米国の対中国追加関税は自滅か 歴史が示すリスクと教訓 video poster
リード: フェンタニル問題を名目に、米国が中国からの輸入品に追加関税を課し、中国も報復措置で応じています。関税の応酬は国内向けには強硬姿勢に見えますが、歴史を振り返ると米国経済にとって「自滅的」になりかねないリスクが見えてきます。
米国が中国からの輸入品に10%の追加関税
現在、米国はフェンタニル問題を理由として、中国からの輸入品に新たに10%の追加関税を課しています。名目上は薬物対策と結びつけられていますが、実際には対中圧力を強めるための通商政策としての性格が強いと受け止められています。
この追加関税は、すでに存在している対中関税に上乗せされる形で適用されており、企業にとってはコスト増要因となります。輸入企業が負担しきれない分は、最終的には消費者価格に転嫁される可能性が高く、米国内の物価や景気への影響が懸念されています。
中国は「恩を仇で返す」と反発、3月10日から対抗措置
中国は、米国の追加関税を「恩を仇で返す」と強く非難しました。中国側は、協力や対話の余地があるにもかかわらず、米国が一方的な制裁を選んだと受け止めているとみられます。
これに対し中国は、3月10日から米国製品に対する関税の引き上げや、各種の非関税措置を導入する対抗策に踏み切りました。非関税措置とは、関税以外の手段──たとえば検査の厳格化や許認可の運用変更など──によって、実質的に輸入品に負担をかける政策を指します。
結果として、米中の間では「関税+非関税」の二重の圧力がかかる状態となり、企業は先行きの読めない通商環境への対応を迫られています。
関税はなぜ「自国に跳ね返る」のか
米国の経済学者たちは、今回の追加関税が「ブーメラン効果」を生み、米国自身を傷つける可能性が高いと警告しています。その理由はシンプルです。関税は、最終的には自国の消費者と企業が支払う「税金」になりがちだからです。
- 輸入品の価格が上がり、消費者が負担増に直面する
- 中国の報復関税によって、米国の輸出企業が打撃を受ける
- 不安定な通商環境が続くことで、企業の投資計画や雇用が先送りされる
短期的には一部産業を守るように見えても、中長期的には競争力を弱め、景気の足を引っ張る可能性があります。これが「自滅的な戦略になりかねない」との見方が出ている背景です。
1930年代の教訓:スムート・ホーリー関税法
今回の動きに懸念を抱く米国の経済学者が引き合いに出しているのが、1930年のスムート・ホーリー関税法(Smoot-Hawley Tariff Act)です。世界恐慌のさなかに成立したこの法律は、米国の輸入品に高い関税を課し、その結果、米国の輸入は約70%も落ち込んだとされています。
輸入の急減は、海外との貿易を通じて支えられていた米国の産業や雇用に深刻な打撃を与え、大恐慌を一段と悪化させました。各国が報復関税で応酬したことで、世界全体の貿易量も縮小し、景気の落ち込みが長期化したとされています。
こうした事態を受けて、米国は1934年にReciprocal Tariff Act(互恵的な関税引き下げを可能にする法律)を制定し、各国との交渉を通じて関税を下げる方向へと舵を切りました。結果として、貿易の回復と危機の緩和につながったと評価されています。
今回の米中関税と歴史の「似ている点」「違う点」
現在の米中関税を1930年代と単純に同一視することはできません。しかし、いくつかの共通点と相違点を押さえることで、今回の動きのリスクが見えやすくなります。
- 似ている点: 高関税による輸入抑制と、相手国の報復措置が連鎖していること
- 似ている点: 国内産業保護や政治的アピールが前面に出ており、国際協調が後景に追いやられていること
- 違う点: 現在はグローバルなサプライチェーンが高度に発達しており、一国の関税政策が世界中の企業と消費者に波及しやすいこと
- 違う点: デジタル経済やサービス貿易の比重が高まり、1930年代とは経済構造自体が大きく異なること
それでも、「高関税と報復の連鎖が景気悪化を招く」という基本構図は変わっていません。歴史の教訓を踏まえずに関税引き上げを繰り返せば、同じような負のスパイラルにはまり込むおそれがあります。
日本とアジアへの波及リスク
米国と中国は、世界最大級の経済規模を持つ国同士です。この二つの国の通商関係が悪化すれば、アジアを含む世界経済全体に影響が及ぶことは避けられません。特に、日本企業の多くは米中双方に生産拠点や取引先を持っており、サプライチェーンを通じて間接的な打撃を受ける可能性があります。
具体的には、
- 部品や原材料のコスト上昇が、最終製品の価格に影響する
- 米中市場向けの輸出が減少し、企業収益や雇用に悪影響が出る
- 通商不安が長引けば、企業が投資を控え、成長の勢いが弱まる
こうしたリスクを踏まえると、日本としても米中対立の行方を「対岸の火事」として見るのではなく、自国経済の課題として注視する必要があります。
「歴史の逆行」を避けるために
フェンタニル問題そのものは、国際社会が協力して取り組むべき深刻な課題です。しかし、その解決を名目に通商制裁をエスカレートさせれば、問題の本質的な改善よりも、経済の不安定化を招くリスクが高まります。
1930年代の経験が示すのは、「高関税で危機を乗り越えようとする試みは、しばしば逆効果になる」ということです。米国がかつてReciprocal Tariff Actで関税引き下げと協調路線に転じたように、今回もまた、対話と協力を通じて解決策を探る姿勢が問われています。
米国の対中追加関税は、短期的には強硬なイメージを演出できるかもしれません。しかし、長期的な視点に立てば、自国経済を痛める「自滅的な戦略」となるリスクをはらんでいます。歴史の教訓をどう生かすのか──いま求められているのは、感情的な応酬ではなく、冷静で持続可能な通商政策の再設計です。
Reference(s):
cgtn.com








