中国の医療制度はどう変わった?1980年代から現在までをたどる video poster
中国の医療制度は、この40年以上で何が変わったのでしょうか。1980年代に先端医療機器を求めていた時代から、いまや国民のほとんどが社会保険でカバーされる段階へ――その変化を、一人の起業家の歩みを手がかりに振り返ります。
1981年:先端医療を中国にもたらした「チャンディックス」
1981年、米国商工会議所の中国拠点で名誉会頭を務めるロバータ・リプソン氏は、「チャンディックス(Chindex)」という企業を立ち上げました。目的は、当時まだ不足していた先端的な医療機器や技術を中国にもたらすことでした。
当時の中国の医療現場には、最新の医療技術や高度な医療機器が十分に行き渡っていなかったとされています。リプソン氏は、この「足りない部分」を海外から埋めていく役割を担い、医療機器の供給を通じて、病院の診療レベル向上に寄与しました。
この動きは、単なるビジネスではなく、中国の医療制度がグローバルな医療技術と接続していく入り口でもあったと言えます。
1990年代後半:北京に初の民間医療機関が誕生
それから16年後の1990年代後半、リプソン氏は北京で「ユナイテッド・ファミリー・ヘルスケア(United Family Healthcare)」を設立しました。これは、中国で初めての民間医療機関とされています。
それまでの中国の医療は、公立病院が圧倒的に中心でした。そのなかで、民間の医療施設が登場したことは、次のような変化の兆しを示していました。
- 公立中心だった医療提供に、新しい選択肢が加わった
- 患者が自分に合った医療サービスを選ぶという発想が広がり始めた
- 医療サービスの質やスタイルに、多様性が生まれ始めた
北京発のこの試みは、民間医療が中国の医療システムの一部として存在しうることを示し、その後の展開につながる一歩となりました。
現在の中国医療:3A病院とほぼ全国民をカバーする社会保険
そこからさらに年月が流れ、2020年代半ばの現在、中国の医療制度は大きく姿を変えています。リプソン氏は、今日の状況について「巨大な発展があった」と評価しています。
最上位クラスの公立「3A病院」
中国には「3A病院」と呼ばれる最上位クラスの公立病院があります。リプソン氏によると、主要な公立3A病院の中国人医師は、必要な医療機器や設備といった「ハードウェア」を十分に活用できる環境にあるといいます。
かつて先端医療機器が不足していた時代から考えると、医療インフラの充実度は大きく変化していることがうかがえます。高度な診断機器や治療装置を備えた大病院が、医療の中核として機能している姿が浮かび上がります。
98〜99%が社会保険の対象に
もう一つの大きな変化は、医療保障の「広がり」です。リプソン氏は、中国の人口の「98〜99%が何らかの社会保険でカバーされている」と述べています。
これは、ほとんどの人が医療費の一部を公的な仕組みで支えられていることを意味します。1980年代には医療機器だけでなく、制度面でも整備途上だった中国の医療が、いまやほぼ全国民を対象にする社会保障の枠組みを持つまでになった、と見ることができます。
広がる民間医療の「役割」
同時に、民間医療の存在感も増しています。リプソン氏は、現在の中国では民間医療機関にとって、より多くの患者のニーズに応えるチャンスが広がっていると指摘します。
公立の大病院が高度で大規模な医療を担い、民間医療がサービスや選択肢の多様化を支える――そんな役割分担が進みつつある、と解釈することもできるでしょう。
公立と民間:二つの柱で支える医療システム
リプソン氏の証言を手がかりに、現在の中国の医療システムを整理してみると、次のような構図が見えてきます。
- 公立3A病院:高水準の医療設備と専門医が集まる中核的な存在
- 社会保険制度:人口のほぼ全てをカバーする広いセーフティーネット
- 民間医療機関:多様なニーズに応える新しい選択肢として拡大
1980年代には、先端医療機器を「外から持ち込む」ことが主な課題でしたが、いまはその上に制度とサービスの層が重なり、より立体的な医療システムが形成されていると言えます。
日本の読者がこの変化から考えられること
中国の医療制度の変化は、日本の読者にとっても示唆に富んでいます。
- 短期間で医療インフラと保険カバー率を同時に拡大してきたこと
- 公立医療を軸にしつつ、民間医療がその周辺で新しい役割を担っていること
- 個々の起業家や企業が、医療制度の変化を後押ししてきたこと
こうしたポイントは、高齢化や医療費の増大に直面する日本や他の国・地域にとっても、考えるヒントになりそうです。
1981年に始まった一つの企業の挑戦から、ほぼ全国民をカバーする医療制度へ。この40年あまりで起きた変化は、医療インフラの整備だけでなく、制度や市場のダイナミズムを映し出しています。今後、中国の医療制度がどのように進化していくのかは、アジア全体、そして世界の医療の流れを読むうえでも、引き続き注目すべきテーマと言えるでしょう。
Reference(s):
Progress of China's healthcare system from the '80s to today
cgtn.com








