AIで野生サケを守る ノルウェー北部で進む新しい外来種対策 video poster
リード:AIが野生アトランティックサーモンを救うか
2025年の今、AIはチャットボットや生成ツールだけでなく、野生生物を守る現場にも入り込みつつあります。ノルウェー北部では、外来種のピンクサーモンから野生のアトランティックサーモンを守るため、AI搭載の魚の選別システムが導入されています。
北ノルウェーのサケ文化と新たな脅威
ノルウェーの遠い北、特にフィンマルク地方では、野生のアトランティックサーモンは単なる魚ではありません。地域のアイデンティティや伝統、経済と深く結びついた存在で、人々はサケへの情熱をラクセフィーバーと呼びます。
しかし近年、この象徴的な魚が侵略的な外来種に脅かされています。1960年代にロシアへ導入された太平洋産のピンクサーモンが、いまやノルウェーの河川へと広がり、産卵場所を奪い合うだけでなく、大量死による水質悪化も引き起こしているのです。
伝統の木製わなからAI魚道へ
ヨーロッパ有数のサケ河川として知られてきたタナ川では、地元の人々が今も筋力と経験を頼りに、巨大な木製のわなを組み上げてサケを捕獲し、在来種と外来種を選り分けています。
一方で、より小さな河川では同じ方法をそのまま適用することは難しく、新しいアプローチが求められていました。そこでフィンマルク地方のベルレヴォーグ狩猟・漁業協会は、Huawei Norwayと協力し、AIを活用した魚の選別システムを開発しました。
この仕組みでは、川を流れる魚が通過するトラップにカメラを設置し、わずか数ミリ秒で映像を解析します。AIは魚の形や模様などの特徴から、野生のアトランティックサーモンか、外来のピンクサーモンかを判定します。
判定結果に応じて、アトランティックサーモンはそのまま上流へ泳ぎ続けられるルートへ、ピンクサーモンは別のタンクへと自動的に振り分けられます。
1シーズンで6000匹以上のピンクサーモンを除去
このAIトラップの効果は、すでに数字として表れています。あるシーズンだけで、1本の川から6000匹以上のピンクサーモンを取り除くことに成功しました。
システムを手がけたHuawei Norwayの最高技術責任者ベガード・シェンネル氏によると、アトランティックサーモンの94パーセントが自動的に選別され、問題なく通過できたといいます。これは、在来種にできるだけストレスを与えず、外来種だけを効率的に捕獲するという目標に向けた大きな前進です。
地元の知恵とテクノロジーの協働
このプロジェクトは、世界的な通信・テクノロジー企業と地域コミュニティの協働によって成り立っています。企業側の技術チームは、地元の漁師たちと肩を並べて作業し、サケの行動特性や川の流れに関する知識を学びながら、装置の形状や設置場所を調整してきました。
単に高性能なAIを投入するだけでなく、サケの本能や長年の経験に根ざした地元の知恵を尊重しながら設計を進めた点が特徴です。こうした取り組みは、環境分野のイニシアチブの一環として位置づけられています。
気候変動と外来種、広がる課題
それでも課題は山積みです。外来のピンクサーモンが入り込んでいる河川は数百にのぼり、全てに対処できているわけではありません。また、気候変動に伴う豪雨や洪水は河川環境を不安定にし、トラップの設置期間を短くしてしまうなど、新たな難しさも生まれています。
それでも、伝統的な漁の技術と、AIをはじめとする最新技術、そして地域に根ざした人々の粘り強い努力を掛け合わせることで、ノルウェーが局面を変えられるのではないかという期待も高まっています。
なぜこの国際ニュースが私たちに関係あるのか
ノルウェー北部の河川で起きていることは、日本を含む多くの国・地域に共通するテーマを映し出しています。
- 外来種と在来種のバランスをどう守るか
- 気候変動が地域の生態系と暮らしにどう影響するか
- AIなどの先端技術を、現場の知恵とどう組み合わせるか
野生のアトランティックサーモンは、地域の人々にとって自分たちの一部のような存在だといいます。そのサケを守るために、漁師とエンジニアが手を取り合うという構図は、これからの環境保護とテクノロジーの関係を考えるうえで示唆に富んでいます。
ラクセフィーバーと呼ばれるサケへの熱い思いが、AIとの協働によって未来へと受け継がれていくのか。ノルウェー発のこの試みは、環境と技術のこれからを考える一つのヒントになりそうです。
Reference(s):
cgtn.com








