、花や植物が電気自動車の未来を支えるという構図は、エネルギー転換の象徴的なストーリーにもなり得ます。
これから私たちが注目したいポイント
日本語で国際ニュースを追う読者にとって、このアルバニアの取り組みは、単なる環境技術ネタにとどまりません。今後、次のような点が注目ポイントになりそうです。
- フィトマイニングで回収できるニッケル量が、どこまで実用規模に達するのか
- 従来の採掘と比べたときのコストと収益性
- 土地の修復や地域経済への長期的な影響
- 他の金属や他地域への応用可能性
電気自動車の普及、気候変動対策、資源の確保という複数の課題が絡み合う中で、「花で金属を採る」という一見ユニークな発想が、どこまで現実の選択肢になりうるのか。今後も継続的にフォローしたいテーマです。
Reference(s):
RAZOR: A sustainable approach to mining fueled by flower power
cgtn.com








