ノーベル化学賞2025:立方体の中に広がるMOFの宇宙
2025年のノーベル化学賞は、ほとんどが空間でできた新しい分子構造素材「金属有機構造体(MOF)」の開発に贈られました。気候変動や水不足といった地球規模の課題に挑む、この国際ニュースの意味をやさしく整理します。
2025年ノーベル化学賞、3人の研究者に
スウェーデン王立科学アカデミーは水曜日、2025年のノーベル化学賞を Susumu Kitagawa 氏、Richard Robson 氏、Omar M. Yaghi 氏の3人に授与すると発表しました。受賞理由は、金属有機構造体(MOF)と呼ばれる全く新しい分子アーキテクチャの開発です。
選考委員会は、この成果が気候変動から水不足まで、世界が直面する大きな問題を解決し得る「ゲームチェンジャー」だと評価しています。
MOFとは何か:ほとんどが空間の素材
MOFの特徴は、一見すると固体でありながら、その内部の大部分が「空間」でできていることです。分子レベルで精密に設計された骨組みの中に、無数のトンネルや小さな空洞が広がり、その通路を通ってさまざまな気体や化学物質が出入りします。
この構造のおかげで、MOFはとてつもなく大きな表面積を持つことができます。ノーベル委員会のメンバーは、砂糖キューブほどの小さなMOFのかたまりに、サッカー場一面分に匹敵する表面積が詰め込まれているとたとえました。
ハーマイオニーのバッグのような素材
別の委員は、人気作品ハリー・ポッターに登場する、何でも入るようなハーマイオニーのバッグになぞらえています。外から見ると小さいのに、内側には膨大な空間が隠れていて、そこに多くの物質を蓄えることができるというイメージです。
このような巨大な内部空間こそが、MOFを従来の材料とは一線を画す存在にしています。
気候変動と水不足への具体的なインパクト
MOFの真価は、内部空間を分子レベルで「好きなように設計できる」点にあります。どの物質を捕まえたいのかに応じて構造を変えることで、さまざまな用途に特化した材料を作れるからです。
今回のノーベル賞の発表では、特に次のような応用が強調されています。
- 大気中の二酸化炭素をとらえることで、気候変動対策に貢献すること
- 砂漠のような乾燥した空気から、飲める水を回収すること
- 有毒なガスを安全に貯蔵し、扱いやすくすること
- 水の中から、有害な永続性化学物質(PFAS)や医薬品の痕跡を選択的に除去すること
いずれも、世界中で議論されている気候変動や水資源、安全な飲料水といった課題と直結しています。MOFは、これらの問題に対して、従来よりもエネルギー効率よく、選択的に分子をつかまえたり分離したりできるプラットフォームになり得ると期待されています。
設計された空っぽがひらく新素材の世界
今回の受賞理由の背景には、「空っぽをどうデザインするか」という発想の転換があります。従来の材料開発は、どんな原子や分子をどう組み合わせるかが中心でした。しかしMOFでは、その間に広がる空間そのものを、用途に合わせて設計します。
ノーベル委員会は、MOFが「想像もされていなかった機能を持つ、オーダーメイドの材料」への道を開いたと評価しています。必要な分子だけを選んで通すフィルターのような機能や、特定の物質を一時的にためておく倉庫のような役割など、応用の幅は大きいとされています。
今後の展望:再生可能エネルギーとの組み合わせ
Kitagawa 氏は今後について、MOFと再生可能エネルギーを組み合わせる構想を語っています。具体的には、二酸化炭素や水といった身近な分子を、MOFの内部で選択的に分け取り、再生可能エネルギーを使って有用な物質へと変換するイメージです。
もしこうした技術が実現すれば、排出された二酸化炭素を単に減らすだけでなく、資源として再利用する新しい循環型の仕組みづくりにもつながります。クリーンエネルギーと高度な素材科学を組み合わせることで、気候や資源の問題に対するアプローチそのものを変えていく可能性があります。
この国際ニュースから見える問い
今回のノーベル化学賞は、一見すると専門的な化学の話ですが、その背景には私たちの日常ともつながる問いがあります。見えない分子レベルの構造をどうデザインし、どの課題の解決に優先的に使っていくのかという選択です。
気候変動や水不足のニュースに触れるとき、エネルギー政策や国際交渉だけでなく、材料科学のような基礎研究が静かに支えていることもあわせて思い起こしてみると、ニュースの見え方が少し変わってくるかもしれません。今回の受賞は、立方体ほどの小さな世界の中に、地球規模の課題解決のヒントが詰まっていることを示しています。
Reference(s):
cgtn.com








