土の中の隠れたヒーロー菌類 森と気候を支える見えないネットワーク video poster
足元の土の中には、目に見えない菌類のネットワークが広がり、森や農地、そして地球の気候を静かに支えています。しかし今、その菌類が危機にさらされていることをご存じでしょうか。
科学番組「RAZOR」の取材で、ガブリエル・ローレンス氏はスコットランドの森へ向かい、菌類の専門家チーム「Rhizocore」とともに「菌類ハンティング」を行いました。目的は、失われつつある菌類の多様性を守りながら、木々を救う新しい仕組みを探ることです。
地下に広がる「隠れたインフラ」菌類ネットワーク
私たちが立っている場所のすぐ下には、膨大な菌類のネットワークが存在します。多くは植物の根と共生しており、細い糸のような菌糸(きんし)が土の中を縦横無尽に走っています。
この菌類ネットワークは、次のような役割を担っています。
- 植物の根から届かない場所の水や栄養分を集めて、植物に届ける
- 落ち葉や枯れ木を分解し、栄養を再び土へと戻す
- 二酸化炭素(CO2)を有機物として土壌に閉じ込め、長期的な炭素の貯蔵庫にする
研究者たちは、こうした菌類と植物のパートナーシップこそが、かつて植物が海から陸へ進出できた最大の理由だったと考えています。言い換えれば、菌類がいなければ、今のような陸上の生態系は生まれていなかった可能性が高いのです。
静かに進む「菌類の危機」
ところが近年、この見えないネットワークが世界各地で傷ついています。森の伐採や農地開発、都市化の拡大などによる生息地の喪失、そして集約的な土地利用による土壌の劣化が進んでいるからです。
その結果、多くの菌類が姿を消しつつあるとみられています。専門家の中には「動物よりも速いペースで菌類の種が失われている」と警鐘を鳴らす人もいます。しかし、菌類は地上からはほとんど見えないため、その変化はニュースになりにくく、危機が見過ごされがちです。
スコットランドの森で「菌類ハンティング」
こうした中、スコットランドではRhizocoreの菌類研究チームが、失われつつある菌類の多様性を記録し、守ろうとしています。ローレンス氏は彼らに同行し、森の中でさまざまな菌類を探しました。
調査では、地表に現れるキノコだけでなく、土を採取して顕微鏡やDNA解析で見分ける微細な菌類も対象になります。どの木の根に、どの種類の菌類が結びついているのかを調べることで、その森ならではの「地下のつながり」が少しずつ見えてきます。
チームにとって重要なのは、こうしたデータを集めるだけでなく、そこで見つかった菌類を将来に残すことです。スコットランドの森ごとに固有の菌類を記録し、保存することで、森が傷ついたときに「元の姿に戻す」ための手がかりにしようとしているのです。
菌類で木を救う Rhizocoreの狙い
Rhizocoreのミッションは、希少になりつつある菌類を守りながら、それを活用して木を救う「ソリューション」をつくることです。
具体的には、健康な森から採取した土壌や菌類をもとに、その土地に適した共生菌を見つけ出し、新たに植える苗木の根と組み合わせることを目指しています。苗木が最初からパートナーとなる菌類とともに育つことで、
- 乾燥や低栄養の土壌にも耐えやすくなる
- 病気や環境ストレスへの抵抗力が高まる
- 成長スピードが安定し、植林の成功率が上がる
といった効果が期待されています。単に木を植えるだけでなく、「地下の菌類ネットワークごと森を再生する」という発想は、今後の森林再生や気候変動対策の一つの方向性として注目されています。
なぜ今、菌類に注目する必要があるのか
菌類は、目立つ存在ではありません。しかし、土壌の健康、森林の回復力、そして長期的な炭素の貯蔵という点で、地球環境の「縁の下の力持ち」といえる存在です。
今回のスコットランドでの取り組みは、次のような問いを私たちに投げかけています。
- 森林再生や植林を語るとき、「木の本数」だけでなく「土と菌類」の質にも目を向けているか
- 環境保全の議論で、動物や植物だけでなく、菌類という第三の主役をきちんと位置づけているか
- 都市に暮らす私たちも、土壌や菌類の重要性を日常の選択(消費、投資、政策への関心)に反映できるか
足元の土の中で起きている変化は、一見すると遠い世界の話に思えるかもしれません。しかし、そこで静かに働く菌類のネットワークは、食卓にのぼる農作物から、気候変動の行方まで、私たちの日常と深く結びついています。
次に森や公園を歩くとき、地面の下に広がる「見えないインフラ」にも、少し思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
Reference(s):
cgtn.com








