米国で遺伝子編集ブタ腎臓移植の大規模臨床試験が始動
米国でブタ腎臓移植の臨床試験が本格スタート
米バイオ企業ユナイテッド・セラピューティクスは、遺伝子編集したブタの腎臓を人に移植する臨床試験で、最初の移植手術をニューヨーク大学ランゴン・ヘルス(NYU Langone Health)で実施したと発表しました。これは、米食品医薬品局(FDA)が承認した初の大規模な遺伝子編集ブタ腎臓の臨床試験で、世界的な腎臓不足の解消に向けた新たな一歩と位置づけられています。
今回の研究は、末期腎不全の患者を対象に、ブタから人への臓器移植である異種移植(xenotransplantation)の安全性と有効性を体系的に検証することを目的としています。
臨床試験の仕組みと対象患者
この臨床試験では、当初は2つの移植センターで手術を行い、まず6人の参加者を登録する計画です。将来的には、条件を満たせば参加者をおよそ50人まで段階的に拡大する可能性も示されています。
参加条件とフォローアップ
試験のプロトコルによると、参加者は次のような条件を満たす人たちです。
- 年齢が55〜70歳
- 末期腎不全と診断されている
- 少なくとも6か月以上、透析治療を受けている
ブタ腎臓の移植を受けた後、参加者は主に次の点について評価されます。
- 腎機能の回復や維持の程度
- 生存率
- 生活の質の変化
- 安全性指標(拒絶反応や合併症など)
術後24週間にわたり詳細なフォローアップが行われ、その後も長期的に経過観察が続きます。特に、ブタから人へ移る可能性がある動物由来感染症(人獣共通感染症)のリスクについても慎重に監視されます。
安全性評価のプロセス
最初の移植手術が完了してから少なくとも12週間が経過した段階で、独立したデータモニタリング委員会が安全性と有効性のデータを評価します。その結果を踏まえ、試験を次の段階に進めるかどうかが判断される仕組みです。
10か所の遺伝子改変を施したブタ腎臓
ユナイテッド・セラピューティクスによると、今回使用されるブタ腎臓には合計10か所の遺伝子改変が施されています。目的は、ブタの臓器が人の免疫システムから激しい拒絶反応を受けにくくし、人への適合性を高めることです。
具体的には、
- 人の拒絶反応を引き起こす恐れのある4つのブタの遺伝子を「ノックアウト(機能停止)」
- 人の免疫とのなじみを良くするための6つのヒト遺伝子を追加
といった改変が行われています。これにより、移植されたブタ腎臓が人の体内でより長く、安定して働くことが期待されています。
なぜブタの臓器なのか:異種移植の背景
世界の腎臓移植は、必要とされる件数の一部しかまかなえていないとされ、多くの患者が移植を待ちながら長期の透析治療を続けています。こうした状況から、新たな臓器供給源の確保は国際的な課題になっています。
ブタの臓器が異種移植の候補として重視される理由として、
- 人間の臓器と構造や生理機能が比較的似ている
- 飼育や増産が比較的容易で、安定した供給が見込める
といった点が挙げられます。一方で、動物と人の種をまたぐ移植には、免疫拒絶や感染症などさまざまなリスクと技術的な課題も伴います。
これまでの個別症例:米国と中国の動き
今回の大規模臨床試験に先立ち、米国ではFDAのコンパッショネートユース(重篤な患者に例外的に未承認治療を認める枠組み)のもとで、個別のブタ腎臓移植が行われてきました。
今年1月には、米マサチューセッツ総合病院(Massachusetts General Hospital)が遺伝子編集ブタ腎臓の移植手術を実施し、その腎臓はおよそ9か月にわたり患者の体内で機能しました。この症例では、10月に移植腎の機能低下が進んだため摘出され、患者は現在、透析治療に戻っていますが、同種の試みとしては最長記録とされています。
また今年3月には、中国の空軍軍医大学・西京病院の医療チームが、尿毒症の患者に遺伝子工学を用いて作製したブタ腎臓を移植することに成功したと報告しています。異種移植は米国だけでなく、アジアでも研究と臨床応用に向けた動きが加速していることがうかがえます。
移植医療の「転換点」になるか
NYUランゴン移植研究所のロバート・モンゴメリー所長は、今回の臨床研究について、移植医療における重要な転換点だと述べ、異種移植が世界的な臓器不足を和らげる新たな道になり得るとの見方を示しています。
一方で、
- 長期的な臓器機能がどこまで維持できるのか
- 遅れて起こる拒絶反応や合併症のリスク
- 動物由来感染症を社会全体としてどう管理するか
といった課題は、いずれも慎重な検証が必要です。今回の大規模臨床試験で得られるデータは、ブタ腎臓移植が今後、どこまで一般的な治療選択肢に近づけるのかを占う重要な材料となりそうです。
日本を含む多くの国や地域で腎臓不足は共通の問題となっています。米国や中国の最新の試みは、将来、透析に頼らない治療の選択肢を広げる可能性を示す動きとして、今後も国際ニュースとして注目が続きそうです。
Reference(s):
Clinical trial of pig kidney transplants gets underway in U.S.
cgtn.com








