NASA、月面着陸船契約を再公募 SpaceX遅延でアルテミス計画に競争導入
NASAが月面着陸船契約をSpaceX単独から複数社の競争入札に切り替えると表明し、アルテミス計画と今後の月面着陸の行方に注目が集まっています。
NASAが月面着陸船契約を「再び競争」に
米航空宇宙局(NASA)のショーン・ダフィー長官代行は、アルテミスIIIで使用する月面着陸船(HLS=Human Landing System)の契約について、現在のSpaceXとの枠組みを見直し、再び入札を開くと発表しました。
ダフィー氏はソーシャルメディア「X」への投稿で、次のように述べています。
- SpaceXはアルテミスIII向けHLSの契約者である
- ただし「競争」と「イノベーション」こそが宇宙での優位性の鍵
- NASAはHLSの生産をBlue Originなど他の米企業にも開放する
これにより、月面着陸船の開発競争にBlue Originをはじめとする複数企業が参加する道が開かれることになります。
アルテミス計画とHLS:何を目指すミッションか
アルテミス計画は、月に人類の長期的な滞在拠点を築き、将来の火星探査につなげることを目指すNASAの有人探査プログラムです。その中核となるのが、月面着陸船HLSです。
NASAによると、HLSは次のような役割を担います。
- 月周回軌道で宇宙船から飛行士を受け入れる
- 月面へ降下し、飛行士が地質サンプル採取や科学実験を行う場を提供する
- 任務終了後、飛行士を再び月周回軌道まで送り返す
アルテミスIIIは、1972年以来となる有人月面着陸ミッションと位置付けられており、その成否は今後数十年の月・火星探査の方向性を左右すると見られています。
SpaceXの遅延とトランプ政権の時間軸
ダフィー氏は米メディアのインタビューで、SpaceXについて「素晴らしい仕事をしているが、スケジュールに遅れが出ている」とコメントしました。詳細な理由には触れていないものの、この遅延が契約再公募の背景にあると受け止められます。
さらに、ダフィー氏は、ドナルド・トランプ米大統領が自身の任期が終わる2029年1月までに月面着陸が実現することを望んでいる、と説明しました。政治的なタイムリミットも、NASAにとってスケジュール遵守のプレッシャーとなっています。
SpaceXの反応:「稲妻のようなスピード」
SpaceXの創業者兼CEOであるイーロン・マスク氏は、NASAの方針転換を受けてXに投稿し、自社の動きを次のように強調しました。
- SpaceXは「宇宙産業の他の企業と比べれば稲妻のようなスピード」で動いている
- 最終的には「スターシップが月ミッション全体を担うことになる」と主張
NASAが競争環境を整えようとする一方で、SpaceXは依然としてアルテミス計画における中核的プレーヤーであるとの自信を崩していない様子がうかがえます。
アルテミスII:次の有人月周回ミッションの準備
アルテミスIIIに先立ち、NASAは次の有人月周回ミッションであるアルテミスIIの準備も進めています。ダフィー氏によると、アルテミスIIに必要な最後の主要ハードウェアの取り付けが完了しました。
月周回を担う宇宙船オリオンは「Integrity(インテグリティ)」と命名され、すでに巨大ロケットSLS(Space Launch System)に完全に接続されたとしています。
NASAは今年12月にアルテミス計画のタイムラインを見直し、次のような目標時期を示しました。
- アルテミスII:2026年4月に月周回の有人飛行を実施
- アルテミスIII:2027年半ばに月南極付近の探査と有人着陸を実施
このスケジュールを守るには、HLSを含む各種ハードウェアの開発と試験を着実に進める必要があります。
SpaceX契約の条件:無人デモ飛行が必須
NASAはすでに、SpaceXに対しスターシップをベースとしたHLSの開発契約を与えています。この契約の条件として、有人ミッションの前に無人デモ飛行を1回行うことが求められています。
無人デモ飛行は、安全性やシステムの信頼性を確認する上で重要なステップです。スケジュールがタイトになる中で、このデモ飛行をいつ、どのような形で行うのかも、今後の注目ポイントとなります。
Blue Originなど他企業の存在感
NASAのアルテミス計画には、SpaceX以外にも複数の企業が関わっています。今回、HLSの再公募先として名指しされたBlue Originに加え、ボーイング、ロッキード・マーティン、ノースロップ・グラマンなども主要な契約企業として名前が挙がっています。
ダフィー氏が強調した「競争」と「イノベーション」を実現するには、複数企業がそれぞれの強みを持ち寄ることが不可欠です。月面着陸船の設計や運用方式が企業ごとに異なれば、NASAにとってはリスク分散や技術比較の機会にもなります。
なぜ契約再公募が重要なのか
今回のHLS契約再公募には、少なくとも3つの意味がありそうです。
- スケジュールリスクの軽減:SpaceXの遅延に備え、予備となる選択肢を確保することで、アルテミスIII全体の遅れを抑えたい思惑があります。
- 技術的な多様性の確保:複数企業が競うことで、異なる設計思想や技術が生まれ、結果としてより安全で高性能なシステムが選ばれる可能性があります。
- 長期的な宇宙産業基盤の強化:月や火星への探査を長期的に続けるには、一社依存ではなく、複数社が継続的に技術と設備を維持できる産業構造が必要になります。
こうした点から、HLS契約の再公募は単なる企業選びではなく、今後数十年にわたる米国の有人宇宙探査戦略を形づくる一歩とも言えます。
これからの焦点:月面着陸までの数年をどう走り切るか
今後数年の主な焦点は、次のような点になりそうです。
- HLSの新たな入札プロセスにどの企業が参加し、どのような提案が出てくるか
- SpaceXによる無人デモ飛行がいつ実施されるか
- アルテミスII・IIIの打ち上げ目標(2026年4月、2027年半ば)を守れるか
- トランプ政権の任期内(2029年1月まで)に有人月面着陸を実現できるか
アルテミス計画は、単なる「再び月へ行く」プロジェクトではなく、人類が月と火星へと生活圏を広げていくための長距離ランのスタート地点です。NASAが競争と協調のバランスをどう取るのか、SpaceXやBlue Originなど企業の動きとあわせて、今後も注視していく必要があります。
Reference(s):
NASA to reopen lunar lander contract as SpaceX falls behind schedule
cgtn.com








