スイスの地下要塞で月面を再現 学生主導のアナログ宇宙飛行士訓練 video poster
スイス・アルプスの地下要塞で、世界各地から集まった学生たちが月面ミッションを本気でシミュレーションしています。 地上で行うアナログ宇宙ミッションは、月や火星を目指す次世代の宇宙飛行士やエンジニアを鍛える新しい国際ニュースの現場になりつつあります。
スイスの地下で進む「月面ミッション」
スイスのアルプスの麓にあるサッソ・サン・ゴッタルド要塞は、かつての軍事拠点として造られた地下施設です。長く続く石造りのトンネルが張り巡らされたこの空間は、月に存在するとされる溶岩トンネルを思わせる環境です。
ここで今年実施されたのが、学生主導の第5回アスクレピオスミッションです。世界中から選ばれた9人の若いアナログ宇宙飛行士が、この地下要塞にこもり、月面基地を想定したミッションを遂行します。科学番組 RAZOR の取材でレイア・エルサラヒ氏が現地を訪れ、このユニークな訓練の様子を伝えました。
アナログ宇宙ミッションとは何か
アナログ宇宙ミッションとは、実際の宇宙に行かずに、地上で宇宙探査を本格的にシミュレーションする取り組みです。砂漠、極地、洞窟、海底など、環境が厳しい場所を選び、そこで宇宙基地を運用するような訓練と実験を行います。
今回のアスクレピオスミッションも、そうしたアナログ宇宙ミッションの一つです。地球上ならではの安全性とコストの低さを生かしつつ、以下のようなポイントを検証することができます。
- 宇宙飛行士やクルーの行動手順や役割分担は適切か
- 限られた資源と空間での生活・仕事のやり方は現実的か
- 開発中の機器や実験方法は、過酷な環境でも機能するか
国際ニュースとしても、こうしたアナログミッションは、各国がどのように宇宙開発と人材育成を進めているかを読み解く手がかりになります。
9人の若きアナログ宇宙飛行士たち
アスクレピオスミッションに参加するのは、理工系や医学などを学ぶ9人の学生です。出身国も専門も異なる彼らが、一つの「月面クルー」として一定期間生活を共にします。
彼らの日常は、次のような要素で構成されています。
- 厳しい運用訓練 通信手順や緊急時対応といった運用ルールに従い、実際の宇宙基地さながらの運営を行います。
- 孤立環境での生活 外部との接触を制限された閉ざされた空間で、限られた物資と時間の中で生活します。心理的なストレスへの向き合い方も重要なテーマです。
- 科学実験の実施 地質や生物、工学などに関する実験を行い、極限環境下での科学研究のあり方を探ります。
こうした経験は、宇宙飛行士だけでなく、極地観測、深海探査、大規模災害現場といった「極限の現場」で働く将来の専門家にとっても貴重な訓練になります。
なぜ月の溶岩トンネルを再現するのか
近年、月の地下には古い火山活動によってできた溶岩トンネルが存在する可能性が指摘されています。厚い岩盤に守られたトンネル内部は、宇宙放射線や小さな隕石から身を守りやすく、気温も比較的安定しやすいと考えられています。
そのため、溶岩トンネルは「将来の月面基地の有力候補地」として注目されています。サッソ・サン・ゴッタルド要塞の長い石造りトンネルは、この溶岩トンネルの雰囲気を地上で再現するのに適しているのです。
地下要塞でのアナログミッションを通じて、研究者たちは次のような問いに取り組みます。
- 地下空間での照明や居住区の設計はどうあるべきか
- 限られた空間でクルー同士の距離感やプライバシーをどう確保するか
- ロボットや自律システムをどこまで活用できるか
これらは、将来の月面基地だけでなく、地上の地下施設や閉鎖環境での暮らし方を考えるうえでも、示唆に富んだテーマです。
月と火星への現実的な一歩として
2025年現在、人類は再び月へ向かい、その先の火星を目指す長期的なビジョンを描いています。しかし、ロケットを飛ばすこと以上に難しいのは、「人がそこでどう生き、働き続けるか」という問題です。
アナログ宇宙ミッションは、その答えを探るための現実的な一歩です。例えば次のような知見が得られます。
- チームワークと意思決定 国籍も専門も異なるメンバーが、限られた情報の中でどう合意形成し、素早く判断するか。
- 機器や手順の改善 実際に使ってみて初めて分かる不便さやリスクを洗い出し、宇宙用システムの改良につなげること。
- 若手人材の育成 教科書では学べない「極限環境のリアル」を、学生のうちから体験してもらうこと。
こうした積み重ねが、人類が月や火星で持続的に活動するための基盤になっていきます。国際協力を前提とした宇宙開発の時代において、学生主導のアスクレピオスのようなプロジェクトは、小さいながらも意味のあるステップと言えます。
私たちの働き方・学び方にもつながる視点
一見すると遠い世界の話に思えるアナログ宇宙ミッションですが、そのテーマは私たちの日常ともつながっています。
- リモートワークや長時間のオンライン会議が当たり前になった今、距離を超えて協働するスキル
- 限られた時間と資源の中で成果を出すプロジェクト運営の考え方
- 文化や専門の異なるメンバーとチームを組むときのコミュニケーション
地下要塞でのミッションに挑む9人の学生たちは、まさにこうした課題に向き合いながら、未来の宇宙だけでなく、これからの地球社会に必要な力も磨いていると言えるでしょう。
スイスの地下要塞で行われたアスクレピオスミッションは、あくまで「地上の実験」に過ぎません。しかし、その舞台裏には、数十年後の月面や火星での暮らし方を左右するかもしれない試行錯誤が詰まっています。明日の宇宙飛行士を育てるこうした挑戦から、私たちも「これからの働き方や学び方」を静かに見つめ直すヒントを得られるのではないでしょうか。
Reference(s):
RAZOR: The analog mission training the astronauts of tomorrow
cgtn.com








