トランプ政権のH-1Bビザ規制強化 インドITのビジネスモデルに揺さぶり
トランプ政権のH-1Bビザ規制強化 インドITのビジネスモデルに揺さぶり
米トランプ政権が新規H-1Bビザに10万ドルの追加手数料を課す決定を下し、米国に大きく依存するインドのIT産業が、長年のビジネスモデルの見直しを迫られています。サービス輸出やグローバル人材の流れにまで波及しかねない動きとして注目されています。
H-1Bビザに高額手数料 インドITに直撃
2025年12月初め、ドナルド・トランプ米大統領は、高度技能職向け就労ビザであるH-1Bの新規申請に対し、1件あたり10万ドルの追加手数料を日曜から課す方針を打ち出しました。
インドの情報技術産業は規模がおよそ2830億ドルに達し、その約57パーセントの収入を米国市場から得ています。これまでインド企業は、H-1Bなどの就労ビザと、ソフトウエアや業務のアウトソーシングを組み合わせることで、米企業向けに人材とサービスを提供してきました。
米政府のデータによると、昨年のH-1Bビザ承認者のうち約71パーセントがインド出身で、中国は約11.7パーセントと続きました。今回の高額手数料は、最大の受益者だったインドのIT企業や技術者に特に大きな影響を与えるとみられます。
出張ローテーションモデルが限界に
インドIT企業はこれまで、エンジニアを数年単位で米国の顧客先に派遣するオンサイトと、インドやメキシコ、フィリピンなどの拠点から遠隔で作業するオフショアを組み合わせたオンサイト・オフショアモデルで成長してきました。
しかし新たな手数料により、
- 米国内への人材ローテーションの一時停止
- インドなど海外拠点からのリモート提供の加速
- 米国市民や永住権保持者の採用拡大
といった方向への転換が避けられないと、業界関係者は見ています。
インドのIT企業で最高経営責任者を務めた経験を持つガネシュ・ナタラジャン氏は、インドから米国を目指す技術者にとって、いわゆるアメリカン・ドリームは一段と遠ざかると指摘します。その上で、企業は国境をまたぐ出張を絞り込み、インドやメキシコ、フィリピンなどからより多くの業務をこなす方向に向かうだろうとみています。
現場の混乱と法廷闘争の行方
大統領令の発表後の週末には、規制内容をめぐる混乱から、移民専門の弁護士事務所に相談が殺到しました。トランプ大統領は声明で、IT業界がH-1B制度を操作していると非難しており、弁護士たちは今回の手数料は極めて高額だと受け止めています。
米国の移民法に詳しい弁護士ビック・ゴエル氏は、企業はスポンサーとなる人材をこれまで以上に絞り込み、真に事業に不可欠な役割に限ってH-1Bを申請するようになるだろうと話します。その結果、多くの高度人材にとってH-1Bへのアクセスは大きく制限され、企業側の採用行動も変わる可能性があると見ています。
ホワイトハウスがその後、この措置は新規申請にのみ適用され、既存のビザ保有者や更新申請には影響しないと説明するまでの間、インドや中国出身でH-1Bを持つ従業員に対し、米系企業の一部は出張や一時帰国を控えるよう指示したり、日曜までに米国に戻るよう促したりしました。その結果、多くの技術者が旅行計画を急きょ変更せざるをえなかったとされています。
インドIT業界のロビー団体ナスコムは、今回の措置が米国のイノベーション・エコシステムに波紋を広げ、米国内のプロジェクトの継続性を損なうおそれがあると警告しています。コンサルタントの中には、顧客企業が契約価格の見直しやプロジェクト開始時期の延期を求めることにより、案件の成約や立ち上げに時間がかかるようになるとみる声も出ています。
多くの移民弁護士は、今回の措置は近く司法の場で争われると予想しており、今週中にも複数の訴訟が提起される可能性があると述べています。法廷闘争の行方が不透明な中、企業や技術者はしばらく先行きの見えにくい状況に置かれそうです。
アウトソーシング税構想と需要減速という二重苦
インドのIT業界にとって逆風はH-1Bだけではありません。現在、アウトソーシング支払いに対する25パーセントの課税案の行方も注目されています。加えて、インフレ圧力や通商政策の不透明感を背景に、米国企業は必須ではないIT投資を先送りしており、主力市場である米国での売上成長はすでに鈍化しています。
エコノミストの中には、今回のビザ規制強化によって、これまで主に財や関税を巡ってきた世界の貿易とテクノロジーの対立軸に、サービス輸出も本格的に巻き込まれ始めたと見る向きもあります。
GCCと自動化が加速する新しいサービス経済
一方で、今回の動きは米企業のグローバル・ケイパビリティ・センターと呼ばれる海外拠点の拡大を後押しするとの見方が広がっています。GCCは、かつての低コストなバックオフィスから、経営企画や財務、研究開発までを担う高度なイノベーション拠点へと進化してきました。
調査会社の幹部スティーブン・ホール氏は、カナダやメキシコ、中南米など時差の少ない地域での人材配置が一段と進むと指摘します。その上で、インドのGCCも機能とスキルを拡大しながら、企業の戦略的な役割を担う拠点として成長を続けるだろうと述べています。
ナスコムと調査会社ジンノブが昨年公表したレポートによると、インドには世界のGCCの半数以上が集積しており、2030年までに2200社超が拠点を構えると予測されています。市場規模は1000億ドル近くに達し、最大280万人の雇用を生み出す見通しです。
シリコンバレーに拠点を置くアナリストのレイ・ワン氏は、今回のH-1B規制強化により、インドでのGCC拠点と米国内での現地採用が増える一方、アウトソーシング契約やH-1Bの利用、技術者の国境をまたいだ移動は抑制されると予想します。その結果、企業には自動化や人工知能の導入を一段と進める圧力が高まり、サービス産業の経済構造そのものが変わりつつあると指摘しています。
日本とアジアの読者が押さえておきたいポイント
今回のH-1Bビザ規制強化は、一見すると米国とインドの問題に見えますが、グローバルなITサービスと人材の流れが変わることで、日本やアジアの企業にも影響が及ぶ可能性があります。
- インドIT企業の収益構造が変われば、日本企業向けの価格やサービス内容にも波及する余地がある
- GCCの拡大によって、インドやカナダ、中南米の拠点とどう連携するかが、日本企業のグローバル戦略の重要テーマになりうる
- 高度人材の移動が制約されるほど、自動化やAI投資の優先度が世界的に高まり、日本企業も競争環境の変化に備える必要がある
サービス分野における国境を越えた人材移動とデジタル技術の活用を、各国がどうバランスさせていくのか。トランプ政権のH-1Bビザ政策は、その問いを改めて突きつけています。
Reference(s):
Trump's H-1B visa crackdown upends Indian IT industry's playbook
cgtn.com







